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第4話 再転生した厨二病男子は屈しない〜結編〜

「おい、あれ見ろよ!」

「ランキング3位のレオニダスと7位のリンネが決闘おっ始めそうだってよ!」

「マジか!こんな好カード、闘技場でもなかなか観れへんやないか!」

「なんか揉めてんのか!?」

「単なる力比べじゃね?」

「これ見逃した奴、オツだわ。ちょいフレにDM入れとこ」


ヤバイ、どんどん外野が増えてくる。レオさんの意図が全然分からないけど、こんな状況で断ったらレオさんに恥をかかせることになる。


「…いいよ」


僕がそう答えるや否や、レオさんがカーソルを「決闘を申し込む」に合わせる。僕も「受理する」を選択。

このゲームでは基本的に、街中でプレイヤーキルが出来ない仕様になっている。決闘する場合にのみ双方の攻撃だけが相手に干渉するようになる。その他プレイヤーや建造物には全てが無効化され、決闘の影響が及ばないので、僕らのプライベートマッチをその場でリアルタイムに観戦できる。


「それじゃあ、いくぞ」


と同時にグランフェルデントの剣先が再び僕の目の前に現れる。思わず、後ろに倒れそうになるところを、とっさにバク転で回避する。

着地の瞬間を狙って、すかさずその大剣が振り下ろされる。避ける動作じゃ間に合わない!僕は剣でその大きな刃を受ける。


途端に手元のコントローラーが大きく震える。このゲームでは、より臨場感を出すために、攻撃の強さに応じて、コントローラーの振動が変化する。


大剣は同じ軌道で連撃を振るう。手元で暴れるコントローラー。くそ!こんなの耐え切れない!

大剣を振り上げるタイミングに合わせて体を左方向へ回転し、レオさんが大剣を持つ手の側面に周りこもうとした。回転の勢いを利用して手元を狙う算段だ。


間一髪で、その大きな刃は僕ではなく地面に叩きつけられる。だがすぐに真横へ向きを変えて、僕目掛けて向かってくる。

ヤバイ!読まれてる!大剣の刃が剣を持つ右手に今にも触れそうになる。すれすれのタイミングで水平になった大剣の刃の表面に合わせるように、僕は剣先を沿わせて大剣の刃を中心に側転し攻撃を受け流す。



「何このハイレベルなバトル」

「2人とも全然スキル使ってねぇじゃん」

「こんな野次馬だらけで手の内晒さないでしょ」

「にしてもプレイスキルえぐすぎ」

「リンネ、防戦一方じゃね?」

「やっぱランキング3位は伊達じゃないな」


確かに僕は回避するのに手一杯ではある。だけど、野次が聞こえてくる位の冷静さは取り戻せたみたいだ。耐えず手元でコントローラーが振動し続けるお陰か、指先に神経が集中し、自然と不要な思考が削ぎ落とされていく。


とはいえ、レオさんの攻撃は息つく間もなく続く。レオさんの集中力、すごい!

回避系のコマンドは攻撃コマンドよりシンプル。つまり、僕のコマンドより圧倒的にレオさんのコマンド数の方が多い。なのに途切れない。こちらが攻撃コマンドを入力する隙が生まれない。


5分間…全く途切れる間もなく続く連撃。僕の集中力が研ぎ澄まされてきたのか、息を飲む展開に野次馬が黙り始めたのか、何もノイズが聞こえなくなる。胸の奥で高揚する何かを感じる。


そういえば、剣聖ともこうやってよく組み手をしてたな。無心でただお互いに研磨し合う。剣を重ねる衝撃と音が心地よさを生む。お互い相手の癖を知り尽くしてるからこそ続く攻防。癖…待てよ。


レオさんのこのリズム、僕はよく知っている。レオさんはいくつか得意なコンボをループして繋げているのだ。

大剣の大きなアクションと僕の体さばきの派手さで一見分からないかもしれないが、手元から伝わる一定のリズム…

毎日何百回も見てきたから分かる。ループしているコンボのパターンはたった3種類。レオさんなら僕が知ってるだけでも、その5倍くらいのパターンを持っているはず。なのに…


言葉は何も交わしてない。だけど伝わってくる。レオさんの真意。

…ちゃんと応えなきゃ!


「…次だ」


振り下ろされる刃を後転して避ける。すかさず大剣を振り下ろした勢いで突きを繰り出すレオさん。こちらも後転した右足が着地すると同時に地面を踏み込む。そして剣先をグランフェルデントの剣先へぶつける。


-キンッ


その衝撃で僕の体がノックバックする。

…だけどようやく、戦闘態勢になれた!



「…たく。できんじゃねぇか」


そう言いながら、グランフェルデントの剣先を僕から外し、レオさんはその大きな刃を背中の鞘にしまった。



そのまま30秒ほど静寂が続き、ゆっくりと僕も剣を鞘に戻した。


「…え?もう終わりかよ?」

「もっと見せろよ!」

「そーだそーだ!」

「出し惜しみしてんじゃねぇ!」


誰かがポツリと言った一言。途端に決壊するダムの如く、周囲が怒号と罵声で溢れかえった。素晴らしい戦いを観たという歓声より、食い足りなさに近い不完全燃焼感が勝り、伝染したのだ。


「ちっ」


耳元で小さくレオさんの舌打ちが聞こえた。でも僕の思考は、そんなレオさんへの気遣いではなく、別のことを思い出していた。


-この光景、どこかで見たことある。


あれは、確か前世で僕が始めて救った村だった。当時モンスターに侵略されかけていたその村で2人の幼い兄妹を生贄として差し出そうと、村中の人々が2人を囲み醜く罵っていたのだ。

