第11話 再転生した厨二病男子は落ち着かない〜中編〜
5分後…室内に光生くんの声が響く。
「2人とも、お待たせ。それじゃあ早速2人には「イマジネーター」の使い方を説明するね。」
「これを握って、ゲームみたく武器を想像するんじゃないの?」
今日はなにかと彼女の思う様に事が進まない事が多かったせいか、痺れを切らした楠さんが、光生くんの間に割って入った。
「ご名答。1人ずつデータを取りたいから、まずは楠さんからお願いしよう。イマジネータの底面に付いてるボタンを押してもらえる?」
言われるがまま楠さんがボタンを押す。するとストラップ状の輪っかが出現する。おおぉ、と思わず声をあげる僕に彼女は見向きもせず、無言で次の指示を待った。
「そのストラップを手に通して、しっかりとイマジネーターを握ってもらえるかな」
楠さんがストラップを手に通して、ギュッとイマジネーターを握った瞬間、ストラップが消え、代わりに楠さんの全身が薄い光の膜に覆われた。
「はにゃ?」
流石の楠さんも、これには少し驚いたようだ。
「これで下準備は完了。それじゃあ楠さん、目を閉じて、自由に武器を想像してみて。出来るだけ鮮明に。例えば、普段ゲームで使用している武器とかね」
「オーケー。それじゃあ早速、いってみますかぁ!」
どうやら楠さんの機嫌も戻ったようだ。そりゃこれから目の前で起こるだろうことを想像すれば、自然と心が踊るよね。
楠さんが静かに目を閉じる。全身の光がやんわりと強くなる。
バチッバチバチッ
楠さんが握る筒状の上下に小さな稲光が走った、その直後、筒から上下に光が伸びる。
「おお!」
「廻くん静かに!創造には集中力が必要なんだ」
とっさに僕は自分の口を塞いだ。そんなこと言われても、これは興奮せずにはいられないよ!ガラス窓に手をついて、天崎さんと真理亜だってすっかり魅入っている。
30秒…楠さんの手元には、光の長い棒状の物体が現れていた。確か、ゲーム内で彼女が使用していたのは大弓、いや、形状からして杖の方か。果たして、どんな武器が現れるのか。僕の方がワクワクしてしまっている。
「いい感じだね。そのまま、集中を切らさないように。武器が一度、強く発光したら、それが完了の合図だよ」
室内に、光生くんの声が響く。と同時に、楠さんの武器が激しい光を放つ。
「うわっ!」
あまりの眩しさに僕はとっさに目をつぶる。そしてゆっくりと目を開けた。
槍だ!楠さんの手の中には、細長い銀色の長槍が現れていた。刃の長さは15cm位。刃のエッジは両側に美しい曲線を描き、柄の部分にまで食い込んでいる。刃先は円錐ではなく、薄い菱形に近い形で、突撃だけでなく、斬撃も可能としているデザインみたい。
「う〜ん、まぁまぁの出来かねぇ」
そう言いながら、まるでチアのバトンのように槍を軽々と振り回す。楠さんって、槍も使えるんだ。
「所要時間は1分ちょっと…驚いた。楠さんは勘が良さそうだと思ってたけど、予想以上だね」
「お褒めの言葉、どうも♪」
「うちの職員だと、早くても2分近くかかってたからね。普通の人だと、イメージを固めるのにどうしても時間がかかる。その辺りは予想通り、実際のプレイヤーの方が、形状のイメージがしやすいみたいだね」
僕らに話している、というより、彼の隣にいる柳さんに向けて確認するように、皇生くんは言う。
そのまま2人が少し話し込んでいたので、僕は槍で色々ポージングする楠さんに目をやる。すると、突然彼女は手を止めて、部屋の上空を見上げる。その直後、彼女はニヤリと笑い、深くしゃがみ込む。
「せ〜のっ!」
と同時に彼女はその場で飛び上がる。
「えええぇっ」
思わず僕はすっとんきょうな奇声をあげてしまった。
