表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
230/231

献花の蕾


 オーランド帝国領旧アストレア王国。王都にて、一つ、異変が生じていた。クリスティア宮殿のその頂点に浮かぶ大輪の花が、花開こうとしているのだ。


 ──つまり、アグリアが姿を見せようとしている。


 それは吉兆のようでありながら、対抗するほどの戦力がないオーランド帝国にとっては厄災の始まりのように感じられた。


「自国の王妃が目を覚ますというのに、素直に喜べない……。いや、別にあの人のことは好きじゃないけど」


 王都にある屋敷で貴族たちと会議をしていた第二王子クレイグは、休憩を取るべく会議を一時中断して廊下で黄昏ていた。


 遠くを見つめる目には、青い花弁が映っている。大輪にも程がある、花弁一枚で縦三メートルはあるサイズ。


「目覚めた時、また暴れないといいけど……」


 兄であるヴィルヘイムには、ひとまず重鎮たちには強すぎる異能の暴走として説明するように言われていた。が、聡いクレイグは気づいている。ただの暴走ではないと。あれはまるで、そう。


「人が違った……」


 人格を乗っ取られたに等しい。


 実際にそんなことがあるのかは知らないし、前例はない。が、最初の《魔王》であるハーラリオン三世は異能の取得によって髪の色が変わったのだから、異能が人体に影響を及ぼすことは確かだ。


 ──精神にも、影響を及ぼすのかな……。


 考えると背筋が凍った。異能を宿すものとしては、そんな可能性はないと信じたいところだ。あんなふうに、アグリアのように自分が暴走すると思うと……味方を殺したくないのに。


 ここからでは見えないが、王都の街並みで人々が軽いパニックを起こしているとの報告は聞いていた。国王が出払っており、レオハルト前国王は幽閉状態、内政は宙ぶらりんな状態で、国民と王侯貴族が語らう議会も未だ第一回すら行われていない始末。復興だって終わっていない。


 敵国の民とはいえ、今はもう自国の民。王妃の母国の民なのだし、彼らが路頭に迷い犯罪に手を染めるようなことにだけはならぬよう、王族として自身も責任を持って行動しなければと誓う。


「兄さんは、大丈夫ですよね」


 アグリアのようになる可能性が最も強いとすればそれは兄だ。あの女を除けば一番強いのだから。それでいて、敬愛する兄はあまりにも真面目だから、『飲み込まれやすい』んだと思う。何にかはわからないけども。


 庭に植えられたピンクコスモスを眺めながら、今日は寒いと体を震わせる。時刻は昼だが、あまり暖かい日ではなかった。ハルラ山の方では雪が降っていると聞く。冬も終わりに近づいているとはいえ、故に最後の猛吹雪が来ないとも限らない。


 家が壊れた民には、何処か暖かい場所と食事、それから布団なんかを提供せねば。


 吹き付ける冷たい風を受けて、そろそろ会議に戻ろうと庭に背を向けた時、何処からか甲高い声がした気がした。


「五色の竜……」


 兄たちとのやりとりで、大まかなことは知っていた。エンリケイド革命軍が実験により生み出した、いわゆる禁忌の存在。まあ、竜自身は実験の被害者とも言えるが。


 ハルラ山の方向から、点のようではあるがその姿が見える。雲の隙間に見え隠れする様は鳥のようだが、実際に間近に見たならば、恐怖するどころでは済まないはずだ。


 それが、徐々に近づいてきている。


 ──これは、会議どころではないかもしれない。


「軍を動かして王都の警備を固めなければ……」


 それから、兄に対して伝書鳩で連絡を送って、あとは、オーランド帝国側とハルラ山の軍にも連絡をつけて……。


 クレイグの頭の中で、次々とやるべきことが増えていく。気がつけば足早に会議室へと向かっていた。


 風がピンクコスモスの花弁を吹き飛ばす。散り散りに、飛ばされるがままに花弁は何処かへ消えていく。この国の象徴が、何処かへ。


 なんとなく、心の中が疼く。悪い予感がして、酷く不安だ。


 もう一度、今度は恐る恐る横目に空を見た。何かが真っ直ぐにこちらへ伸びている。竜の口元からこちらへ、何かが、流星のように、何かが……。


「竜の、息吹……いけない、だめだ、駄目だ駄目だ駄目だ!!」


 会議室の扉を叩き割るように乱暴に開き、中にいる重鎮たちに命令を飛ばす。


「今すぐ王都の警戒レベルを上げろ! 住民を避難させ、軍を固めろ! 貴殿にはヴィルヘイム国王陛下への連絡を頼む。すぐに王都へ帰還されるように書け、いいな? 貴殿はラクレスに連絡を。全員、すぐに取り掛かれ! 竜が──いや、この場を持って、あの五色の竜を我々の敵とみなし、ターゲットに大いなるガンド(ヨルムンガンド)の名を与えることとする。現在、ヨルムンガンドはこちらへ進行中、竜の息吹を持って王都を襲う可能性がある。ヴィルヘイム国王陛下が到着次第、交戦する可能性がある。心して準備せよ!」


 やがて、竜の息吹は、長い距離をものともせずに、王都へと辿り着く。


『ゔぉああああああああああアッ!!』


 喉が枯れるような声を吐きながら、息吹は、青薔薇へと辿り着いて。


 光の当たり方によって色が違って見えるような、虹のような不思議な炎の息吹は、青薔薇を包み込んだ。真夏の陽炎に包まれるようで。けれど、青薔薇には一切の傷が付かなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