第6話 再転生した厨二病男子は気付かない〜後編〜
「倉橋!こっちにパスくれー!ノーマーク!」
いや、てめぇの真後ろに1人いんだろうが。
「倉橋くん、左サイド頼む!」
そこは俺が行くより、左サイドのやつをオーバーラップさせた方がこっちのサイドががら空きになってチャンスになるだろうが。
所詮、授業でやるサッカー、なんも期待してないがいちいち耳に障る。
「倉橋ー!」
「倉橋くーん!」
・・・くっだらねぇ。
何万回この言葉を口にしたかわからねぇ。どいつもこいつも目先のことしか目をやらない。周りどころか、てめぇ自身のことすら見えてねぇ。
付き合うだけ時間の無駄。
確か最初に感じたのは、小3の時、地元のクラブチームの連中の視野の狭さ、思考の浅さ加減に失望した時だ。
同年代にはもともと期待してなかったが、俺より年上の連中ですら足元にも及ばない。俺のイメージする動きに誰もついて来れない。というより理解しようとしない。口先だけでかい事言うくせに、そこに至るまでの道筋が全く見えてないのが丸わかり。言うまでもなくひと月も経たないうちに、俺はそのクラブチームを後にした。
その後も、空手、柔道、剣道と親に無理矢理稽古に通わせられたが、どれも似たようなもんで、結局俺の相手になる子供など存在するはずもなく、高学年になり、背がそれなりに伸びたところで大人相手にやったりもしたが、体力で劣るものの思考の裏を描かれることなんざ滅多になく、結局暇つぶし程度にしかならなかった。体を動かすこと自体は嫌いじゃねぇからまぁいいけど。
中一にあがって、そんな毎日に少し変化があった。暇つぶしにネットを漁って見つけたオンラインゲーム。全世界7000万売上やら1周年記念やらで、なんか色々特典が貰えそうだったからとりあえず始めてみたが…
こりゃあ、なかなかバカにならねぇな。
ゲームなんて時間の無駄だと思って今まで一切手を付けてなかったが、頭の中で処理する情報量の多さ、それを瞬時に判断してコマンドを入力する快感。なかなか俺好みじゃねぇか。
プレイ開始から1年、また少し変化があった。気付けば、俺はランキング5位の地位にいた。周りからフレンド登録申請やパーティー申請やらが毎日うざかった。どーせ大した奴らじゃねぇだろうし、断ったら断ったでろくでもない噂を勝手に流して喜んでやがる。ほんとくっだらねぇ。
そんな時、期間限定のレイドイベントで、やたら上手い剣使いが目に付いた。なんだ、こいつ。上手さとかとは、違う。いや、上手いには違わないんだが、なんつーか…溶け込んでいるっつーか。ゲームでカットインするムービーを見ているような。そう、まるでこの世界でリアルに生きてるような…
悔しいが、見惚れてしまった。
「危ない!伏せて!」
しまった、背後の敵か!俺はとっさに伏せる。ボストロルの棍棒が俺の背中スレスレで空を切る。
危ねぇとこだった。まぁ、礼くらい言ってやるか。起き上がろうとしたその瞬間、背中を再び何かが飛び越える。
ギャーーー!
