第3話 再転生した厨二病男子は屈しない〜後編〜
あれから三日、記憶があまりない。
学校は…多分、毎日行けてたはず。ちゃんと出来てたかは…
こんな立場になると、普通は引きこもるのかな。ただ、僕の場合、直接学校で何かされてるわけじゃないから、突然行かなくなると光生くんたちに心配を掛ける。それに、上手く説明出来ないけど、多分今この気持ちに負けると、もっと辛い何かに負けそうな気がする。
「う〜ん、疲れたぁ。ねぇ、里尾くん、今日の実力テストどうだった?」
「え、う、うん」
あれ?今、天崎さんに声かけられた?
でもいっか。僕と話してたら、そのうち天崎さんたちに矛先が向かうかもしれない。
「今日も…イン…してないかぁ、メグルっち」
最終ログインは3日前…こりゃ直帰して布団にうずくまってるコースかねぇ。
学校で遠目に見てるけど…
「廻くん、最近元気ないみたいだけど、大丈夫?」
「う、うん」
「…何かあったらいつでも言ってね」
「…」
みたいな感じで、スメラギっちとミキ姫が気にかけてもなんか避けてる感じだし。ま、メグルっちのことだからどうせ2人に飛び火しないようにとか気を遣ってるんだろうけど。
−さらに三日後
「聞いた?D組の里尾のやつ…」
「…てか…サイト見てるけど、ま、ざまぁみろって感じ?」
「なんか…憶喪失なのいいことに、天崎さんとか皇とかはべらかしてるんだろ?」
−ガコーンッ
思いっきり机を蹴り飛ばす音に2―Aの教室が静まる。
「おい!…橋!まだ授業中だぞ!!」
「すみません。気分が悪りぃんで帰ります。」
「ちょっと待て!おい!」
そう言いながら教室を出ると、後ろの方で小声がする。
「…いっそ、誰かあいつのこともつるしてくんねぇかね。」
「違いねぇ」
「てかすでに晒されてんじゃね」
くっだらねぇ。どーせ相手にしたらしたでああいう奴らが…
「図に乗って増長するだけなんだけどねぇ…」
ああいったサイトに書き込む連中は、気晴らしに見下せる標的を探している。つまり、自分たちの言動で標的が弱れば弱るほど、水を得て泳ぎに精を出すんだよねぇ。
それに、メグルっちの行動は完全に悪手。だって…
「千鶴子ちゃん…里尾くん、どうしたのかなぁ…」
愛おしさと心配する感情を歪に絡ませた視線をメグルっちの後ろ姿に向けながらポツリと呟くミキ姫。
はぁ〜…こっちもそろそろ限界っぽい。
負の連鎖はこうして紡がれていくわけだ。
「さて、どうしたもんかねぇ」
「…ただいま」
今日で何日目だっけ。なんだか階段をのぼる足が重い。…そっか、食事もあんまり食べれてなかったっけ。
−バフッ
ずっとフトンにいるのもだるくなってきた。
なんでこんなことになったんだっけ。僕が何かしたか?そもそも誰が書き込んだんだ?あーそういえばこないだ天崎さんと話してたら陰口叩いてたあいつらかな。
なんか毎日おんなじ事が頭ん中でぐちゃぐちゃになってる。
投稿者:無題「2-DのS尾、マジうぜぇ」
投稿者:無題「悲劇のヒロインヅラ乙」
投稿者:無題「厨二病痛オくんが記憶喪失で逆シンデレラ顔してんじゃねぇよ」
-僕がなんの迷惑をかけたんだよ…
投稿者:無題「同情誘ってチヤホヤされるとかマジイラつく」
投稿者:無題「注:厨二病こじらすと記憶なくします笑」
-僕だって好きでこんなんになったんじゃない
投稿者:無題「アイツの吐いた息吸うと記憶なくなります」
-なんだよそれ
投稿者:無題「俺も記憶飛ばして〇〇さんと仲良くなりてー」
-そんなの知らないよ
投稿者:無題「おまえじゃ100万回飛ばしても無理じゃね?」
-うるさい・・・
投稿者:無題「記憶じゃなくていっそ存在無くせばよかったのに」
-うるさい!!
僕は、甘かった。
いつかなんらかの形で起こりうるかもと心の準備はしてたつもりだった。そうならないように、出来るだけ目立たないようにしようと思ってた。だけど・・・
-非がないのに好き勝手攻撃されると、心がエグられる
「・・・僕って一体なんなんだよ・・・」
キィーーーン
スリープモードの音がハード機から聞こえてくる。
そっか、そういえばあの日以来インしてないな…レオさんに何も連絡してないし…
「…イン…してみようかな…」
タイトル画面の光がいつもより眩しくて、電気もつけずにいたことに気付いた。
…うん、レオさんインしてる。
僕は、インしてそのままユグドラシルに向う。
さすがに何も言わずに何日も来てなかったから、もう見捨てられちゃったかな。こんなことならすぐにレオさんに話せば良かったかな。オンラインだからこそ、匿名な存在だからこそ、普段話せないようなことも言える訳だし。てか、この発想、サイトに書き込むような奴と同じじゃん。
なんだかまた重い気持ちにやる気が削がれそう…
「よう」
ハッとした。気付けばいつもの場所についてたみたい。というか、レオさんがいつもの場所にいてくれた。なんだか胸の奥が急激に熱くなる。目元が震えてるのもわかる。
「ひ、久しぶりだね。…なんか、ごめんね。えっと…」
「んじゃ、行くか」
うん!と答えたら声が裏返ってしまった!レオさんが笑いを堪えてるのが伝わる。僕はただただ泣きそうになってるのがバレないように慎重に言葉を発することにした。
−4層
−17層
−22層
最初こそ、普通に話せていたけど層を重ねるごとに徐々にあの重い感情に侵されていく。普段通りの動きができない。いつもなら、2人ともこれくらいの階層までならほぼノーダメージなのに、僕のライフゲージはすでに1/3を切ってる。
「ー!」
なんで今僕、ゲームなんかやってるんだろ。こんなことする暇あったらもっと考えなきゃいけないことが…
「危ねぇ!リンネー!」
しまった!レオさんの声で振り返った瞬間、デビルキマイラが至近距離で大技のブレスを放った瞬間だった。これじゃ避けられない!
−
リスボーン地点の首都から一歩も動けない。ボタンを押す指に力が入らない。
一体何がしたいんだ僕は。レオさんを口実にゲームしたくせに、結局レオさんに迷惑をかけてる。こんなんじゃ返って嫌われる。レオさんにまで見放されたら、僕はいったい…
「おい、リンネー」
街の入り口からリスボーン地点へ向かう道の方からレオさんの声が聞こえてくる。
なんで?僕らのルールでどちらかが離脱してもそのままプレイをする。それがお互いを強者と認める証だった。その絆が歪んでしまう…
なのに僕の頭の中にはそんな悲観した感情はなかった。また胸の奥が熱くなってきた。無意識にレオさんの方へ駆け寄りたくなった。
−スチャ
何が起こったのか分からなかった。ただ、紙一重だったことはわかる。顎を伝う汗が、レオさんの愛刀グランフェルデントの剣先に滴となって落ちる。僕の首元ギリギリに突きつけられた剣先に。
思考が追いつかない。姿勢をそのまま剣先からレオさんに向ける。レオさんのアバターはいつもと変わらない表情のまま。変わるはずのないキャラの無表情さが、いつにも増して冷徹に見える。
「リンネ。俺と決闘しろ」




