第14話 再転生した厨二病男子は見逃せない〜中編〜
「ふぅ〜」
深夜2時5分…今日もやり込んじまったなぁ。
メガネエルフの話を聞いた後からイベントの素材集めを開始したから…4時間半で、真紅の宝玉が1350個、まぁ悪くないペースか。
なんか腹減ったな。コンビニでも行くか。
「獅子也!こんな時間にどこ行くの?」
階段を降りる足音でこっちに気付かれたか。リビングから姉貴の声が聞こえる。また飲んでやがったな。
「コンビニ行くならなんかアイス買ってきてぇ〜」
知るか、酔っ払い。外行き用のサンダルを履いて家を出る。
近場のコンビニだと、徒歩2〜3分だが、あそこの品揃えにも飽きたな。
「ちと遠出すっか」
それにしても、リンネとのコンビも板についてきたな。剣と大剣、その武器のリーチ差とプレイスタイルの違いが程よく噛み合ってる。
それに、意外とあのメガネエルフも役に立つ。俺もリンネも魔法系のスキルはほとんど付けてない。アイツの魔法はちょうど俺たちの痒いところに手が届く感じ。しかもあのやろう、なんだかんだで俺たちと連携が取れている。実力差のあるやつと組むと、どうしても弱いやつに合わせざるを得ない。だがどうだ。あのメガネエルフの援護ときたら、なかなか欲しいところにきやがる。何で低ランクプレイヤーぶってるか正直興味ないが、奴の実力も侮れない。
お目当てのコンビニまでようやく半分ってところか。この辺、普段通らねえが、裏路地が多くて、とにかく人気が無い。まぁ時間も時間だし。普段から利用者が少ないんだろう。所々、街灯が点灯しているが整備される気配すらない。
メガネエルフといえば…例の通り魔について、面白い考察をしてたな。確か、ヤツは北の幻ヶ峰の方から2〜3日周期で徐々に現場が南下してきてるって話だったか。アイツの話を聞いて、実際にネットでこの街の地図を見てみたが、なるほど、多少、左右に現場がブレてるとはいえ、その進行具合は南に移っていた。南に何がある?
そもそも、こんな街に一体何があるっていうんだ?
…って柄じゃねぇな。通り魔がどうだろうが知ったこっちゃねぇ。ニュースの話じゃあ、ヤツは銃の類は持ってねぇって話だし、最悪遭遇しても、まぁ、何とかなるだろ。
点滅を繰り返す街灯が灯すT字路が前方に見えてきた。相変わらず人気はねぇ。だが…何だあれは。…靴?
無造作に放り出された靴の片割れが、街灯の点灯に合わせて、見え隠れする。
急に、周囲の気配に気を配る。何だ?この異様な雰囲気。今まで気付かなかった自分にイラつく。人気が無いはずの路地なのに、生温い、殺気のようなものをうっすら感じる。
拳を握り、臨戦体勢に入りながら、放り出された靴に近づく。5m位までの距離に来たところで、男の呻き声のようなものが微かに聞こえた気がした。
咄嗟に俺はT字路に向かって飛び出し、勢いよく右側へ振り向いた。
何だこりゃ…
目の前には、中坊らしき学ランを来た男どもが6人ほどズタボロにされて転がっている。壁に血痕を残しながらうな垂れてるやつ、腕や足が変な方向に曲がっているやつ。腹を抱えながら、血を吐き出したやつもいる、呻き声はこいつのものか。学ランからして隣の中学の奴らか。髪の色やら制服の着方からして不良ごっこでもしてる連中だろう。
その惨状はなかなかひでぇもんだったが、普段、俺に絡んでくるバカどもを蹴散らした後の光景に見慣れてるせいか、そこはさほど興味がねぇ。
それより…
両手の拳に力が入る。額から流れる汗が顎を伝う。
何だこいつは…
「ほう、余を前にして拳を握るか、小僧」
そいつは、何事もなかったような淡々とした口調で話し始めた。
「こやつらと戯れている最中に妙な気配を感じて様子をみていたが…なるほど。どうやら余の勘に間違いはなかったようだな」
ふざけた口調で、こちらに語りかけるでもなく、むしろ独り言ともとらえられる風にそいつは言った。
風貌からして、高校くらいか。背丈は俺より少し低いが、肉付きはそこそこしっかりしている。だが、目の前に転がってる連中の中には、なかなか巨漢のやつやいかにも格闘技をやってそうなやつもいる。とてもじゃ無いが、目の前に立ちはだかっているこの男とこいつらが対峙した結果が、眼前の異様な光景にたどり着く筋道が見えない。
