81 前半リサ、後半シンです
***リサ視点***
先に送った荷物で問題が発生したらしい。なんでも道中に鼠の被害に遭い、物によっては中身までやられているとの事だ。やむ無く荷物は 一度店に戻す事になった。今から戻して準備し直すとなると、第2便の方が早いくらいだ。
サイラスが、何か言いたげな顔をしながら説明するのを、私は気付かない振りをして聞いていた。
ちゃんと分かっている、マイクと話した内容はサイラスにも聞いてもらうつもりだ。だけどそれは、こんな慌ただしい最中にする話ではなくて、もっと時間のある時にじっくりとする話だと思った。
「食べ物なんて入っていなかったのに、、。サイラス、原因は分かっているの?」
「まぁ鼠はどこにでもいるからな、運が悪かったとしか。だけど後から追加した品の入った木箱が一番被害にあっているようだ。」
「え! それって陛下が一番気にかけていた品じゃない。どうしよう、とても報告出来ないわ。」
よりにもよってあの品だとは。私は青ざめた。
「わぁごめん、言い方が悪かった。木箱だけで中身は無事だ。中身までやられているのは布類だそうだ。」
狼狽える私を見て 直ぐにサイラスが補足の説明をし、私はほっと胸を撫で下ろした。
「良かった、そうなのね。」
「それで、陛下へのお詫びと説明は旦那様と俺が行くことになった。リサは新しい木箱と布類の手配を頼む、品目と数量はここに書いてあるから。」
サイラスはてきぱきと指示を出し、書き記した紙を私に差し出した。
「分かったわ。 、、、ねぇサイラス、陛下は、お怒りになるかしら、、?」
「まぁ、覚悟はしていくさ。、、て、リサ?どうした?」
「あ、、、」
私は思わずサイラスの袖を掴んでいた。
どうしてだか、マルクスさんの死がちらついたのだ。
「リサ、大丈夫だから。鼠の被害は完全に防げるものじゃない。言っただろ、運が悪かったんだ。陛下もわ分かって下さると思う。」
「、、、うん。でも、気を付けてね。」
***シン視点***
久しぶりに戻った村には、いつの間にか工房が出来上がっていた。まぁ、魔力を使えば建物を造るのはそんなに手間ではないのだが、何事も形からと言ったところか、、、。
工房の中では皆 忙しなく働いている。ダーンさんに、つい先日 最初の納入を済ませた処なのだと聞いた。
忙しそうだ、という他には特に変わった様子は見受けられずほっと息を吐いた。どうやら考え過ぎだったようだ。
そろそろ王宮に戻るべきかなと思いつつ工房を見渡すと、ふと、工房の隅で別の物を作っている人物に気が付いた。ヒューゴだ。ヒューゴは細工に関して、この村で俺の次に腕がいい。自分で一番だと言うのも何だが、ヒューゴには俺が教えたのだ。もともとこの村では細工の技術は装身具を作る為でなく、生活に必要な食器等を作る為のものだった。それを俺が趣味で そっち方向に発展させたのだ。
音を立てずに上から覗き込んでみると、作りかけの何かとにらめっこしていた。
「それ、何だ?」
「うわぁっ!!」
話しかけると驚いて飛びはね、手に持っていた物を床に カツン、と落とした。
「何だ、シンか。びっくりした。」
ヒューゴは目を丸くして俺を見た。驚きすぎて息も上がったようだ。
「悪い、そんなに驚くとは思わなくて。それ、大事な物か?」
床に落ちた それ、を指差した。大事な物なら悪い事をした。
「あ、いや、まだ試作だから大丈夫だ。ちょっと悩んでてさ。」
ヒューゴはそれを拾うと、俺に見せてくれた。
「試作?」
「ああ、シンはこれ、どう思う?」
まだ作りかけのそれは豪華な感じに見えた。だけど、少しごてごてし過ぎな気もする。
「派手というか何というか、、、重そうだな。」
見たままの感想を伝えると、大きく溜め息を吐かれた。
「だよな。これ、首飾りなんだけどさ、存在感は絶対必要なんだよ。でも派手にするとなんだかなぁ、、、」
ヒューゴはガシガシと頭を掻いた。
「あぁ、、、。じゃあさ、太い一本より細いのを数本ねじった方がいいんじゃないか? その方が繊細で綺麗だ。」
「細いのをねじる?」
「線が太くて繊細さに欠けてるんだよ。ねじり方もきつくじゃなくて透かした方がいい。」
「、、、やってみるよ。シン、ありがとう助かった。」
「ん。って、あれ? 紋章? というかこれ、王家の紋章じゃないのか?」
ふいに視界に入った、机に無造作に置かれてある紙には王家の紋章が描かれてあった。そして作りかけの首飾りは、よく見るとその紋章をモチーフにしている。
「あ、そうそう。これは国王陛下に頼まれた物なんだ。首飾りとティアラのセットでさ。」
「、、、陛下が? わざわざ何用で? アリアのか?」
「アリア、、? ああ、この前の王妃殿下か。違う、違う。これは、、、あ、、」
言いかけたヒューゴが ぴたりと固まった。
「これは?」
「はは、ええとつまり、、」
「つまり?」
「べ、別の人の分だ。」
急にギクシャクし始めた。怪しい、、、。
「別の、、、? アリア以外の人がこんな王家の紋章入りの豪華なティアラを使うのか?」
「あ、ああ、、いや、俺は、頼まれただけで何も知らないよ。」
何も知らないにしては目が泳いでいる。不自然だ。胸がざわついた。嫌な予感がする。
「これ、、、俺が作ってもいいか?」
「だ、駄目だっ! それは、駄目だっ」
試しに聞いただけなのに、食い付くように拒否された。予感は確信に変わりつつあった。
「何故だ?」
「、、、し、知らない、、、お、俺が頼まれたし、 」
「おい。」
じりじりと壁際に追い詰め、ぐ、、とヒューゴの首を掴んだ。
「ひ、、」
「言えよ。」
「う、、 い、言う、、言うからっ」
ぱっと手を離すとヒューゴはむせ返ってぜぇぜぇと苦しそうに息をしたが、俺は呼吸が整うのも待っていられず胸ぐら掴んで引き寄せた。
「誰のだ?」
「レ、レイラだよっ。レイラがお披露目される時に使うって、、」
「は? 何でレイラが?」
嫌な予感が当たった。頭が沸騰しそうに熱い。
「詳しくは知らないっ、本当だ。ただ、シンには言うなって言われてて、、」
「何故俺に隠す必要が?」
「だからっ、こうなるからだろっ 大体何だよお前っ、ルーナはどうした? お前の相手はレイラじゃなくてルーナだろっ」
「ルーナは関係ないだろ、何でレ、、」
「関係なくは無いだろ。ルーナはお前を追って行ったのに。」
「、、、は? 今何て言った?」
俺の知らない情報だ。思考が一瞬で停止した。ルーナが? 何だって、、?
「まさか知らないのか? 会ってないのか?」
「、、、それ、何の話だよ?」
「お前が出て行った後、ルーナも村を出たんだ。、、、本当に、知らなかったのか?」
「は? 、、は? 」
そうだ、、この前ここに来た時も、確かにルーナを見ていない。俺はそのまま、休憩もせずに村を出た。取り敢えず王宮に戻りながら情報を探ろうと思った。
ありがとうございます。