第20話 再転生した厨二病男子は逃げられない〜邂逅編〜
…足りん。この世界のものは何もかもが足りん。鬼気迫る悲鳴、ほとばしる殺気、生への渇望、そして…それらを蹂躙する快楽…
どれ一つとして、余のほとばしる欲求を満たすに遠く及ばぬ。何より不自由極まりないこの肉体。余の全力のかけらも発揮できぬ。だが、こんな体にすら傷一つ付けられぬゴミ屑どもに心底あくびが出る。
城があるなら、先日の小僧くらい遊び甲斐がある奴が少しはいると思ったが、期待外れも甚だしい。
もういい…飽きた。
とっと城攻めを済ませて、退屈しのぎのプランでも考えるとするか。
―
ハァハァッ、ハァハァッ
「くっ、全然前に進めない!」
ロルアーナ城の方から次々と逃げ惑う人たちの中をかき分けて進もうとするけど、この城下町エリアだと道幅のせいもあって中々思うように進めない。それに、実際より狭いエリアとはいえ、建物が立ち並ぶこの中からみんなを探すことが僕にできるのだろうか…
いや、できるかどうかじゃない!やるしかないんだ!
ドンッ
「邪魔だぁ!」
「うわっ」
ドカッ
反対方向から逃げていた屈強な男性と衝突した反動で僕はお店の外壁に吹き飛ばされた。
カランカラン
その反動でズボンの右ポケットから一つの筒が転げ落ちた。
僕の瞳孔が大きく開く。
「…イマジネーター!」
そうか、イマジネーターで肉体を強化すれば、屋根の上から探すことができる!ただ、こんなパニックの中で自由に飛び回ってたら、最悪、僕がこの騒動の首謀者と誤認される可能性がある。
僕は慌てて周囲を見渡す。何か顔を隠すもの…これだ!
急いで僕は先ほど、壁に叩きつけられた店内の扉を開ける。そこは武器屋をモチーフにした土産屋で、オブジェとして甲冑と盾、そして剣が入り口のすぐそばに置いてあった。
咄嗟に兜を外して被ってみる。
お、重いっ。
一応鉄製のその甲冑は、とてもじゃないけど鎧まで装着できる余裕はなさそうだ。でもこれで面が割れる心配は避けられる。それに、この盾と剣…待てよ?
僕はイマジネーターを握り締め、静かにイメージする。すると、光を放ったイマジネーターが両腕にグローブとして姿を変える。咄嗟の判断としては、悪くないはず。これでイマジネーターの肉体強化を使いながら、両腕を自由に使える。
つまり…剣と盾が持てる!
すぐさまそのオブジェから剣と盾を抜き去り、僕はお店の外へ飛び出した。そして裏路地に入り、壁を三角飛びの要領で駆け上がる。
屋根から見下ろす景色は、異様な光景だった。園内には楽しげなBGMが変わらず鳴り響き、アトラクションの音と逃げ惑う人の悲鳴が混ざり合う。その中で園内放送らしき声が園内の様々なスピーカーから混乱を沈静化させるための放送がタイミング違いで鳴り響くせいで、鼓膜へ次々と押し寄せる音の津波が僕の脳を揺さぶる。
軽く首を左右に振り、意識をしっかり保とうとする。
「とにかく、みんなを探さなきゃ!」
僕はロルアーナ城に続く建物の屋根をつたって、なるべく注視しながらみんなを探した。しかし、予想以上の人の量で、思ったよりうまく探せない!それに時折、前方から聞こえる鈍い爆破音や一際大きくなる悲鳴が耳に突き刺さる。
「いやぁぁぁ!!」
気付いたらすでにそこは、さっきまで天崎さんといた城前の橋のすぐ近くまで来ていた。
悲鳴のする方へ目をやると、恐怖で膝から崩れ落ちた女性が心底怯えた表情を、目の前から近づいてくる得体の知れない男に向けている。
自然と力が籠った右足が強く屋根を蹴りつける。
―
「なんだ、貴様は」
その男は僕にそう問いかけた。セリフとは裏腹に、その声はどことなく喜々とした響きすら感じさせた。
距離としては、まだ20mほどある。だが男は警戒する素振りを微塵も見せず、変わらないペースでこちらに近づいてくる。このままではものの数十秒で僕らのところに辿り着いてしまう。
「あっぐ、あぐっ」
背後から聞こえる、嗚咽に近いような声を絞りだす女性のことを考えると僕にできる選択肢はただ一つ…
ダンッ
僕は盾を前方に構えるや否や、地面を強く蹴り付けシールドアタックを試みた。たとえ悪人だろうといきなり剣で斬りかかるのに躊躇してしまった。
!!!!!!!!
左手からとてつもない衝撃が走る。と同時に僕の体は後方に吹き飛ばされる。慌てて身を回転させて、受け身を取る。咄嗟に再び盾を構えて、すぐさま前方に視線を向ける。
右足を大きく前に伸ばし、腕組みしたその男は、不敵な笑みを浮かべている。何者なんだ、アイツは!?
イマジネーターで強化された僕のスピードは、例え一流の格闘家ですら初見で反応できるものではないはず。
その攻撃にカウンターを合わせてくるなんて、僕が言うのもあれだけど人の為せる技じゃない。
剣を握る右手に力がこもる。
「クックックックックッ…フハハハハハハハハッ」
突然、高らかと耳障りな笑い声を上げる。
「ようやく少しは骨のある奴が出てきたか!そこの小僧、光栄に思え!貴様が今日の贄だ!」
その瞬間、僕の全身に寒気が走る。筋肉が硬っていくのがわかる。
鬼のような形相に変貌しつつ、先ほどの何倍も嬉々とした表情を浮かべるその男が放つ異様なオーラに気圧されないように、自然と僕の集中力も高まる…
「さぁ、余を楽しませろ!」




