初夜(いちわ)
親愛なる父さんへ
突然の手紙に驚いていることかと思います。
僕は新しい世界でなんとかやっています。
最初は戸惑うことも多く不安でいっぱいでしたが、こちらの環境にも慣れて落ち着いてくると、近頃は故郷のことを思い出す時間が増えました。
小さな村の片隅に建つ父さんと僕が暮らした家に帰りたいと思ったことは何度もあります。そしてまた、自分のベッドの寝心地が、どれほど心休まる場所であったかを考えさせられます。
美しい物を美しいと感じるには美しくない物を知る必要があり、美味しい物を美味しいと感じるには美味しくない物を知る必要があるように、故郷の夜空の美しさや野山の雄大さ、川の清らかさを今の僕が思い起こし、美しいと感じることができたのは全てこちらの世界に来られたからでしょう。
しかし、このままではそれらの美しい景色でさえ、憎悪の対象としてしまいそうです。
父さん、僕はこの世界に復讐することにします。
色々考えたけど、やはりこれしか選択肢はありませんでした。
僕はどうしても許すことができないのです。
自分を、そして世界が―――。
これから話すことはこの世界の真実です。
ですが、目を逸らすこともできます。もし安寧を望むのであれば、これ以上は読まずにこの手紙を焼き捨ててください。
一万字未満で完結する予定です。