「フッ。余にそのような交戦的な眼差しを向ける気概、嫌いでは無い。だが」
真紅に染まったその両拳を、倒れた奴らの制服で拭き取りながらヤツは続ける。
「こやつらがあまりにも歯応えがなくて、今宵はすっかり興を削がれた。貴様の相手は、またの機会としよう。まぁ、次に余の前に姿を現す勇気があればな」
クックックッ。ヤツは耳障りな笑い声を浮かべながら、そのまま外壁から屋根を軽々と飛び移り、その場から去っていった。
「…けて……すけ…くれ…」
助けを求めるようなうめき声が耳に入り、ようやく我に返る。無意識に俺は、この場での立ち振る舞いを頭の中でシュミレーションすることに没頭していたようだ。だが、ヤツに勝つイメージも、ましてやこの場から逃げ出すイメージすらも、まだ見つかっていなかった。
ふと、前方にある掲示板に貼られたここいらの近隣地図に目をやる。くそっ。この辺り、直近の現場から南に少しいったあたり、つまり、ヤツと遭遇する可能性は十分に考えられるエリアじゃねぇか。
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翌日、くそつまらねぇ授業を受けながらも、頭の中は昨夜のことを推考することに注力していた。
ヤツが例の通り魔であることは間違いない。高校くらいに見えたが、あんな異質なヤツがいればとっくにその存在が以前から噂になってるはず。
何より、立ち去った時のあの跳躍力はなんだ?あんな光景、ゲームの中でしか見たことねぇ。それはあのくたばってた連中を蹴散らした戦闘力にも言える。というか、こんな発想が俺に思いつくとは、つくづくあのゲームに毒されてるな。とりあえず、ヤツの存在は人外であることは認めざるを得ない。
ヤツが何者か想像することは、特に意味が無い気がした。
次は、ヤツの不可解な行動。何故、ヤツは南に向かう?南に一体何がある?南にヤツの目的があって、それをヤツより先に手に入れるなり対処をすれば、一矢報いることができるか?
答えはおそらくノーだ。昨夜対峙して分かったが、ヤツは目的の何かに向けて、この惨劇を繰り返しているわけではない気がする。南に向かっているのは、北から始めて、たまたまその方向が南だっただけだろう。ヤツはその行為自体を楽しんでいるようだった。
だったら、襲われるのが、不良やヤクザみたいなヤツらが狙われる理由は?確か、メガネエルフが「配下に入れ」とか言い捨ててるっていってたか。ヤツは自分の手下を増やそうとしているのか?・・・その可能性は高そうだ。だが、何のために?
そもそもアイツにやられたヤツらの話は聞くが、行方不明になったとかそういった話はまだきかねぇ。つまり、水面下でヤツの配下は増えているのか?この問いもおそらく答えはノー。ヤツが襲うのは、おそらく腕試しなのだろう。自分の配下に下るに足るか。だが、あんな化け物のお目にかかる人間がこの街にいるとは思えねぇ。
それに、昨夜襲われてたのは、中坊だ。目ぼしいヤクザとかであてが外れたから、ヤツはガキにまで手を伸ばし始めている。…一番そこが気に入らねぇ。このままだと、この学校の生徒にも被害者が出かねない。
別に正義感をかざすつもりはねぇ。だが、自分の活動域で、あんな得体も知れないヤツが好き勝手しているなんて想像するだけで気にくわねぇ。
残るは、次にヤツがいつ行動するか。それは十中八九、今日か明日。今までヤツが次の襲撃に2〜3日のインターバルを開けてた理由は、おそらく襲撃規模に応じて回復にかかる時間だと考えるのが妥当だ。昨夜のやつの様子は、大した消耗の色は見えなかった。つまり、回復にかける時間はさほど必要ないはず。
時間帯の狙いはおそらく夕方以降、人目につかない時間で人気のない場所。
だが、ヤツと遭遇して俺はどうする?あの化け物相手に何が出来る?
「・・・まぁ、とにかく探してみるか。放課後に」
本当にあのゲームに毒されちまったみてだな。強敵に対する好奇心が俺の中でうずく。
「軽く化け物退治でもかまして、リンネとメガネエルフの度肝でも抜いてやるか」
まさか、俺がそんなことを考えるとはな。思わず自分のチャラついた思考に、フッと笑ってしまった。