あの時、その初めてみるおぞましい光景を前に、僕は足がすくんでいた。

だけど、ふと誰かに言われた言葉がその時の記憶で呼び起こされ、僕を奮い立たせたんだ。



「震えるほどの恐怖や困難に負けそうになったらな、そいつに拳突きつけて笑ってやれ。ヘタレそうになる弱っちぃ自分自身をよ。」


どうみたって相手に対する挑発的なその行動は、自分の尻を叩くためだというのだ。


「そしたら、目の前の苦難が馬鹿らしく思えてくる。結局人生、笑ったもん勝ちなんだよ、バカ息子」



そんなことを考えながら鳴り止まない罵声の嵐の中心で、僕は再び剣を抜き、天へ振りかざした。

途端に静まり返る。そこにいた殆どのものが、ようやく熱い戦の続きが見れると再び興奮し始めたのが分かる。


「ははっ。あははははっ」


僕は、笑った。そして、剣を観衆の方へ向けた。


「そんなに血がたぎってしょうがないんだったら、僕がまとめて相手しますよ」


瞬時に凍りつく一同。


「ククッ、クックックッ。ワッハッハ!やっぱりおもしれぇよお前、リンネ!」


そう言って、今まで聞いた中で一番嬉しそうな声で、レオさんも笑った。




週明け月曜日。全校朝礼の放送を前にして、僕は自分の席で考えた。

転生して、今の生活に馴染むことに必死になってるうちに、無意識のうちに僕は、前世の自分をどこかに追いやろうとしていた。


でも違うんじゃないか。前世の時だってそうだったじゃないか。世界を救う、そんな無謀なことを最初は誰も信じず、糾弾されたりひどい時には変人扱いさえ受けた。その状況を打開し、変えて、大きな力に変えることができたのは…


僕は教室を飛び出し、廊下を全力で駆け抜け、勢いよく放送室の扉を開けた。


5分後に朝礼放送を控えた放送室には、機材前に担当の放送部生徒が陣取っていて、そして少し後方に先生が数名待機していた。突然の出来事で呆気に取られる彼らの間をズカズカと通り抜け、僕はマイクを力強く握りしめた。



「えーっと。全校生徒の皆さん、おはようごうざいます。2–D組の里尾廻です。突然ですが、皆さんに聞いて欲しいことがあります。最近、ネットのとあるサイトで、一部の生徒を心ない言葉で蔑み、罵り、攻撃している人たちがいます」


後ろの方で、ざわつき始める声が聞こえる。構うもんか。


「本人は、ストレス発散の軽いノリでやってるんでしょう。ネットだから匿名性もあり、他に仲間もいるから何も考えず笑っていられるんでしょう。まぁ、人間です。弱い生き物です。そこは百歩譲って認めましょう」


僕は続ける。自然と声に熱い想いが込められる。いつだってそうしてきた。


「でも、ちょっとだけ。一緒に笑っている仲間、いやその下劣な同類を冷静に見てください。他人として客観的に見てください。そしたら少しは分かるはずです。自分がどれだけ醜い姿になっているのかを。ゴブリン以下です。そんなあなたの言葉で、苦しんでいる人達がいるんです。自分の気を晴らしたいからって、脳味噌スライムみたいに溶かさないでください!」


色んな気持ちが込み上げてくる。サイトで自分に向けられた妬みや蔑みへの怒り、そんなものに負けていた自分への憤り。そんな自分への決別と決意とするために。


「僕は、そんな人間になりたくない。そんな弱さで誰かを傷つけたくない。いつ、自分や自分の大切な人に被害が及ぶかもしれない」


-だから、


「だから、僕はそんなものに屈しない。どれだけ愚者と罵られようとも、大切な仲間のために勇気を持てる、僕は勇者でありたい!」



そう言い放つと、僕は、未だに呆然としている室内の皆さんへ一礼をして放送室を後にしようとした。


「ちょっと待ちなさい」


背後から怒りを押し殺した教師の声が聞こえた。僕は悪寒を感じながらゆっくりとドアへ近づく。


「なかなか心に響くスピーチでした。ですが…」


これはヤバイ展開だ!急いでドアを開けると勢いよく閉めた。ドアの向こうから


「時と場所をちゃんと選びなさい!」


怒号と共に扉を開けようとする大人の力を感じた。僕は必死にドアを閉めようと力を込めた。


「廻くん!こっちだ!」

「里尾くん!早くぅ!」


声のする方へ顔を向ける。光生くんと天崎さんだ。どうやら2人は僕の言葉にいてもたってもいられなくなったようだ。僕は、ドアから手を離し、2人のいる方へ全力で走り出した。



-月曜の朝から各教室のざわめきが学校中に響き始めた。



「なるほどねぇ、そう来るわけ…か」


その口は不敵な笑みを浮かべていた。


「やっぱり君はボクを楽しませてくれるよ」


ようやく動き出す…ニヤつきが堪えられないよ、これは。





光生くんと天崎さんと廊下を駆け抜ける。僕らを追いかける先生。3人とも笑いが止まらなかった。

もう、周りの目を気にしてうまく生きようとすることはやめよう。前世の僕と現世の僕、両方ごちゃ混ぜでありのままで生きてやる。


どうせもうすでに、厨二病全開の残念くんってレッテルは貼られてるんだから。

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