ボストロルの悲鳴が耳元で聞こえる。急いで起き上がって飛んできた方向を振り返る。ってさっきの剣使いが目の前にいるじゃねぇか。
「ありが…」
って、おい待て。
そいつは、俺の方には目もくれず、そのままボストロルに刺さった剣を引き抜いて、そのまま次の標的へ向かいやがった。
「んにゃろう」
その後、夢中で敵を狩りまくった。奴にはポイントでぜってぇ負けたくない。ぶった切ってぶった切ってまたぶった切って…いつからだ。俺の口元、にやついてるじゃねぇか。
アカウントの名前は・・・リンネか。
ポイントはギリ40ポイント差で俺の勝ちだった。どうだ、見たかあの野郎。柄でもねぇが、一言あいつに行ってやりたくなって、気付いたら話しかけてた。
「おまえ…すげぇな!」
生まれて初めて、俺はそう口にしていた。
−
「こっち寄越せ!」
「前!前に蹴れ!」
「マークマーク!」
「倉橋!頼む!」
はぁ、めんどくせ。俺の足元目掛けてボールが転がってくる。前方から1人、サイドから1人か。右足でダイレクトにそのままボールを軽く前方へ蹴り上げる。前からくる奴の頭スレスレを越える程度に。そのままそいつを横切り、ノーバウンドでトラップを決めてそのままトップスピードで駆け上がる。
−
レオさんはいつも、まるで狩人のようなスピードで、獲物目掛けて駆け抜ける。大剣使いでこんなに早い人を見たことがない。レオさん曰く、武器に火力は任せてキャラのスピード上げた方がやりやすいんだそうだ。なるほど、剣聖も似たようなこと言ってたっけ。
「そこいらの別職種連中に負けない自信はあるな、お前は別だけど」
ちょっと嫌味な口調でレオさんが言う。
「僕は剣使いだからね。レオさんの方が異常だよ」
「気持ちいいんだよな、相手の裏をかくのって。大剣使いってだけでトロいと思ってる奴らの前で、こうやってズバッと」
−ズバッ
俺の右足から放たれたボールは、勢いよくD組のゴールネットを揺らした。
「またA組のあいつかよ」
「なんであの図体であんなにはえーんだよ」
「もう2点目だろ?」
「あの、皇でさぇ足止めするのがやっとだもんなぁ」
「それは僕にもっと頑張れって言ってるのかな?」
「わっ!皇!そ、そういう訳じゃなくて」
ほんと、好き勝手言ってくれるなぁ。
とはいえ、D組のみんなが慌てるのも分かる。2-Aの倉橋獅子也くん、これは思わぬ伏兵だねぇ。
まぁ実際すごいんだよな、彼。さっきから何度か対峙してるけど、勝率は控え目に言って3割程度。身長は180cm位かな。僕とあまり変わらない。反射神経、運動神経は五分ってところか。つまり、読み合いの部分で、やや負けてる。
「これはどうしたものかな」
―
「ほんとどうしたもんか、こいつぁ」
珍しくレオさんが弱音?・・・違うな。だってレオさん、嬉しそう。
「確かに75層は5の倍数なだけあってなかなか手強いね」
「流石に2人だとキツくなってきたのは本音だな。ま、お前がいればなんとかなりそうだけどな」
「こっちのセリフだけどね、それ(笑)」
「ほんと、こんな奴がいるなんて世の中捨てたもんじゃねぇな」
まったく捨てたもんじゃねよ。
「だから、それもこっちのセリフだって」
初めて肩を並べたいって思えたやつ。
「なぁ、リンネ」
「ん?」
「今度さぁ、やろうぜ」
「え?」
「こないだの続き」
「えっと…あぁ!こちらこそ、望むところだよ」
−
ほんと、言うようになったじゃねぇか。こないだ、突然不抜けちまったから、柄にもなく心配しちまったが、お前は俺の予想を超えてきやがる。
「ハァハァ、倉橋ー!もう1点ダメ押しー!頼む!」
大きく前線に、だが適当に蹴られたボール。俺より落下地点にいるやつ呼べってーの。
俺はフィールドを駆け抜ける。落下地点へ目掛けて、誰よりも早く。そしてゴールまでの軌道を確認する。
誰か、いる。アイツは確か・・・
まもなくボールが天空から俺の予測ポイントへと落下する。
自然と右足に力がこもる。
「挨拶がわりだっ!」
バシッ!
俺は豪快に右足を振り抜く。まるで大剣を振るうが如く。
「里尾―!ボール行った!頼むー!」
「死守ー!死守ー!」
「ってか危ねぇ!」
ボールは勢いよくゴール・・・ではなく、D組の里尾目掛けて飛んでいく。
「え?うわっ!」
しまった!昨日レオくんと交わした再戦の約束を思い出してボーッとしてた!でも、この距離なら…間に合う!
「大地に宿る英霊よ。天空を舞う息吹のかけらよ。我が身に集いて守護の防壁とならんことを命ずる…」
何度もこの身を守ってくれたこの呪文…
「具現せよ!ウインドシール…グハッ」
ってここは前世じゃないじゃん!またやってしまったー!っとゆーより、あれ?意識が…
これはどうやら気絶する流れかぁ。笑い声が遠のいていく。
「出た!噂の勇者くん!」
「なんだよ今の!ゲームやりすぎー!」
ギャハハハハハッ
ーあ~またひとつ、僕の黒歴史が刻まれていく・・・
クククッ
「勇者リンネ、か。ほんとおもしれぇヤツだよ。」




