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開花の乙女

ぜひ最後まで読んでください!


「皆、よく聞け! この場から動くな! 宮殿の敷地から出ることを禁ずる!」


 ヴィルヘイム王子が、よく通る声ではきはきと声を発する。混乱し始めていた国民は、こちらを見始めた。


「軍隊はすでに動いている! 敵は竜の中で最も格下の翼竜! すぐに撃退して見せよう!」


「さすが、オーランド帝国軍隊トップだ…」「そうだ、翼竜なら簡単だ」「ここは宮殿だぞ」「軍隊がいるじゃないか」


 落ち着きを取り戻し始めた国民を見て、少しだけホッとする。

 だが、いくら格下とはいえ竜には違いない。

 それに、竜を止めるはずの貴族は何をしているのだろうか。

 国の端に位置する貴族は少なからず軍隊を有する。簡単にその土地が突破されるとは思えない。


 竜がやってきた方向、そしてこの季節に翼竜が来る地域から察するに、この竜は……。


 ──シーランド家の領地から来ているはずだ。


 そんな答えが脳裏をよぎった途端、咄嗟に視線を来賓席に移した。

 クレア・シーランドが、お上品に座っている。その顔色は周りの人間と同じくらい驚きや恐怖に染まっているが、私から見れば胡散臭い演技に見える。


 ──大根役者の方がまだマシな演技ね。


 誰もが彼女を私にいじめられた哀れな田舎貴族だと思っているからシーランド家は疑われないだろう。

 仮にシーランド家が本当に竜をあえて止めずに王都まで通したとしても、田舎貴族ゆえに戦力が少なかったのだろうと同情されるだけだろう。そして、今後はより良い支援を受けられる。


 ──私がシーランド家を訴えても、無駄ね。


 そんなことをすれば余計に、私がクレアをいじめていることに信憑性が増すだけだ。


 とにかく今は、あの竜の全てを倒すしかない。

 あとのことはそれからだ。


「あれ、国王陛下は?」「そーいやいねぇな」「逃げた?」「まさか、国王だぞ」「軍の指揮をとっているのでは?」


 いけない、国民がグレアム陛下の不在に気がついてしまった。

 見捨てられたのだと思われたら、面倒だ。国民の不安が高まってしまう。


 竜はどんどんこちらに近づいてきている。

 アレク兄様が指示したおかげで音楽隊は演奏を止めた。だが、翼竜はこの場所に多くの人間がいることに気がついてしまっている。


 そういえば、この竜はどうしてこんなところまで来たのだろうか。

 仮にシーランド家が竜を通したとしても、なぜ竜は王都を目指すのだろうか。

 翼竜は弱い故に喧嘩を売るのが好きな種類だが、だからといって遠路はるばるここまで来るだろうか?


 翼竜は、自分よりも強い竜に従う性格だ。

 竜は翼竜、蒼竜(そうりゅう)、白竜、黒竜、赤竜の順で強い。

 ならば、もし、この竜が己より強い種に従ってここまで来ていたら…。

 その可能性は高い。

 シーランド家の領地の近くは森がある。

 森は竜が住むのに最適な場所だ。

 もし、黒竜や赤竜だとすれば軍隊に勝ち目は……。

 せめて蒼竜であって欲しい。あれは水辺でこそ力を発揮する種だ。


 ──グヲォォォオオオオ!!!!


「きゃぁ!」「あれは何!?」「翼竜じゃないぞ!」「色が違う!」


 雄叫びのような声が聞こえたと同時に、落ち着いていた国民がまた騒ぎ始めた。


「あれは…!」


 見れば、翼竜の後ろの方に二体、体格の大きな竜がいた。


「白竜…!」


 白銀の体躯を自由に動かし、空を飛び回っている。


 白竜は本来、平和主義な竜のはずだ。

 だから、こんなところに来るはずがないのだが…逆に言えば攻撃を受ければどこまでも敵を追いかけ、殺し尽くすまで戦い続ける種でもある。


 それでも確かに目の前に存在しているのだ。それも、二体。

 竜退治を日頃から行う田舎貴族ならばともかく、ここにいるのはいつか来るかもしれない戦争やテロのために鍛えている対人間用の兵士だ。勝ち目は少ない。


「何とかしないと…」


 無意識のうちに首元に触れれば、今回の結婚祝いにお父様がくれたネックレスに指が当たる。

 リングのついたネックレスだ。そのリングには、赤い宝石が埋め込まれている。一般市民がどれだけ働いても一生買うことのできない金額だったのだろう。


「これが、あれば…」


 宝石には力がある。

 それは、《聖女》の力を抑えることだ。


 ──うまく使えば、国民を傷つけずに戦えるかも。


 三大貴族の《聖女》の力はあまりにも強大で、弱い人間、と言ったら失礼だけれど非戦闘民のいる場では使うことは難しい。巻き込んでしまうかもしれないから。

 それでもこの宝石があれば、竜だけに狙いを定めて小さい力で倒せるかもしれない。

 爆発的な力ではなく、鋭い一撃で倒すのだ。


 ──グヲォォォオオオオオオオォ!!!!


 またしても白竜が吠える。

 炎を吐こうと、口を開き始めているのだ。


「いけないっ!!」


 ここで炎を吐かれれば、宮殿は最悪崩壊、人々はより深い混乱に陥り、街もただでは済まない。

 そう思えば、何も考えずに両手を前に出し、金の瞳で白竜を睨みつけ、必要もないのに必殺技のような言葉を唱えていた。


「咲き誇れ火炎!」


 その途端、突如両手から薔薇のように赤い炎が放たれた。

 鋭い矢のように細く真っ直ぐに飛び去ったそれは、ヒュンという音を立てながら国民の上を堂々と駆け、見事に一体の白竜の眉間を刺した。光のような速さだった。


 民がその光景を、まるで神話のワンシーンを見届けるかのように声も出さずに眺めた。


「我が民は、傷つけさせない…!」


最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら嬉しいです!

感想等お待ちしています。


他作品もぜひ!

六波羅朱雀をどうぞよろしくお願いします!

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