運命が動き出す日
初めて書く悪役令嬢ものです!
ぜひ最後まで読んでください!!
聖歴1672年9月7日〜マレフィア宮殿にて〜
それは、パーティ会場の出来事。
いつものように、大勢の貴族が集まりダンスや会話、食事を嗜む日だ。
「あら、すてきなドレスですこと」
「外国の方に依頼しましたの」
「私のは国内で有名な方に作っていただいたんですのよ」
「まあ、そうですの」
誰もが笑顔の仮面を装備して、あるいは本当に仲の良い貴族と笑い合う。
そこへ、会場の真ん中にある赤のカーペットが敷かれた階段を降りてくる女がいた。
──それが私、アグリア・レーランド・ファナだ。
人呼んで、『薔薇姫様』。
意地悪な性格の私を棘があるようだと誰かが言い、付けられた名だ。
案外、気に入っているが。
だって、薔薇ってすごく綺麗ですもの。
「ご機嫌麗しゅう、アグリア様」
「今日も素敵ですわ、アグリア様」
何人かの貴族たちが内心嫌そうな顔をしながら私に近寄って褒め称える。誰も、褒めてくれなど頼んでないのに。
「お世辞なんて要らないわ」
私はそう告げると、窓の方へ歩いていった。
「せっかく褒めたのに何様のつもりかしら」
「愛想笑いもできないのかしらね、薔薇姫様は」
「やっぱり、殿下との結婚には相応しくないわ」
「あら、私もそう思いますの」
わざと聞こえるように告げているのだろうか。
幾人もの女性たちが、煌びやかな扇子を口元に当ててそう陰口を叩く。
──レオハルト殿下。
我がアストレア王国の王子レオハルトが私の婚約者。このまま結婚すれば、私はこの国の王妃となる。だが、正直なところ……。
あの人は、好きじゃない。
親たちが婚約を決めたのは、三年前。私が十四の時だ。十七になった今、いつ結婚となってもおかしくない。
レオハルト殿下は確かに長男で、身長も百七十中間といった高さでスラリとした体格。けれどそれはつまり、戦場で戦うには貧弱ということである。もちろん、殿下自ら戦場へ行く時なんてないでしょうけれど。
金髪碧眼で、誰にでも優しいけれど逆に言えば騙されやすい。殿下には人を見る目がないし、お金の計算能力もない。生まれた時から王族で、お金なんて湧いてくると思っているのだろう。
私だって生まれた時から貴族だけれど、その分幼い頃から他人の汚いところを見て、薔薇姫と呼ばれるほどには冷たい心の持ち主に育った。だから、他人に容易くお金を使わせたり貸したりしようとは思わない。恩を恩で返す者は少ないと知っているから。
「ねぇ、あれって…」
「うそ…」
たくさんのシャンデリアが吊るされ、眩いばかりの空間にまた一つ異質な存在が現れる。それは私の婚約者であり、白のシャツと紺の上着、ズボンというこの国の軍服の色を纏っている。
そして……。
私は彼に近づいて、問うた。
「殿下が何をなさろうと構いませんけれど、これは我がレーランド家への冒涜ではありませんか?」
彼の隣にいたのは、白のドレスを着た少女。歳は私より一つ下で地方の貴族の出であるクレア・シーランド。山に近い場所に住み、我が国の竜退治を四分の一ばかり担っている貴族だ。
この国の三大貴族に入る我がレーランド家とは比べることすら惨めである。
それがなぜ、婚姻を表す白のドレスを着て殿下の隣に立つのか。
「アグリア、この場を借りて君に告げよう」
言葉遣いだけは立派な態度で殿下は恥じることなく叫ぶ。
「僕は君との婚約を破棄し、彼女、クレア・シーランドと結婚するのだ!」
──嗚呼、そう。
お父様は怒るでしょうし、彼の父である国王陛下も怒るでしょうね。
けれど、私には関係ない。
恐らく私は別の殿方と結婚させられるのでしょうけれど、彼の妻となればそれこそ滅びゆく国の最後の王妃になるようなもの。そのくらい、この人には才能がない。
だから、一つだけ聞いた。
「私は構いませんけれど、我がレーランド家との婚姻を破棄するほどの価値がシーランド家にはあると思いで?」
その問いに、殿下は怒りをあらわにして答えた。
「僕はウソが嫌いだ。君のことは、冷たくとも悪い人ではないと信じたが……クレアから全て聞いたぞ。君は彼女に酷いイジメをしたそうではないか。水をかけ、物を奪い、壊したと聞いた」
「……は?」
思わずおかしな声が出た。
確かに彼女のことを敬いはしない。自分よりも下の貴族なのだから、あえて声をかけることもしなかった。
けれども、話したことすらない相手をどうしてイジメるのか。
「失礼ですが殿下、そのようなことは一切ありませんが」
「もう君の話は信じない」
「第一、私はレーランド家です。お金に困ることなどありません。それなのになぜ物を奪うのですか」
婚約破棄は構わないけど、嘘を語られるのは腹が立つ。
というか、これまで金の計算ができない殿下の相談に乗ったりしたのは私なのですが……?
「それは決まっているだろう。彼女が君よりも美しいからだ。君は僕をとられると嫉妬したのだよ」
全くもって不愉快だ。
嘘を語られ、おまけにその動機が嫉妬だと?
もう、こんな茶番には付き合いきれない。
私はクリーム色の髪を少しだけ巻いてセットした小柄なクレアを冷たく見つめて、吐き捨てるように言い放った。
「はぁ…もういいです。あなた方に興味はありませんので。婚約破棄だなんて、お好きにどうぞ? けれども一つだけ勘違いなさらないで。私は彼女をイジメるほど暇ではないですし、なによりも……」
目を逸らし、彼ら二人に背を向ける。
全員がこちらを不安げに見ていた。
当たり前だ。
いくら私の婚約破棄が嬉しくてざまあみろという感じでも、レーランド家の者が王妃にならないというのはここにいるほとんどの貴族にとって損失でもある。
「あなたに嫉妬だなんて、ありえない」
それだけ言い残すと、私は部屋を出てベランダへ向かった。
柵にもたれ、一人零す。
「婚約破棄なんて構わないけれど…私を侮辱するなんてありえない」
月の綺麗な夜だった。澄んだ秋の空気が肌をくすぐる。
「裏切りは、一番嫌いなのに」
いつかの幼い頃の記憶が蘇りかけて、嫌気がさす。
「許さない…こんな国、滅びてしまえ」
あのクレアという子、絶対許さない。馬鹿王子の妻になってせいぜい困るといいわ。
私は絶対に…すごい方と結婚して幸せになってやる……!
その時だった。
「美しい赤薔薇の姫」
赤い髪を後ろに靡かせた、大柄な男だった。
「俺と、結婚してくれ」
それはこの社交界に参加していた隣国オーランドの王子。
「……はい」
容姿は男前で文武両道、次の国王であり仲間意識が強い。
「私でよければ、喜んで」
断る理由など、もはやなかった。
「必ず幸せにすると誓おう」
相手が魔王と名高い若き王子であると、知っていても。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
2023年9月3日〜X(Twitter)にて六波羅朱雀の名で活動しています。たまに呟くつもりです。ぜひチェックを。
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