いつかの異邦人の物語
ぜひ最後まで読んでください!
グレアムは語り出す。
いつか、彼方の時代にあったとされる《異邦人》の物語を。
普通であれば国王以外は知らないし、こんな簡単に外部に漏らしていい話ではないのだが、酒と褒め言葉に酔いしれて気分の良いグレアムはそんなこと気にしない。
「とある《異邦人》の話でしてな」
「ほぉ、こちらの国にもそういった存在はいるのですね」
「えぇ、近年はだいぶ数が減ってきましたけどなぁ」
グレアム曰く、その話しはこうだった。
──何百年も昔。
それこそアストレア王国とオーランド帝国の戦争の前の話しだ。
地下に現れたその男は、年齢は二十歳程度と思われた。
王族からの質問攻めを嫌った彼はある夜、王城から逃げ出すと傭兵として働き始めたという。
もともと運動神経が良いのか、彼はあらゆる傭兵集団に誘われた。人手が足りない場所に入り、世話になった人のグループにも入って手伝うことがあった。
一つの場所に執着はしなかった。いつ王族が追ってくるか分からないから、常にその場を去れるようにしていたのだ。
それくらい、《異邦人》とは貴重な存在だ。
謎の衣服を身に纏い、この世界にはない知識を持っている。そんな存在を世間が放っておく方がおかしいのだ。
そうして一年に一度は必ず場所を移動していた彼は、伝説になりつつあった。
どんな竜にも臆することなく彼は立ち向かった。
だって、彼には帰る場所がなかったから。よく分からない世界に来て、質問攻めにされて、《異邦人》と呼ばれて、苦しくなっても助けを求めても自分の知っている人も場所もない。
だから、彼は死ぬことが怖くなかった。
どうせ生きてても孤独なら、いっそのこと早く死にたいと思っていた。
それでも本気になって戦うのは、プライドが残っていたのか、帰れるかもしれないという希望を忘れていなかったのか。
けれどそんな弱音、彼は誰にも話さなかった。
ただ、酒場で一緒になった年配のおじさんや先輩の傭兵たちがのちに、「アイツはいつも悲しげな顔をしていた」と言って語った憶測にすぎない。
だから全て、グレアムの知ったことではない。
彼は、ある任務で、黒竜に丸呑みにされて死んだのだから。
けれどもこの話には続きがある。
それこそが、この時代にまで代々王族が語り継いでいるワケだ。
彼が死んでちょうど一年が経つ頃だった。
黒竜はとっくに他の傭兵たちが殺していたのだが、満月の夜になると、ごく稀に、黒竜の翼が小さくなったようなものを背中に宿した彼を見るという。
《異邦人》が何者なのかは、まだよく分からない。
もしかしたらその幻は本物で、《異邦人》は不死身なのかもしれない。
今では全ては確信のない伝承となり、一般市民は伝説の傭兵としての彼のことも忘れている。
ただ、今でもその場所は霊の出る場所として嫌われており、近くの村では竜の声が遠くから聞こえるという通報が二年に一度はあるのだ。
「全ては誰かが始めた妄想か、あるいは真実か。はたまた彼とは違う別の何かなのか。リアム国王はどう思われますかな?」
執事からワインではなく度数の低いシャンパンを受け取ったグレアムは、得意げにそう聞いた。
すごいのは男であって、グレアムではないのだが。
まあ、これが本当の話であればここまで語り継がれているのはすごいが。
「いやぁ、実に興味深い話でしたよ。《異邦人》というのはその実態がよく分かっていない存在ですからね。こういった話を聞けるのは嬉しく思います。ですが、そうですね、霊というのはいささか信憑性がない。私としては他の何かだと嬉しいですかねぇ。不死身となると、《魔王》の力を持ってしても勝てそうにないですから、国が危ない」
最後の一文を冗談っぽく笑いながらリアムは当たり障りない感想を述べた。
──まあ、《魔王》で勝てないとなれば、何者でもないアストレア王国貴族及び王族の男は敗北しか道がないが。
プライドだけで異能を持たない男は、グレアムを始めとしてすぐに白旗を振るのだろう。
「いやぁ、わたしとしては霊だと面白いと思いますなぁ。わたしはそういった話が好みでしてな、はっはっは」
「そうでしたか、いや、いつか正体が分かると良いですねぇ」
「ほんとですなぁ、はっはっは」
──我が国にも、似たような事例はなくもない。
──もしや、《異邦人》は何か特別な異能を持って……いいや、考えても意味がない、か。
考えすぎてしまうリアムだったが、《異邦人》そのものが減ってきている今、考えても答えは出ないと思考を止めた。
「さて、まだ夜は長いですからなぁ、我が国が誇る料理をぜひ」
「えぇ、ありがとうございます」
部屋の扉が開かれて、多くのお皿を乗せた台を引く料理人たちが入って来たのだった。
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