二人の王が話す時
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同日、夜7時過ぎ。
アストレア王国国王グレアムとオーランド帝国国王リアムの二人は、非公式の食事会を行なっていた。
場所はもちろん、クリスティア宮殿。
星の見える夜空を存分に楽しもうと大きな窓がある部屋をグレアムは敢えて選んでいた。
その窓から外を眺めるグレアムを見て、リアムは「美しい景色ですね」と言いながらも内心は呆れていた。
──大きな窓のある場所は、敵にとって最高の場所だと思わないのか?
──アストレア王国の王族には、危機感がないのか。
軍事国家とも言えるオーランド帝国の国王をするリアムは、元々期待されない第二王子だったこともあり、国王になってすぐは毎日のように不審物が見つかる、あるいは毒が混ぜられるなどしていた。
そんなリアムは、暗殺者たちが窓のある部屋を好むことを知っている。中の様子がよく見えるため、攻撃を外すことはないからだ。
「さて、まずは一杯いかがですかな?」
そう言ってグラスを掲げるグレアムはすでに酒に酔っているようにも見える。
──昼間から飲んでいたのだな、呑気な王だ。
そんなことはもちろん口にはせず、「えぇ、ぜひ」と言ってリアムは隣に立つアストレア王国の執事からグラスを受け取った。
一瞬毒が入っている可能性も考えたが、リアムはある程度の毒には耐性がある。それに、このバカな王がそんなことを企むようにも見えなかった。
「……」
「……はは、どうです? 美味しいでしょう? 我が国で最大の農園で作らせた物なのですよ」
無言で飲み干すリアムを見て、グレアムは気分が良くなったのか自慢げに語る。
グレアムは幾つもの宝石で飾られた金の王冠を頭に乗せているけれど、果たしてその重みは何グラムだろうか。
リアムの王冠は同じく金色だけれど、宝石は一つだけだ。大きめのサイズで、燃えるような赤い色のルビーがあるのみ。
ルビーが使用されているのは、古代よりルビーは勝利を呼ぶ石と言われているからだ。
一見すると簡素な王冠だが、リアムが身につければそれは実際の質量よりも重くなる。
国民を守ることの重要さ、軍人が散らしていく一つ一つの命、国を守り導くことの大切さ。
その全てが彼の王冠にはあるからだ。
「いやぁ、先日の竜には驚きましたが、それ以上にオーランド帝国の方々の強さに驚かされましたわ、ハッハッハ」
大した度数の酒ではないというのにこんなにも酔うとは、さてはグレアムは酒好きのくせに酒に弱いのではないだろうか。
──何かあれば、部下に毒入りの酒を持たせるのも悪くない。
「いやぁ、アグリア嬢の強さにも驚かされましたよ。《聖女》というのはあれほどまでに素晴らしい力をお持ちなのですね」
リアムは試しにアグリアの名を出してみた。
グレアムの息子が振った女の名だ。普通であれば怒るだろうが、貴族の女を虐めていたという話しそのものが王族の自作自演であれば、一瞬だけでも戸惑ってくれると思ったのだ。
「わたしもアグリア嬢があれほど強いとは知らなかったのですよ。全く、アグリア嬢は異能を見せる際には棘ばかり披露していたものですから」
しかし、リアムの考えとは裏腹にグレアムは怒りもしなければ動揺もしなかった。
これほどまでに酔っている状況で完璧な演技が出来る人物には見えない。国民の前で話す際にもあんな短いことしか言えない王なのだ。
──あり得るとすれば、レオハルト王子が父である国王を騙していることくらいか。
まだ話しは出来ていないが、先日のアグリアの姿を見て、彼女は悪い人ではないとリアムは考えていた。
むしろ、アグリアが必死に国と国民を守ろうと《聖女》の力を惜しみなく使う姿には親近感さえあった。
まるで、昔の自分を見ているように思えたのだ。
不器用で、人には好かれない。けれど誰かを見捨てようともしない。なるべく一つでも多くを救い、救うことで自分を嫌う人を見返してやる。
そう考える人間だ。
どれだけ相手を憎み、復讐すると誓っても、上手く出来ない。
良く言えば優しく、悪く言えば意志が弱い。
「ですけど、ヴィルヘイム王子も強かったですなぁ。本当に助かりましたよ」
「はは、それほどでもありません。ヴィルヘイムはまだまだ修行中ですので」
「それは未来が楽しみですなぁ〜」
敵国の戦略が育つというのに呑気に笑うグレアムは本当にバカ殿である。
──面倒ではあるが、まだ夜は長い。なるべく情報を引き出すか。
ヘラヘラと笑い足元がふらつき始めているグレアムのことだ。少し褒めてやれば自分の方から情報を話し始めるに違いない。
お得意の笑顔を貼り付けて、リアムはグレアムに微笑みかけた。
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