王子と王女
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それにしても最近暑いっすね。
会場を出たレオハルトは、息を上げていた。
婚約者の前で、前の婚約者の旦那に言い負かされたことが恥ずかしかったし、悔しかった。
何よりも、怒りが込み上げていた。
「なんで、アイツが、薔薇姫が幸せになるんだッ……!」
レオハルトは、クレアの言葉を信じて疑わない。
だから、なぜクレアを虐めた女が幸せに結婚するのだと怒りに震えていた。
白い廊下に立って、茶色になり始めた庭を見る。
そして真白の柱に手をつくと、体重をかけた。
そこへ、一人の女がやって来た。
レオハルトは感情的になりすぎて周りなど気にもしていなかったから、声をかけられるまで女の存在に気が付けなかった。
「情けないわね、レオハルト」
オーウェンと同じくらい、歯に衣着せぬ物言いだ。
しかし、それも当然だろう。
だって、その女はアストレア王国第一王女ノーラ。レオハルトよりも、二ヶ月早く生まれている彼女は、レオハルトの姉に当たるのだから。
女であることや、第二王妃の子供であることからどうしてもレオハルトのほうが前に出てしまうが、実際はレオハルトは姉である彼女が苦手だった。
気の強い女性であるノーラに、レオハルトはおずおずと振り返って返事をした。
「珍しいね、ノーラ姉さんがいるなんて。いつも、パーティに興味はないって言っているじゃないか」
パーティでの行いについての話題を避けたのは、レオハルトが姉に怒られると思ったからだ。
そのうえでパーティにいるのは珍しいと言ったのは、レオハルトから姉への精一杯の文句だった。
「興味はなかったわよ。ただ、ヴィルヘイム王子とアグリア様がいると聞いて、図書館へ行くついでに寄ったのよ。そしたら、レオハルトが騒いでいるから……ね?」
本が大好きなノーラは、よく図書館へ行く。
そこで熱心に本を読むアグリアを見かけたことも多々あった。話しかけたことはないけれど、アグリアが遊んでばかりの人でないことは理解していた。
そして、レオハルトが返答に困ったその時、見事なタイミングでクレアが姿を現した。
「レオハルト殿下! あっ、ノーラ王女とお話し中でしたか? 失礼いたしました」
クレアはわざとらしく謝って、ドレスの裾をつまんでお辞儀をした。
しかし、本当のところは違う。
レオハルトを追いかけて部屋を出たクレアはノーラに気がついて、柱に隠れて様子を伺っていたのだ。
そして、レオハルトが最も助けを必要とするタイミングを見計らって、登場してみせた。
けれどもクレアの登場をナイスタイミングと喜んだレオハルトは、急に笑顔になった。
「クレア! 全く失礼じゃないとも。それよりも、先程はごめんよ」
柱から離れたレオハルトは、クレアに駆け寄った。
それをノーラは冷たく見ると、「随分と仲がいいのね」と言った。
「もちろんだとも。クレアは最高の女性だからね」
レオハルトは、心からそう言った。
クレアは褒められて、うっすらと頰を染めた。
「……ねぇ、ずっと思っていたのだけれど、貴方たち、前からそんなに仲良かったかしら?」
ノーラが唐突にそう言った。
「いえ、別に悪いことではないわよ? ただ、アグリア様と婚約破棄するってことは、クレア様がレオハルトに虐めについて訴えたってことでしょう? 王族に婚約破棄させるほどの話題を持ち込むだなんて、勇気があるじゃない? 小さな貴族だけれど、きっと心が強いのね」
ノーラが言い切ると、レオハルトは遠回しに疑われているということに気がつかないまま、頷いた。
「それくらい、酷い虐めだったんだろう。クレアはよく恐れずに真実を口にしてくれたよ」
レオハルトはクレアを愛おしそうに見た。絶対に守るのだと、改めてそう誓う。
「まぁ、真実が何かなんてあたしが軽々しく言えたことではないけれど、ヴィルヘイム王子を敵に回すのはやめときなさいよ。オーランド帝国の強さ、分かっているのでしょう?」
クレアは、ノーラの言いたいことに気がついていた。
先ほどのパーティでレオハルトはアグリアたちが最初から繋がっていたのではないかと疑ったけれど、ノーラはレオハルトとクレアが婚約破棄以前から恋愛関係だったのではと疑っている。
「オーランド帝国など怖くない。我が国には優秀な軍人と、《聖女》がいるからね」
レオハルトは自身ありげにそう言った。
だが、己の強さではなく《聖女》をアテにしているのだから、ちょっとばかり格好悪い。
「けれど、あちらには《魔王》がいるし、それに……」
ノーラは一目レオハルトを見た後、クレアに目線を移して言い切った。
「最も強い《聖女》が、あちらについてしまったもの」
口の上手いノーラは、婚約破棄さえしなければということと、クレアではアグリアという《聖女》の代役にもならないということを同時に言っていた。
二人がなんと言うか考えていると、ノーラはあっさりと引き下がった。
「変な話をしてごめんなさいね。ただ、何か起きた時に弟の責任になるのは心苦しいから、忠告だけしておこうと思って。あたしは図書館へ行くわ。ごきげんよう」
ふわりとドレスを揺らして去っていくノーラを、クレアは内心焦りながら見つめていた。
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