第15話 再転生した厨二病男子は見逃せない〜後編〜
「あれから使い心地はどう?廻くん」
「それが、なかなか自宅だと使える環境が限られてて…」
放課後、いつものように僕らは教室で何となく過ごしている。気付けば日も暮れ始めてる。
「とりあえず、他の武器を具現化させてみたりしてるんだけど、なかなか上手くいかないんだよねぇ」
「そうかぁ。まぁ色々試してもらうのも参考になるけど、一番は廻くんがイマジネーターに慣れてもらう事だったりするから、気楽にね」
少し申し訳なさそうな僕に気を遣ってくれる光生くん。
「なるべく、親がいない時間にしなきゃって思ってるんだけど、いつ帰ってくるか気になっちゃうから中々集中出来ないんだよね」
なんだか見苦しい言い訳だなぁ、我ながら。
「最近、授業終わったらすぐに帰っちゃうのは、家で練習してるからなんだね」
天崎さんに練習って言われると、なんだか何か習い事みたいに思えて、ちょっと得意げな気分になってきた。
「まぁ、そのせいで最近、ミキ姫が退屈そうだもんねぇ」
「そ、そんなことないもん!」
「確かに、なんだか久しぶりだよね。みんなで放課後に話すのも」
記憶を失って…厨二病キャラで煙たがれていた僕が、こうやって充実した時間を過ごせているのは、この3人がいてくれたから。僕は生涯、みんなのことを大切にしたいって心から思う。
「おい!早く!」
廊下で、他クラスの男子が何か叫んでいる。
「校門にめちゃくちゃ可愛いコスプレ女子がいるらしいぞ!」
「え!?何それ!今行くー!」
数名の生徒が、声のする方へ廊下を忙しなくかけていく。
「なになに?こりゃ面白いことが起こってるのかにゃ?」
楠さんが窓の方へ駆け寄る。僕らの教室からだと、ちょうど正門の光景が見やすい。彼女につられて、僕らも窓の方へ向かう。
「ほほぅ。確かに謎の人だかりができてるねぇ」
正門には30人近くの生徒が誰かを囲むように集まっている。その人だかりにつられて、下校しようとする生徒が雪だるま式に増えていってるようだ。部活時間もとっくに終わって、下校人数自体少なくなってるのが、まだ救いだったのかもしれない。人が多い時間だと、正門を完全に封鎖して、ちょっとした問題を引き起こしてたかも。
その中に1人だけ、人だかりには全く興味がなさそうに通り過ぎていく生徒が少し気になった。あれは確か…A組の倉橋くんだっけ。
「ねぇねぇ、里尾くん。あれって…」
人混みの一点を指差しながら、天崎さんが僕の右手の裾を軽く引っ張る。うわぁぁぁ!天崎さんが、ぼ、僕の手をーーー!
天崎さんの隣でニヤーっとした笑いを浮かべる楠さんが視界に入って、慌てて天崎さんが指差している、人だかりの中心に目をやる。
「ど、ど、どうしたの?」
僕の挙動で、慌てて僕の裾から手を離し、顔を赤らめながら下を向く天崎さん。どうやら夢中になりすぎて、無意識にとった行動だったようだ。
突然訪れた少しこそばゆい気まずさを仕切り直すように、僕は人だかりの中心に目を凝らす。
って、ちょっと待て!あれって…
僕は、教室を飛び出した。
「僕らも行こう!」
後ろの方で、光生くんが2人を促す声が聞こえたけど、待ってられなかった。
予期せず突然人に囲まれて、宝石のような大きな瞳を白黒させて、法衣を左右に忙しなくひるがえしていた彼女は…
「真理亜じゃないか!」
一体何しにきたんだ?ってか早く助けなきゃ!でもどうやって?
下足室につながる階段を数段飛ばしながら、僕は色々思考をめぐらす。
あの人だかりから、彼女を連れ出す良い方法…
1階に着地した僕の目の前に、下足室用の用具入れが飛び込んできた。
「これだ!」
−
「キャー!可愛い!」
「これコスプレ!?」
「本物じゃない!?」
「彼女、どこの生徒!?」
な、な、なんですか!この状況は!?なんだかどんどん人が増えてきますわ!
