喜劇を確信する夜
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屋敷へ帰り、ベッドに横になる。
けれどまだ、眠れなかった。
一応父に婚約破棄された話と結婚相手が決まった話は手紙で簡単に知らせた。今頃手紙は父のいる別の屋敷へ着いた頃だろう。
美しい月の下で、結婚を申し込まれたことを思い出す。
□■□■□
『ですが、今しがた婚約を破棄された私でよろしいのですか?』
『構わない。俺はお前が気に入った、アグリア姫』
私の質問に、王子は躊躇いなくそういった。
『ちなみに、どんなところが? 自分で言うのもおかしな話ですが、私は薔薇姫と名高い令嬢ですよ?』
『そういうところが、だ。お前は芯の通った女性だ。正直、俺もそろそろ婚約者を決めねばならない。前からアグリア姫は良い女だと思っていたが、今日のパーティへ来てよかった』
赤髪を撫でて王子は答える。レオハルト殿下よりも十センチは高い身長だ。まさに戦士の体格。
『そうですか。では、どうぞよろしくお願いいたします』
私は青のドレスの裾をそっと握り、お辞儀をした。
銀の髪がふわりと風に揺れる。
『ああ。しかし、一つだけ聞こう。俺は君と結婚したいが、次期国王だからな。確認せねばならぬこともある』
『と、言いますと?』
子供が産めるかとか、殿下とどこまでの関係だったかとかだろうか。それならば心配はない。身体に異常はないと医師からも言われているし、殿下とは手を繋いだことすらないのだ。この三年間、パーティで踊ったことさえもない。
だが、王子の告げた言葉はそうではなかった。
もっと、物騒なもの。
『もしもこの国と俺の国が戦争となったら、お前はどちらにつく、アグリア姫』
王子は黒の手袋をした右手を、そっと私に伸ばす。
この手を取れるか、と言いたいのだろう。
他の姫ならば、なんと残酷な決断を求める王子だろうと思うだろう。
けれど、私は違う。
『我がレーランド家を残してくれるならば、あとは…この国がどうなろうと構いません』
我が家系を滅ぼされるのは嫌だ。正直、両親や兄、二人の妹とは仲良くはないが、それでも私はレーランドを名乗る者。自分の苗字に泥が塗られるのは許せない。
もちろん、家族たちが王国側につくと言えば別だが。
こんな国、あの殿下が王になる未来の時点でどうせ滅びるのだ。
ならば、馬鹿な王のせいで滅ぶより隣国との戦争で負けたと言う筋書きの方が国民にとっては誉れだろう。
私は王子の手を強く握った。
金の瞳で、王子の碧く透き通る瞳を見つめる。
数秒の沈黙ののち、王子は少しだけ真顔を崩して微笑んだ。
『オーランド帝国は、君を歓迎しよう』
□■□■□
「ここから、どうなるのかしら」
オーランド帝国の王子ヴィルヘイムの口ぶりでは、状況次第で戦争を始めそうな感じだ。
その時、どれほどの国民が死ぬだろう。
ヴィルヘイム王子は頭が良いと評判だ。実際、オーランド帝国の現国王リアムが息子ヴィルヘイムに軍の指揮権を与えてからというもの、軍事力は強まり兵たちの指揮も高まっている。王族の護衛の近衛兵たちも洗錬された動きをしてみせるものだ。
それに比べてこの国は…。
戦争など簡単に勝てると思って、国王も殿下も遊んでばかり。
《聖女》の力だって、万能ではないというのに……。
──《聖女》。
この世界には、そう呼ばれる者がいる。
私もその一人だ。
かつて、大いなる戦の際に、我が国の祖先である一人の王妃は夫である国王を戦で失い、滅びゆく国の指導者となった。けれども彼女の真っ直ぐな思いは神に届き、特別な力を手に入れる。そうして戦を和平へと持ち込み、今この国はあるのだ。
この力は、王妃の血を受け継ぐ者、つまり現代においてはほぼ全ての貴族の女が持っている。力の大きさは血の濃さによるが、三大貴族である私は特に濃く受け継いでいる。本気を出せば、この国を混乱させるくらいには。
──《魔王》。
それがもう一つの大いなる力。
かつてこの国が、王妃が《聖女》となるまで戦争に負けそうだったのは、隣国オーランドが突如として《魔王》の力を手に入れたからだ。
これは神ではなく、竜より授かったという。
当時のオーランド帝国の国王が赤竜殺しとなり、竜の鱗を食べた途端、髪は赤くなり、炎を司ったという。
この力は、《聖女》の力同様、彼の血を受け継ぐ男が引き継いでいる。王族直系であるヴィルヘイム王子はきっと壮大な強さを持っているだろう。
だから、遊んでばかりの《聖女》では、戦争を視野に入れる《魔王》に勝てはしない。
ヴィルヘイム王子の二つ名が紅蓮の魔王であるのは、《魔王》の力を受け継ぐものの中で歴代でも最強に等しい強さだからだ。
それが、私の夫となるとは、思いもしなかったが。
「とにかく今日は寝て、明日に備えましょう」
きっと、父は焦ってこの屋敷に来る。
そうしたら、ある程度は戦争の可能性を知らせなくては。
父は現国王とあまり良い仲ではない。
それは現国王が頭が悪く、父が未来を見据える堅実なタイプだからだ。
国王とは意見がぶつかるばかりな父がこの国につくとは限らない。
だから、少しくらいであれば情報を知らせても大丈夫だろう。
ヴィルヘイム王子との結婚は、むしろレーランド家には好都合。
殿下との結婚は王妃になれる以外の利益がないのに対し、ヴィルヘイム王子との結婚は、他国の王妃になると同時にオーランド帝国とアストレア王国の両方と通ずることができる。
レーランド家が生き残る道が増えるのだ。
「明日はきっと、忙しくなる」
何はともあれ、私がヴィルヘイム王子と婚約すると国中に知れるのは一ヶ月ほど後だろう。
その時の、殿下とクレアの顔が楽しみだわ!
「うふふっ」
時計の針が十二時を回る頃、私は輝かしい未来を確信して眠りについた。
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