第13話 再転生した厨二病男子は見逃せない〜前編〜
−ウォォォォアアアアアッ!!!!
「この熱気ヤベェな!」
「そりゃ闘技場屈指の好カードだからな!」
「本大会でもこんな熱い組み合わせ中々お目にかかれねぇぜ」
「どっちが勝つと思う?」
「そりゃランキング2位の黒揚羽でしょ」
「いや、4位の双剣使いラミュートも最近メキメキ力を付けてるからな」
「槍のリーチを生かした黒揚羽か、トリッキーな動きで相手の意表を突くラミュートか」
「くぅ〜、早く始めろー!」
周囲の歓声のうるささに、不機嫌そうなレオさん。
「どいつもこいつもうっせえなぁ」
「上位ランカー2人の試合だからね。そりゃ盛り上がるよ」
「オマエはやらねぇのか?リンネ。なんなら…この後俺と、前の続きをやるか?」
「まだちょっと大丈夫かなぁ、ははは」
「幻想物語」の人気コンテンツの一つ、「闘技場」。ここでの戦闘は、プライベートマッチである「決闘」とは違い、対戦結果に応じた高額の賞金が出る。また、年に一度の本大会や不定期に開催されるイベントマッチでは、賞金の他、限定アイテムが報酬として貰えたりもする。何より、闘技場での勝利ポイントは、ランキングに加算されるポイント率が他のコンテンツと比べて大きいところが魅力なんだろう。
「そーいやリンネってここに出ることあるのか?」
「いや、ほとんどないよ。なんか、あまり目立ちたくなくって。レオさんは?」
「どうしてもしつこく指名してくるやつを蹴散らすときくらいだな。見せしめにしてやると、しばらく静かになるからな」
見せしめって…
闘技場で試合するには、いくつか方法はあるが、一番多い方法は、挑戦者から指名され、それを受理される場合。対戦が決まったら闘技場で審査がかけられ、承認されたら対戦日時が告知される。さらにリアリティを出すために、闘技場での試合はチケットを購入しなければ観れない。金額は、対戦内容で決められて、チケットの儲け分は、その半分が勝者の報酬に上乗せされる。
「にしても、オマエがこんなチケット持ってるとは、意外だな」
変わらず不機嫌そうな口調でレオさんがいう。どうやら、人混み自体があまり好きじゃないみたい。
「こないだ街で人助けしたら、2枚貰っちゃって」
「なんかのクエストか?」
「ううん、くれた人はプレイヤーだったよ。全身黒いローブでよく見えなかったけど」
「オマエ、よくそんな怪しいやつから貰う気になるよな」
そう言ってレオさんは、軽い軽蔑の眼差しを僕に向ける。
「闘技場のチケットなら、何か危害を被る心配もないかなって」
「ま、言えてるな。」
「そろそろ始まるみたいだよ」
僕らは、ステージへ目をやる。仰々しいファンファーレと共に、2人のプレイヤーが姿を現した。
1人目は、双剣使いのラミュートさん。少し小柄の狼型亜人族で、左右でデザインの違う2本の双剣を持っている。
ん?デザインじゃなくて、あれ、別の武器なのか?確か、双剣って2本で一つの武器判定だったはずだけど、別々の武器を持てたりするのか。
そして、2人目。槍使いの黒揚羽さん。この人に関しては、種族はちょっと分からない。というか、漆黒の全身鎧のせいで、殆ど情報が得られないというのが正解か。手にはシンプルなデザインの長槍を携えている。特段目立った装飾はないが、黒曜石かな?黒く光るダイヤのような材質の刃先が、異質な存在感を放っている。
「黒鎧のやつ、いつ見てもラスボスみたいな格好してるな」
「会話とかも全くしないみたいで、誰もあの人のこと、詳しく知らないんだって」
「ふ〜ん」
心底興味なさそうな空返事が返ってくる。
2人の頭上に「READY?」の文字と5の数字が表示される。
3…2…1…
2人の頭上の文字が「BATTLE!」に変わる。と同時にラミュートさんが大きく後方にバックステップする。黒揚羽さんは、槍先を下げたまま動こうとしない。
着地したラミュートさんは、左手の双剣を黒揚羽さんの頭上目がけて放り投げる。そして、右手の双剣を前に突き出す、途端、刃が大弓に姿を変える。
「へぇ、マルチウエポン使いなんだ」
「曲芸師かよ」
ラミュートさんが弦を弾くと、強力な光の矢が現れた。
「ホーリーランス…上級魔法だね。魔法単体で使用するんじゃなくて、弓を使うことで威力と速度を上げるのか。あんな使い方もできるんだ」
ラミュートさんの手元に見入っていると、黒揚羽さんの頭上に投げられた方の双剣が姿を変える。あれは、スカイワイバーンか!
ワイバーンはそのまま急降下し、黒揚羽さんを強襲する。おそらく黒揚羽さんが避けた先にホーリーランスを打ち込む算段なのだろう。
ワイバーンの鍵爪が黒揚羽さんに直撃しそうな刹那、激しい地響きと共に土煙が黒揚羽さんの周りを覆った。
「チッ」
煙幕のせいで、ラミュートさんの矢の照準が定まらない。すると、矢の向けられた前方から、煙幕を突き破って何かが飛んでくる。ワイバーンだ!
