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第19話 再転生した厨二病男子は逃げられない〜後編〜

「ふ〜っ、流石にハシャギ過ぎたかにゃぁ」

「なーに言ってるんですか!楠さん!まだまだ私は行けますよ!」

「真理亜ちゃんって意外とタフよね」

「もちろんです!リンネ様と世界中を旅していた頃に…」



ドーーーーーーンッ



「スメラギっち。今の派手な音って何のアトラクション?」

「…ん?あぁ、今のは…」


なんだ?あんな音がなるアトラクションなんてなかったはず。それに、あの方角から聞こえる悲鳴も、アトラクションを楽しむお客さんのものとは少し違う印象だ。あっちは確か…ロルアーナ城の城下町エリアか。初日で何か不具合でもあったのかもしれないし、少し様子を見てくるか。


「2人はここにいてくれない?僕は少し様子を…あれ?楠さん?」


彼女たちの方に振り返った僕の視界には、キョトンとした表情を浮かべる神林さんしか映らなかった。


「スメラギっち!なーにしてんの!」


声のする方へ再び振り返る。楠さんは今まで僕らに見せたことのないような真剣な表情を僕に向けている。

これだから、勘の良い彼女はやりづらい。


「何かトラブル発生してるんでしょ?メグルっち達が巻き込まれてたらヤじゃない?」

「それは大変です!」


神林さんも慌てて、楠さんの後を追う。


「ちょっと、2人とも!」


普段と違う楠さんの表情と行動が、僕に警鐘を鳴らす。彼女は不吉な何かを感じ取っているのか?







両拳に血を滴らせて、そいつはこちらへ確実に近づいてくる。どうする?天崎さんを連れて逃げ切れるか?

いや、多分2人じゃ逃げきれない。それに、倉橋くんの話だと、アイツが襲っているのは、力がありそうな男ばかりのはず。なら、天崎さんだけ逃すのであれば、限りなく確実に成功する気がする。

僕は、拳を握りしめて、構える。


5m……


3m……



……1m…



だがしかし、僕の思惑は大きく外れることになった。

通り魔は僕らの横を通り過ぎていった。こちらには目もくれず。


た…すかっ……た……のか…


この隙に、光生くんたちと合流して、天崎さん達を安全なところへ避難させて…

いや、アイツが向かう先に光生くん達がいたら?


今、僕に出来ること…



「天崎さん。今のうちにあいつが来た方向に向かって逃げて。それで、光生くん達を探して、見つけたらすぐに園の外へ逃げるんだ」

「里尾くんはどうするの?」

「僕は来た道を戻ってみんなを探す。万一入れ違いで、アイツの向かった先にみんなが行くとも限らない」

「でもそれって…」


里尾くんがあの人に捕まる危険だってある。あの人の瞳、まるで全てに無関心な恐ろしく澄んだ冷徹さを感じさせた。間違いなく近づいちゃいけない。


「い、今は2人で行動した方が…」

「一刻も早くみんなを見つけなきゃ。この広い園内を探すなら手分けした方がいい。さぁ!行って!」

「でも!」


ダメだ。里尾くんの声色、それに瞳に宿る力強さ。

彼の中でもう決まっている。何を言っても覆らない。


「みんなを見つけたらすぐに連絡するから…」

「うん」

「里尾くん…」

「うん?」

「絶対に無茶だけはしないで!」


彼はニコリと微笑んで、来た道を走っていく…

私は手に持った携帯電話をギュッと握りしめる。…あれ?なんで気づかなかったんだろ?

急いで携帯を開き、電話番号を探す為に履歴を開く。そこには千鶴子ちゃんの名前が分刻みで残っていた。

すぐに私は一番上の履歴にリダイヤルする。


プルル


1コールもせずに深刻な千津子ちゃんの声が耳に飛び込んできた。


「もしもし!姫!?今どこ!?」

「千鶴子ちゃん!!」

「みんな、姫に電話がつながったよ!」

「ごめん、楠さん。変わってもらっていい?」

「ちょ、スメラギっち!」


電話口でみんなの声が聞こえた。良かったぁ…3人とも無事みたい。


「天崎さん、今どこにいる?ひょっとしたらちょっと園内でトラブルが発生したかもしれなくて。今、どこにいるか分かる?」

「大きな…盾の看板があるお店が近くにあるよ」


参ったな。どうやら、彼女達は音がした近くにいるみたいだ。とにかく2人と合流することを最優先しないと。


「それじゃあ、そのお店の中で待っててくれる?僕らもすぐにそこへ向かうから」

「皇くん…里尾くんが」

「え?」



携帯を握る手に力がこもる…震える天崎さんの声が否応にでも僕の脳裏を騒つかせる。

廻くん…どうか無事でいてくれ!

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