新たなる砦
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そうしてついに、ハルラ山を抜けた。本当に長い道のりだった。今度は安堵の息を吐いた。街が近くなってきて、遠くに城が見えた。
オーランド帝国の王都は要塞都市とも呼ばれるガロランド。灰色の建物が多い街だ。高い建物はあまりなく、王城とその周りを囲う分厚い壁、ペルリア聖堂教会くらいだ。
城で働く兵士が多く住んでいて、犯罪は少ない。何かあればすぐにでも非番の兵士が駆けつけるからだ。むしろ、兵士に会わずに生活する方が難しい。酒場や繁華街には常に非番の兵士がいるものだ。
やがて、城の姿ははっきりと見えてきた。
ノストラダム宮殿は灰色の壁に囲まれていて、その壁は分厚く、上の部分には銃やら剣やらを持った兵士が立っている。厚さ二メートル越えの壁だ。何があっても破壊されることはないだろう。
鉄でできた重い扉の正門は北にあって、国花であるブルーローズが左右対称の花弁を咲かせて描かれている。そんな扉は二枚で作られているため真ん中が開くタイプで、扉が開けばブルーローズもまた二つに分かれる。
さらに、扉の前には常に四人の兵士が盾と剣を持って立っている。彼らの横には松明が置かれているから、夜も誰かしらいるのだろう。
「確かに、要塞都市という名は相応しいわね」
城自体は異様なほど真白で、真ん中の部分だけが高く突出している。そこだけが塔のようにも見える。
突出している部分の二階辺りの部屋は王などが演説を行えるよう、これまた白いバルコニーがある。あそこから高らかに何かを宣言すれば、国民は王を強くかっこいい人だと思うことだろう。
そして、国民が騒がぬよう裏門から入るため辺りをぐるりと回っている時に気がついた。
先程は門番のためかと思っていた松明が、城を囲う壁の周りと壁の上の全ての部分にあったのだ。
「何のためかしら……?」
あとでヴィルヘイム王子に聞いてみようかしら。
そう考えているうちに、裏門へと辿り着いた。裏門は森の近くだ。当然ではあるけれど、ここにもまた兵士がいる。
「皆さま、ノストラダム宮殿へようこそ」
馬車を降りると、リアム国王が両手を広げてそう言った。
「長旅ゆえお疲れでしょう。我が国の執事が案内しますので、ひとまずお部屋へどうぞ」
そう言うリアム国王はこの一週間ほどであの山を往復したことになるのに、一切疲れを感じさせない。
「アグリア様、こちらへどうぞ」
近づいてきたメイドの後を追って、私とセイラは歩き出した。メイドの名はカミラだそうだ。
見れば、アランもまた自分の部屋へと急いでいた。
私は来賓用ではなく、王女としての部屋へ連れて行かれた。クリスティア宮殿で借りていた部屋よりも、自分が住んでいた貴族としての城の部屋よりも広い。
「王女となると、こんなにも良い部屋なのね」
部屋には廊下へ出るための扉のほかにもう一つ扉があった。
カミラに聞けば、「そちらの扉を開きますと、アグリア様とヴィルヘイム王子が共有いたします寝室へと繋がります」とのこと。
まあ、結婚すれば、寝床は一緒、よね。
「寝室の向こう側、つまりこの部屋の二つ隣がヴィルヘイム王子の部屋となっております」
「そう……待って」
「何でございましょうか」
「それって、寝室から互いの部屋へ出入りできるってことよね?」
「そのことなのですが、ひとつお願いしなければならないことがございます。扉の隣にございます小さな扉を開きますと物を入れる四角い隙間があるのですが、そちらに鳥籠の形をした物がございます」
私が頷くと、セイラが行って小さな扉を開けた。確かに、銀とも金とも言えぬ色の鳥籠がある。
「そちらの鳥籠の中に、異能を用いた何かを入れていただきたいのです。ヴィルヘイム王子の部屋にも同じ物がございまして、そちらの鳥籠には異能により生み出した消えない炎が入れられております」
ふむ。
私はひとまず異能で小さな薔薇を作った。それを受け取ったカミラは、鳥籠を丁寧に開けると薔薇を入れた。そして鳥籠を締めると、ガチリ、と硬い音がした。
「これで、アグリア様が生きている間はこの鳥籠は開きません。この鳥籠の中身を攻撃することも不可能です」
「何のためにこんな仕掛けを?」
「こうすることで、部屋の行き来を制限できるのです。寝室からこちらの部屋に入れるのは異能の持ち主であるアグリア様のみとなり、また、寝室からヴィルヘイム王子の部屋へ入れるのはヴィルヘイム王子のみです。他の誰かが入る場合は、どの部屋も、それぞれ廊下から入るしかないのです」
なるほど。
万が一、王女が王子の部屋に勝手に入って機密情報を見てはいけないし、悪用してもいけない。
逆に言えば王子が王女の部屋に勝手に入って気分を害することもしてはいけない。王子が国を継ぐ以上物事の決定権は王子にあると言っても良い。けれど王子の好みで王女が貶められて婚約破棄、なんてなってはいけないからだ。そうでなくとも女性は妊娠する。そう言う時に自室に勝手に入られたりしたら気分は最悪だ。
互いの部屋へ入るには、正面から行くしかない、と。
多分、過去に事件があったからこういったカラクリを作ったのだろう。けれども悪くない仕掛けだ。
王女になっても、自分の時間は欲しいし、アランとの会話を聞かれると困る時もある。何せ私と彼は主人と暗殺者という関係だ。もしかしたら、この国にはマイナスのことをするかもしれない。
「三十分ほどお時間がございますので、少し休憩をされるとよろしいかと思われます。お時間が経ちましたらもう一度参りますので、そしたら式の準備を始めさせていただきます」
そうしてカミラは部屋を出た。
残された私とセイラはそれぞれソファに座り、息を吐く。
室内にはベッドと机、窓、ソファ、鏡、タンスなどがある。どれも高級な家具だ。寝室があるのにベッドがあるのは多分、具合が悪い時や妊娠中などに一人でゆっくり眠れるようにだろう。
「セイラ」
「はい」
「新しい砦は気に入ったかしら?」
笑いながらそう聞いた。
「はい。アグリアお嬢様はいかがですか?」
その問いは、愚問だった。
「もちろん、気に入ったわ」
最強ともいえる軍隊を誇る国の、要塞都市。
その中心、ノストラダム宮殿が私の新たな家。
──これからの人生を思うと、心が、高鳴った。
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