好物→夢
夢食いバクは、夢を食べる。
だから僕は、昨日見た夢をハッキリと思い出せない。
僕が眠ったら、姿を現し枕元に黒く大きい体を擦り寄せ、尖った鼻で僕の夢の匂いを嗅ぐ。
僕の夢を長い舌でペロっと舐めて、好みの味になるまでズーズーっと鼻息を立てて小さい目で僕を見つめている。
嬉しい夢は口いっぱいの甘さ。
悲しい夢は顔を顰めるしょっぱさ。
楽しい夢にはコクがあり、
怒った夢にはコクがない。
僕は夜、沢山の夢を見ているようだけど、断片的にしか覚えていない。
多分、夢食いバクが甘い夢を食べたら、飽きてしょっぱい夢を食べ、コクがある夢を食べたら、口をリセットするために薄味の夢を食べ1日1回の食事に舌鼓を打つ。
だから、朝起きて僕の覚えている夢は夢食いバクの食べ残しなんだと思っている。
そんな夢食いバクも臆病であり、夢を食べている最中に僕が起きると、夜の暗闇に身を隠し、また僕が深い眠りにつくのを待つ。
夜、部屋の何処かからカタっと音がしたら、腹を空かせた夢食いバクが僕の部屋にいて、ズーズーと鼻息をたてながら、ご馳走が眠るのを今や遅しと待っているのだ。
僕の夢を食べた夢食いバクは、朝日が登る前に食事を終え満腹になった大きなお腹を細い足で支えながら巣へと帰って行く。
巣へと帰り眠りについてまた夜、僕の部屋にやって来て舌をペロペロ出しながら僕が眠るのを待つ。
カタっと天井の音がした。
今日もまた腹を空かせた夢食いバクが僕の夢を食べにやってきた。
おしまい。