パンドラ04
ぜひ最後まで読んでください!
最近書くの頑張ってる……!
次のページは、左も右も絵が描かれていた。
醜くて、禍々しい絵だ。
蛇が大地を這いずり回って、天からは巨大な爪が降りてくる。真ん中には王妃エレクトラと思われる女性がいる。毒のような花が咲き誇っていて、紫色の花弁が彼女の足元に落ちては積もっていく。深い緑色のツタが彼女の足に絡みついて離さない。
「気分が悪くなる絵ね…」
思わずそう溢した。
空へと伸ばされた彼女の両手は、天から降りる爪に向けて真っ赤に染まった林檎を渡している。いいや、もはや真っ赤なのではない。赤い液体が垂れているように見える。
先ほどの絵と同じ場面だと考えると、彼女の白かった服装が深淵のように黒い色をしていることや、神ではなく鋭い爪が描かれていることにも意味があるのだろうか。
とすると、渡されようとしている林檎は生贄か。
段々と脳内が混乱していく。
答えを得るべく、ページを捲った。
今度は気味の悪い絵ではなく、文字だけが羅列している。
□■□■□
クリスティア宮殿には地下がある。王座の後ろにある、ピンクコスモスの描かれた立派な幕の向こうに扉があって、それを開くと地下へと繋がっているのだ。
地下にはただただ暗い洞窟が広がっている。
そのことを、王妃エレクトラは国王になった時初めて知ったのだ。
そうして、時折そこへやって来る《異邦人》を生贄としたのである。
最高神オーディナルを降臨させるその場には、王妃エレクトラ以外の人間は立ち入れなかった。
だから、王座の側で地下へと行った王妃エレクトラの帰りを待つことしか出来なかった。
それでも、聞こえてきた声があった。
男の声だったから、《異邦人》に違いない。
恐らく生贄として捧げられる瞬間だったのだろう。
──パンドラ! パンドラ! パンドラ!
悲痛な声で、その名を呼んでいた。
地上にも響く大きな声だった。最後の力を全て使ったのだろう。
──パンドラ! パンドラ! パンドラ!
何度も繰り返された声を、数日経った今も忘れることが出来ない。呪いのように、呪詛のように、耳から離れないのだ。
夢の中にさえ出てきてしまうほどに。
──パンドラ! パンドラ!
段々と声は小さくなって、最終的に聞こえなくなった。
男が死んだのだと、すぐに理解した。
やがて光を纏った眩しい姿の王妃エレクトラが地上へと戻ってきた。
そうして《聖女》が生まれたのだ。
けれど、思ったのだ。
思ってしまったのだ。
生贄を使ってまで最高神オーディナルを降臨させたのに、手に入れたモノが武力なのは何故だろうか、と。
王妃エレクトラは何がしたいのだろうか、と。
《魔王》や《聖女》の力は血が絶えぬ限り受け継がれるというではないか。そして、王族である以上、血が絶えることなどあり得ない。
王妃エレクトラは、何がしたいのだろうか。
今になって怖く感じられる。
これまで、国のため、彼女のためと思い、多くの書物などを用いて研究を繰り返した。寝る間も惜しんだのだ。
血を吐くような思いで取り組んだけれど、これが、もしも。
もしも私が協力したせいで、未来に戦の種を残してしまったのなら……。
……どういうわけか、あれ以来、我が国にやって来る《異邦人》は皆────
□■□■□
「アグリアお嬢様」
集中していた私の意識は、いつの間にか隣に立ったセイラの声で現実へと戻された。
「そろそろ部屋へ戻らなければ、怪しまれます。館内の人数も増えてきておりますし……」
「分かった」
仕方ないけれど、この部屋の本は持ち出されることがないのだから続きはまた今度でも良い。
そう思って本を閉じた。
「おや? アグリアお嬢様は、異能に関する本を探しておられたのでは?」
本を見たセイラが首を傾げた。
その表情から、ふざけているわけではないのが分かる。
「ああ、神話の本の本棚だけれど、これも内容が異能に関するもので」
「そう、なのですか? けれども、その割に題名が……」
自信なさげに声が小さくなっていくものだから、何か気になるのかとセイラに問う。
「題名が、植物の育て方、ですけど……」
その言葉に、パッと反射的に表紙を見た。
「何を言っているの? 全然違うじゃないの」
「ですけど…」
セイラは変なものでも食べたんじゃないだろうか。
あるいは、目が疲れているのか。
ページを捲って、中の絵を見せる。
ちょうど開かれたのはさっきの禍々しい絵だった。
これなら見間違うこともあるまい。
そう、思ったのだが。
「やっぱり、植物じゃないですか。それにしても、あまり見ない種類の薔薇ですねぇ」
そう言ってセイラは爪の辺りを指差した。
──どういうこと?
次に、文章のページを見せた。
パンドラと叫ぶ場面だ。
「パンが欲しいんですか? この物語の人は」
変な物語ですねぇ、植物関係ないじゃないですか、とセイラは笑って呟いた。
──セイラには、内容が見えないの?
彼女は早く帰らないと、と言って私を見つめている。
「えぇ、行きましょうか」
本を棚に戻して、心に抱えた動揺を周りの人に悟られないようにしながら部屋へと戻った。
──《異邦人》って、何かしら。
──王妃エレクトラは、何のために武力を?
──最高神オーディナルは、真の意味で助けてはくれなかったの?
──この力は、一体何のために生贄と引き換えにしてまで……。
せっかく手がかりを得られたと思ったのに、むしろ分からなくなってしまった。
アランにも、協力してもらおうかしら。
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