「くそ!擬態解除!からのホーリーランスアロー」
ワイバーンは再び双剣に戻り、その横を光の矢が通過する。だがしかし、放たれた光の矢は、ターゲットを捉えることはなく、対角線上にある結界壁に炸裂した。
再び両手に双剣を握ったラミュートさんは、すぐさま臨戦態勢に入る。土煙がようやく晴れてきた時、彼の前方に黒揚羽さんの姿はなかった。と同時に頭上から凄まじい風切り音が聞こえてくる。
「くっ、上か!」
上空に飛び上がった黒揚羽さんは、高速回転で勢いを付け、黒曜槍でラミュートさんに襲いかかる。
間髪入れずに、前方へ跳躍し強撃をかわす。
咄嗟に体勢を整えて再び臨戦態勢に入るラミュートさんだったが、視界に入った光景を見て、思わず動きを止めた。彼の視線の先には、敵に背を向け、威風堂々と仁王立ちする黒揚羽さんの姿がそびえ立っていた。
−
あの激しい激闘観戦の後、僕とレオさんは酒場に来ていた。僕が楠さんに呼び出されたのだった。
2人の戦いは激しいもので、ラミュートさんは弓の他、5種類の武器と4属性の魔法を駆使しつつ、亜人族特有の身体能力の高さを活かして華麗かつ果敢に黒揚羽さんに猛攻を仕掛けた。だけど、その全てを黒揚羽さんは避けることなく、全て黒曜槍で弾いて退けた。
結果は、ラミュートさんの猛攻で地形を変えたステージが、彼自身の退路を無くし、追い詰めた黒揚羽さんが放った黒曜槍の強烈な一突きを、双剣で防ごうとしたラミュートさんがその衝撃で場外に激しくリングアウトする形で幕を閉じた。
それにしてもあの黒揚羽さんの動き…
「リンネ、気づいたか?」
「黒揚羽さん、全部狙ってやってたね。あれ」
「あのちび犬の攻撃を計算して、退路がなくなるようにはじき返してたな」
「それに黒揚羽さん、結局、最初の一撃と最後の一撃、たった2撃で勝負決めちゃったね」
「そもそも一発目も当てるつもりなかっただろ、あれ。挑発狙いでわざと外しやがった。それに、その直前の地響きと砂煙、土系のスキルを使ったように見せかけてたけど、あれはただの地面を踏み込んだ反動だな」
「とにかく色々化け物じみてたね、あの人」
「中身までラスボス級だな」
そんな感想を語りながら、僕の頭はあの人と戦うシュミレーションをしていた。おそらく、レオさんも…
「おっまたー!いやいやごめんね〜。人混み抜けるのに時間かかっちゃって」
呼び出し時間から15分遅れで、ようやく楠さんがやってきたようだ。
「おい、メガネエルフ。呼び出しといて遅刻たぁ良い度胸だな」
いつも通り、レオさんが不機嫌そうに絡む。
「まぁまぁ旦那、その分良いネタ持ってきたんで」
「てかオマエ、段々情報屋みたいになってきてねぇか」
「ウチのネタは高いですぜぇ」
そうやって手をスリスリさせながら、ニヤつく楠さん。槍使いといえば、こないだのテストモニターの時、楠さんの槍さばきも中々凄かったな。
「んで、今日はどんな噂話なんだよ」
なんだかんだ言って、レオさんも楠さんのこのノリに慣れてきてるみたい。
「まぁ、どうせロクな噂じゃないんだろうけど」
「ちょっと!リンネ少年!聞きづてならないなぁ」
そう言って、豊満な胸部を僕の顔に近づけようとする。僕は咄嗟に目を背けながら、
「ごめんごめん!それで何の話?」
「ちょ〜っと物騒な話でね。なるべく早めにリンネ少年に伝えておきたくて」
「僕にってことはまた、あっちの世界の話?」
あっちの世界…最近僕らは現実世界のことをそう呼んでいる。自分では、こっちの世界で個人情報漏洩は御法度だなんて言うくせに、彼女の僕に対する気遣いはほとんど感じられない。
「そそそそそ。巷で噂の通り魔事件の話、知ってる?」
「そーいや、今朝ニュースでやってたな」
「レオニー、ニュースとか見るんだぁ」
「たまたま付いてたのが目に入っただけだ」
「それでその通り魔事件の現場ってゆーのが…」
「どうせ、僕らの住んでる所の近く、とかでしょ?」
「ご名答〜」
正解しても、流石の僕でも知ってたか、と言わんばかりのニヤつき顔で見られたら全然嬉しくない!
「確か、悪党ばかりやられてるんだろ?」
珍しく話に乗っかるレオさん。自分が知ってた話だからかな。
「そーなのよ!街の不良だったり暴走族だったり、極め付けにはヤクザだったり。一応、まだ死者は出てないんだけど、どれも結構無残なやられっぷりらしくってさ。一部ではちょっとしたヒーロー扱いされ始めてるみたい。それに」
「それに?」
「かろうじて口が聞ける被害者側の証言で、何やら変な情報がいくつも挙がってるらしくってね」
「何だその話、聞かせろよ」
どうやらレオさんはそこの部分を聞き漏らしていたようだ。
「それがねぇ、犯人がどの現場でも襲いかかる前に言ってることがあるらしくて」
「なんて?」
「『我が配下に加わる気はあるか?』だって。まさか噂のヒーローが厨二病的発言してるとはねぇ。ねぇ、リンネ少年の知り合い?」
「心当たりあるわけないじゃん!結局僕のこと、からかいたかっただけでしょ!」
「へへっ、バレた?」
あまりにもいつもの展開すぎて、怒るよりもはや呆れてしまう。
「それにその発言、ヒーローって言うよりどっちかというと…」
そう、悪人側のセリフじゃないか?




