第5話 再転生した厨二病男子は気付かない〜前編〜
クスクスッ…
「ねぇ、彼じゃない?D組の勇者クン」
「え?何それぇ」
「アンタあの日遅刻してたっけ。あ〜あ、あんなビッグイベント見逃すなんて」
「ちょ!それ気になるぅ、教えて教えて〜」
校門から下足室へ向かう長い通路。横切る女子生徒のそんな会話が聞こえてくる。
「ゔ~…死にたい」
頭を抱えてその場にうずくまりたくなる。
「すっかり厨二病くんから勇者に大出世だねぇ、廻くん」
「光生くん、それ、慰めてないよね!」
「あの時の里尾くん、なんだか凄かったもんねぇ」
「そ、そう?」
「なんだか、そう…昔の…」
−キーンコーンカーン…
「おっと、予鈴が鳴ったみたいだね」
「うわっ、2人とも、早く行こう!」
そう言って私たちの前を駆け出す里尾くんに…
私のヒーローだった彼の面影を感じた。
里尾くんはあの日から、少し変わったんじゃないかなと思う。
「ユッキ姫ちゃ〜ん♪」
「キャッ」
毎朝私に抱きついてくるのが千鶴子ちゃんの日課、みたい。
あまりにも嬉しそうにしてくれるから、やめてって言えないんだよねぇ。
「もう、心臓に悪いよぅ」
「だって姫が今日も可愛いからさぁ。メグルっちにあんなアツ〜イ視線を送る姫を見てるとこっちまで心臓がキュ〜っと」
「え!?」
「そんな愛くるしい表情見せ付けられちゃあ、お姉さん、もうたまらんのです♪」
「ちょっと!そ、そんなことないもん!」
そう、そんなんじゃない。ただ…里尾くんを見てると感じるの。
里尾くんの変化に…違和感を。
「廻くん、あの日からなんだか、変わったね」
「みんなから向けられる好奇の目は変わらないけどね」
「そう?前よりは好意的な人も増えてきてるように見えるけど。それに、廻くんもなんだか楽しそうだし」
「色々気にしてもしょうがないしね。楽しいのは、光生くんが貸してくれた、これのお陰だよ」
そう言って彼は、いつものように僕に「幻想物語」のレポートを渡してくれた。
僕は彼にゲームを貸す代わりに、定期的なレポートの提出を依頼している。
「有難う。お陰で色々参考になって助かってるよ。」
そう言いながら、早速、僕はレポートに目を通す。
−
「リンネ!後ろ!」
レオさんの声がモンスターの気配より一瞬早く僕に届く。僕は反転した勢いで、分厚い胴体を一閃する。
「レオさん!伏せて!」
回転の勢いを殺さず、そのままレオさん目掛けて剣を投げる。レオさんはこちらに目を向けず、瞬時にしゃがみ込む。僕の剣がレオさんの背中をスレスレで通過し、そのまま敵を射抜く。
「これで、終わりだ!」
流石レオさんだ。ただしゃがんだだけじゃなく、すでに次の一撃のために踏み込んでいた。
「ふぅ、これでようやく76層も概ね目処がついたな」
「こないだの更新で増えた80層まで、後4層だね」
「この分だと…来週末くらいにはクリアできそうだな」
「そんなにかかるかなぁ」
「フッ、こないだまで腑抜けてたやつのセリフじゃねぇな」
レオさんは嬉しそうに高笑いする。
−
「それにしても、ランカー2人が揃うと、こうも容易く新層がクリアされてしまうんだね。一応、現状のレベルカンストプレイヤーが4人がかりで1ヶ月かかる想定だったんだけどね」
「レオさんの強さが尋常じゃないからね」
「廻くんだってまたランク上げたらしいじゃないか。ランキング5位だったっけ」
「ついついのめり込んじゃって、ははは」
そう、廻くんの成長は著しかった。
「幻想物語」は僕のアイデアを元に、皇コーポレーションの開発チームが手掛けたゲームだ。皇コーポレーションはV Rゲームの第一人者、皇帝が一代で築き上げた大手ゲーム会社で、本来なら、僕のアイデアが採用されるはずが無い。
そもそも僕には、ゲームに割く時間なんてない。皇家の次男として、あらゆる英才教育を幼い頃から受けていた。その甲斐もあり、プログラムやシステムの構築に関しては、既にプロの大人と会話できる程度にまで至っている。
では、何故そんな僕のアイデアを父が実現させたのか。それは、このアイデアが僕の記憶の中にある、今は亡き兄が幼い頃よく話していた構想を元にしているからだ。
「それにしてもすごいよね、光生くん。あんな面白いゲームの開発チームに参加してるなんて」
「大したことないよ。僕は記憶をサルベージするだけだからね」
「記憶?」
「気にしないで。こっちの話。まぁ普段ゲームする時間なんて作れないから、廻くんみたいな優秀なプレイヤーがモニターになってくれることは有難いんだよ」
ゲームのモニターは様々な年齢層から無差別に1万人ほど依頼している。その中でも彼は異彩を放っている。
当初、僕が彼に期待していたのは、厨二病で学内の有名人だった彼の意見だ。だが彼には、2回モニターの話を断られている。断られた理由は…彼の独特な言語でうまく理解ができなかったんだが(苦笑)
記憶を失った彼にモニターを依頼したのは、ほんの見舞いの品がてらのつもりだった。それがたった半年足らずでトッププレイヤーの仲間入りを果たすなんて、嬉しい誤算だった。
それに、まだうまくは言えないけど、彼には…
「ほんとだったら僕なんかよりレオさんみたいなプレイヤーがモニターしてくれた方が、よっぽど為になる意見を聞かせてくれそうだけどね」
「3位のレオニダスさんだっけ?そんなにすごいんだ」
「ほんとすごいんだって!なんて言うのかな、ゲームを熟知してるっていうか…プレイ開始したのはリリース1周年のタイミングっていってたかな。それに」
「それに?」
「洞察力が優れてるのかな。予測能力がすごいというか。戦場を掌握してるっていうか」
「そういえば予測能力といえば…」
「どうしたの?」
「廻くん、こないだのA組との合同授業でやったサッカーのこと覚えてる?」
自慢じゃないが、僕は運動で遅れをとったことは久しく記憶になかった。
先日の授業で、2―Aの倉橋獅子也と対峙するまでは…