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決めましたの、お父様

ぜひ最後まで読んでください!


 朝、小鳥の(さえず)りと共に目を覚ます。


 すぐにメイドが来て、私の姿を手際よくネグリジェから簡易なドレスへと変えていく。


 窓の外は清々しいほどの青色で、眩しい光が部屋の中に差し込んでいた。


 大広間へ向かい、長いテーブルに腰掛けて朝食を待つ。


 もぐ、もぐもぐ。


 今日の朝ごはんは、新鮮なベーコンと野菜、果物とパンだった。飲み物は我が国で二番目に価値のある紅茶。つい先日我が家を訪問した商人が日頃のお礼にと寄越した物だ。一番価値のある品でないところは、私に対する嫌味だろう。


 とはいえ、二番目もすごいのだ。

 とにかくりんごの香りがよくて、美味しい。

 こういうのは温かいうちに飲むのが最高だ。


 ズズ、と音が鳴るのを抑えて優雅に飲み干す。

 一人ならば気にしないが、召使いがいる手前マナーはきちんとしなければいつどこで薔薇姫様は品がないと言われることか。


 その時、バンッと、屋敷の扉が大きく開かれた。


「アグリア! これはどういうことだ!」


「ガラティス様、落ち着いてください」


 父ガラティス・レーランド・ファナだ。今年で五十になるというのに、朝から随分と元気なことで。


 その隣で必死に落ち着くよう(なだ)めているのは、レーランド家に代々使える執事ダグラス・ローレンだ。


「あら、ごきげんよう、お父様。ダグラスも、お久しぶりね」


 私が紅茶のカップを置いてそう声をかければ、ダグラスは一つにまとめた白髪混じりの長い黒髪を揺らして、頭を下げた。


「お久しぶりです、アグリアお嬢様」


 ダグラスは信頼できる人だ。

 だが、その実態は執事ではなく、主人を守るための剣士のようなもの。かつては暗殺者として、諜報員として、あらゆる死線をくぐり抜けたと聞く。


「アグリア、この手紙に書いてあったのは本当か?」


 父が昨夜宛てた手紙を握りしめてそう叫ぶ。


「落ち着いてくださいな、お父様。あ、そこのあなた、お父様に冷たい飲み物を」


「かしこまりました」


 近くにいたメイドにそう注文し、父に椅子に座るよう助言する。


 私の前の席に座った父は、メイドが持ってきたアイスティーを一口飲んでようやく落ち着いたのか、先ほどよりも声音を落としてゆっくりと話し出す。


ダグラスが目配せすると、空気を読んだ他のメイドたちは部 屋を出て行った。


「いや、お前に落ち度がないのは分かっている。昨夜のパーティについて調べさせた。シーランド家のこともな」


 曰く、シーランド家は王家を乗っ取りたいのだとか。


「あら、ちょうどいいんじゃないかしら? 少なくとも私は、レオハルト殿下よりヴィルヘイム王子の方が頭がいいと思いますわ」


 レオハルト殿下は見た目だけのちゃらんぽらんですので。


 私を捨てるなんて、なんと愚かな。


「だが、戦争というのは…」


「私は構いませんわよ。レーランド家を守ると約束してくださいましたし。あの方のことです。無用な殺傷をするとも思えない」


「うむ…しかし……」


 父は歯切れ悪く唸っている。


「私は約束いたしましたの。必ず、結婚すると。そして、決めましたの」


 ダグラスは、私の頑固さを知っているからだろう。

 こうなったお嬢様は止められない、と。

 だから何も言わずにただ立っていた。


 父は呆れたような困ったような顔で娘を見つめている。


「我がレーランド家より格下のシーランド家を選んだこと、そして、私の言葉よりもあのような見え透いた嘘をつく女を信じたこと」


 脳裏で、か弱い女ぶっているクリーム髪のクレア・シーランドが浮かぶ。うざいったらありゃしない。


「あの男と、女に、後悔させるってこと」


 三人だけの大広間に、沈黙が舞い降りる。


 やがて、根負けしたように父がため息を吐いた。


「……はぁ、まあ、そこまで言うならいいだろう。実際、オーランド帝国に縁を作る方が利益があるのも確かだ」


「そうでしょう?」


「だが!」


 いきなり席を立った父が、人差し指を私の鼻のあたりに向ける。


「何かしら?」


 一体なんだろうかと首を傾げて問えば、父は少し照れくさそうに視線を私から逸らした。


「だが、もしも、オーランド帝国の者がアグリアに何かするならば、レーランド家を上げて戦争を仕掛ける」


 ぽかん、とする私をよそに、父はダグラスに声をかけて部屋を去っていこうとする。


「もう、帰るんですの?」


「ああ、仕事がある」


 そう、ですか、と小さく呟いた声が父に聞こえたかは知らないが、去り際、扉が閉まる寸前、父が「欲しいものがあれば言え。良い式にするぞ」と言っていったのは確かに聞こえた。


 日常生活での父との記憶はあまりないけれど、親らしく私を心配しているのかもしれない。


 親同士が勝手に決めた婚約が、相手の浮気とも呼べる行為で破棄されたのだから、普通ならば意気消沈だろう。


 だが私は違う。


 もっと良い相手が現れたのだから。


「式、か」


 ここから、結婚までのマナーを習って、ヴィルヘイム王子に嫌われないようにしなくては。


 市民ならばともかく、王族の結婚は、何度もやれるものではない。


 特に今回のように、国から出て行くようなものであれば尚更。


「絶対に、成功させる」


 これから一週間後、私の婚姻は発表された。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら嬉しいです!

感想等お待ちしています。


他作品もぜひ!

六波羅朱雀をどうぞよろしくお願いします!

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