なんと彼女は、僕の頭上7m位の高さにいたのだ。その光景に驚いた真理亜は口をポカーンと開け、天崎さんはその場で尻餅をついている。
「そこまで気付かれちゃったか。よく分かったね」
まるでトランポリン選手のように、華麗に飛び回る楠さんに向かって光生くんは言った。
「なんか槍を振り回す手がいつもの自分じゃないくらいに軽かったからね。こりゃひょっとするとと思って」
得意げな笑みを楠さんは浮かべた。
「お察しの通り、このイマジネーターは身体能力を補佐して一時的に向上させる機能もあるんだ。今、楠さんの体を纏っている光、それが使用者のイメージと連動して常人離れした動きを可能とするんだ。でも気をつけてね。動きを可能にはしても、その負荷は減らせないんだ」
「はぁはぁ、そうみたいね…」
イマジネーターに寄りかかるようにする楠さんは、まるで10分間マラソンを走った後のように汗だくだった。
「楠さんは一旦、休憩しようか。使用者が「シャット!」と発すれば元に戻るよ」
「え〜っと、シャット!ってキャッ」
楠さんがそう発すると、弱い光を放ってイマジネーターが元の筒状物体に戻り、支えを無くした楠さんの体は、その場に倒れ込んだ。
「大丈夫!?」
咄嗟に僕は彼女に駆け寄る。
「平気平気、ちょっち疲れちゃっただけ」
そう言って彼女は眼鏡にかかった汗を弱々しく拭っていた。
「楠さんありがとう。なかなか良いデータが取れたよ。それじゃあ、次、廻くん。やり方は今ので理解してもらえたかな?」
「うん、とりあえず、やってみるよ」
「それじゃあ、お願いするよ」
「うん!」
自然と声に力が入った。自分のイメージが目の前に具現化される、そのことを考えるだけで、胸が高鳴る。
そっと目を閉じて…イメージして…あれ?何も起きない?
「廻くん、まずボタンを押してストラップをお願い」
クスクスと楠さんの笑い声が聞こえる。ハッとして見上げると上の部屋でみんなが笑いを堪えている。
あ〜またやっちゃった!
耳の先まで顔が赤くなっているのを感じながら、僕は慌ててイマジネーターの底にあるボタンを押し、出てきたストラップを手に掛ける。すると、楠さんの時みたいに、全身が光の膜に包まれる。
「うわぁ…」
思わず、その不思議な光景に魅入ってしまいそうになったが、すぐに目を閉じて手先に意識を集中させる。
イメージするのは…毎日毎日使い込んで、幾度となく修羅場を共にくぐったあの剣にしよう。
頭の中で、握りしめたイマジネーターに剣の柄部分を重ねる。そこから順番に剣先に向けてイメージする。
手元のガード部分には女神の装飾が施され左右には翼が広がる。刀身は1m10cm。至る所に古代神聖文字で細々とした紋様が刻まれている。神々の祝福が宿りし古に伝わる聖剣。
僕の手元で激しい光が放たれる。直後、その刀身は神々しさと共に、光の中からその姿を表した。
「これは…」
僕は思わず、廻くんの手元にある、あまりにもに精巧な作りの剣に魅入ってしまった。距離があって細部までハッキリ見えないが、それでも伝わってくる。こんなに見事な具現化は、研究員が実物を見ながら行っても成功したことはなかった。それに…
「早いな」
隣で柳さんがそう呟いた。僕は手元のタイマーに目をやる。22秒…先ほど、みんなに告げたように、楠さんの1分でも充分すぎるほど早かった。なのに彼は、さらに倍以上のスピードで今までで最もクオリティの高い具現化を成功させたのだ。
「…レク」
何かを呟く神林さんの声が耳に入った。彼女は、まるで神聖な儀式が眼前で顕現したかの如く、僕らの前に出現した剣に視線を釘付けにされながら、再びその言葉を繰り返した。
「あれは…ラグナレク…」