「え、あ、えっと、みなさん、ちょっと落ち着いてくださーい!」
って全然聞いてくれない!
「わ、私は、皇さんにお会いしたいのですが!」
あら、質問の声が止んだわ。た、助かっ…
「え!皇くんの彼女!?」
「ウソー!お願いだからウソって言ってー!」
「皇くんってコスプレ趣味だったの!ショックー!」
「皇―!アイツは全男子の敵だ!!!」
全然助かってない〜(涙)むしろなんだか状況が悪化した気が〜!
「ど、どうしましょう…」
うおおおおおおおぉ!!!
「うわ!」
「なんだこいつ!」
「ちょっと!危ない!」
僕は、下足室に置かれたバケツを被り、ホウキを振りかざして人混みに突っ込む。僕の勢いに気圧されて、真理亜に向かって一筋の道が開いた。
「真理亜!」
その声に彼女が歓喜の声を上げる。
「リンネ様!」
僕は、その場にホウキを投げ捨て、代わりに彼女の手を掴む。
「このままついてきて!」
そのまま、人混みを突っ切り、正門を突破した瞬間、後ろの方で皇生くんの声が聞こえた。
「いつものお店で落ち合おう!」
僕は、バケツを脱ぎ捨てて、真理亜の手を引きながら、いつものファーストフード店に向かって再び走り出した。
−
「ほんっとにごめんなさい!」
目にうっすらと涙を浮かべて机に両手をつき、真理亜は、何度も何度もみんなに頭を下げた
「とりあえず、みんなにはちゃんと話して、事態も収集したから気にしないで」
普段と変わらない笑みを浮かべる光生くん。いや、いつもより少し疲れた表情か。
僕らが、去ったあと、3人は代わりに人だかりの的になった。理由は、そう、真理亜が光生くんの名前を出してしまったせいで、好奇の標的が彼に向かってしまったせいだ。一応、真理亜は、皇グループの社員の娘で、帰国子女で、そんでもって…まぁ、ことなきように色々と辻褄を合わせて説得してくれたそうだ。
そんなこんなで、お店について10分位、僕らは必死に真理亜をなだめようとしていた。
ただ一人、光生くんに平謝りする真理亜のその横で、ずーっとお腹を抱えて笑い続けている彼女をのぞいて。
「ヒーッヒーッ。もうダメ〜。死ぬ〜」
「もう、千鶴子ちゃん、いい加減にしなよぅ」
「だって、姫、バケツって!ダメだぁ、思い出しただけで、ヒーッ」
「まぁ、あのインパクトのお陰で、僕の方も軽傷だったしね」
そう言って、光生くんまで僕をからかい始める。少しでもこの場の空気を和ませようとしてくれてるのだろう。
「もう、忘れて…夢中だったから」
今度は、真理亜の謝罪の標的が僕に移る。まぁ、この際、黒歴史の1つや2つ増えても…と苦笑いを浮かべながら、何度も自分に言い聞かせる。
「バケツにホウキって、村から旅立つ勇者だって、もう少しマシな初期装備だよー。クックッ」
こりゃあ、当分埒が明かなさそうだ。とりあえず、楠さんのことは放っといて、僕は気になっていたことを真理亜に質問した。
「ところで、真理亜は何しにきたの?」
「そういえば、僕に何か用事だったのかな?」
そもそもの事の発端について、僕らは話を進めることにした。
「そうでした。実は、先日立ち合わせて頂いたあのテストについて少し質問というか、ご相談がありまして」
「相談?」
「そうです。あの粒子エネルギーの集積について…」
突然、彼女は話しを止めた。と同時にその場に立ち上がる。そのひどく険しい表情に、ただ事では無い緊迫したものを感じた。
「…リンネ様、感じませんか?」
「ど、どうしたの?」
彼女は、どこを見るでもなく、目を左右にゆっくり動かす。まるで何かの気配を探るかのように。そして、階段のある方で視点を定めた。
「こっちです!」
そう口にするや否や、彼女は再び全力で駆け出した。慌てて彼女を追いかける。
「みんなはちょっと待ってて!」
そう言い残して、僕はお店から飛び出した彼女の後ろ姿を追いかけた。
一体、彼女の身に何が起こったんだ!?




