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86 前半ジュリ、後半アリアです。

***ジュリ視点***


廊下の向こうでお嬢様が床に崩れ落ちた。

その直前、陛下の手を払ったように見え心臓が縮み上がった。お嬢様を抱き上げた陛下の顔は人形のようで、思わず後ずさる私を、一瞥した。


「医務室から鎮静薬を。」


「へ、、?」


鎮静薬? 気付け薬ではなくて?


「一番上の階だ。」


「は、はいっ。」


とにかく言われた通りに医務室へと走った。

何がどうなってあの状況になったのか、不安で堪らない。

お嬢様はジェミューの剥製を見たのかしら? だから陛下を恐れて手を払ったのかしら? 

陛下はお嬢様をどうする気なのかしら?

鎮静薬はいったい、、、

考えが頭をぐるぐる回るけど、結局何も分からないから頭を振って一旦忘れる事にした。

今は急がないと。角を曲がった時、同僚とぶつかりそうになって腕を掴まれた。


「ジュリ、どうしたの? 顔が真っ青よ。」


「え、、? 何でもないわ、急いでるの。」


ところが、走り去りたいのに腕はがっしり掴まれたままだ。


「もしかして陛下を見た?」


「何で? 本当に急いでるんだけど。」


普段は挨拶だってしないくせに やたらと絡んでくる。


「さっきアリア様の部屋の前で人が殺されたんだって。」


「だから、何なのよ。」


「陛下が狂っているって本当なの? 本当だったら恐いわ。」


「、、っ 不遜だわっ。」


「でも、皆言ってるのよ。ジュリは見たんじゃない? 知ってるなら教えてよ。」


「私、急いでるのっっ そんなに恐いなら隠れてなさいよっっ!」


どん、と力一杯突き放してやった。壁にぶつかり目を丸くしている。


「ほ、本当なのね、、?」


手を口に当てながら、震える声で言った。私が否定しなかったから肯定だと思ったのだ。


「私だって知らないわよっっ!!」


むきになってしまうのは、私自身、陛下を恐いと思ってしまったからだ。

そんな自分が許せない。唇を噛んだ。




**


陛下に言われた物を準備して汗をかきながらひたすら階段を上ると分厚い、金属で出来たドアがあった。陛下が通った後らしく、ドアは開いていて、奥にはまた階段が見える。最上階に来るのは初めてだ。どきどきしながら全ての階段を上りきると、そこには部屋があった。


部屋、なのだけど、、壁の代わりにあるのは鉄格子で、、、。異様な雰囲気に思わずぶるりと身震いした。

お嬢様は、その鉄格子の部屋の中にあるベッドに寝かされていた。陛下の後ろ姿で顔は隠れて見えないけど、動かないからまだ目を覚ましていないように思う。ずっと寝不足だったから気を失ってそのまま眠ってしまったのかもしれない。


「遅い。」


「はっ、す、すみませんっ」


部屋の中に入るのが何だか怖くて躊躇していたら、気付いた陛下にイラついた様子でそう言われ急いで持っていった。


「ふん、見せろ。」


差し出す手が震えてしまう。私がしている事は大丈夫な事なのだろうか、、? お嬢様はどうなるのだろう、、。そんな不安をよそに、陛下は包みの中身を確認すると慣れた手付きで投与していく。


「あ、あの、、」


「何だ?」


「お嬢様は、、大丈夫でしょうか?」


「ふん、問題ない。」


「でも、あの、、」


「用が済んだら出ていきなさい。」


「でも、、、」


「ジュリ、出ていきなさい。」


「、、、はい。」


階段を降りる前に振り返ると、陛下はお嬢様に向かって身を屈めていた。見てはいけないものを見てしまった気がして、慌ててかけ下りた。


それから、割れたグラスの片付けが完全に終わっていなかったことを思い出した私は、ひとまず部屋に戻る事にした。足元に、拾い損ねていた破片を見つけたので摘まむと、チクン、と指の先が切れて血が出てきた。


「いた、、」


小さく呟いてその血を見つめていると、涙が溢れてきた。私、どうしよう、、、

居心地の良かった私の居場所にはもう、陛下もお嬢様もいない。


疑ったりしなければよかった、、。

自惚れたりなんかしなければよかった、、。

座り込んで、幼い子供みたいに声を上げて泣いた。



**


たくさん泣いたらすっきりして、私は涙の跡を腕で ぐい と拭って立ち上がった。お嬢様をどうにかしなくちゃ。もう疑ったりしない。


でもまずは片付けを終わらせないと、、。

ワゴンを押しているとオーウェン様に声をかけられた。陛下が何処にいるのか報告すると駆け足で去って行った。その後ろ姿を見ながら、戻る間際に見た光景を伝えておいた方が良かったかもしれない、と少し心配した。



***アリア視点***


冷たい物が顔に触れて気が付いた。

あら、、? 私は、、、


「アリア様、気が付きましたか? どこか痛むところはありませんか?」


ミアが上から覗き込んでいる。

痛むところ? なぜ? と思ったけれど、起き上がろうとした途端 胸に痛みが走って、陛下がいらした事を思い出した。


「アリア様っっ、無理しないで下さい!」


「だ、大丈夫、、 ありがとう、ミア、」


そう言っている間にも、じわじわと起こった出来事が思い出されてくる。


「私、、殺されなかったのね、、」


ぽつりと言うと、ミアが私の手を握った。


「はい、はいっ、、。 アリア様はちゃんと生きています。すみません、私がちゃんとそばに付いていたら良かったのに。本当に、すみません。」


申し訳無さそうに言うけれど、私はミアが一緒にいなくて良かったと安心した。


「いいのよ、ミア。まさかあんな時間に、あんな風に陛下がいらっしゃるなんて思ってもいなかったわ。それに、あなたが無事で本当に良かった。 、、ところで、私は一体どうなったの?」


殺されると思って、気付いたらベッドの上だったのだ。


「はい。 あ、でも、詳しく知らないんです、すみません。私が駆け付けた時にはもうアリア様は床の上に倒れていて 部屋には陛下を止めるオーウェンさんと、あとノアさんがいました。ノアさんが異変に気付いてオーウェンさんを呼んで来てくれた様です。ベッドへはノアさんが。」


「ノア? 何していたのかしら、、。 それで、陛下は?」


「出て行かれました。」


「そう、、」


ふと寝室のドアを見ると、その向こうに落ちていた物を思い出し ぞくり とした。それに気付いたミアは、すかさず私とドアを遮るように移動した。


「アリア様、もう少しお休みになって下さい。」


「、、そうね、ありがとう。」



ありがとうございます。あと数話程度で終わる予定です。最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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