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80 前半シン、後半アリアです


***シン視点***


熱を出したアリアを先に帰した事で男2人になったこの旅は、気を遣う必要もなくかなり身軽だった。

ただ 想定外な事に持ち歩いていた男の首が途中で腐り始め、立ち寄った町で防腐処理をしてもらわなければいけなくなった。出発する前に痛みにくくなる術が施されてあった筈なのだがどうやら魔力が足りなかったようだ。

物が物なのでなかなか引き受けてもらえなかったのだが、とても耐えられる悪臭ではなかったので 諦める訳にはいかず俺達は散々当てを探し回っては頼み込んだ。

その後どうにか引き受けてもらった人物は、鳥類専門の剥製師で、出来上がった男の首は若干違和感を覚える仕上がりだったが、まぁ良しとしたのだ。


そして旅はその騒動以外はほぼ順調に進み、とうとう最後の一ヶ所となった。

俺達はそこでいつもの通りに話をし、首を見せた。ところが様子が少しおかしい。彼らは首を見るなり顔を見合わせている。


「どうかしましたか? 」


オーウェンが先に口を開いた。


「あ、あの、、」

「馬鹿っ、何も言うんじゃないよっ!」


若い女が何か言おうとして、別の女がそれを止めた。変な雰囲気だ。


「、、、我々は国王陛下の代理で来ています。この妙な空気が何なのか説明して頂きたい。」


オーウェンが今度は強い口調ではっきりと聞くと、静まり反ったのち、1人の男が前に進み出てきた。進み出たというよりは押し出された、の方が正しいかもしれない。気の弱そうな小柄な男で、額には汗がにじんでいた。


「すみません。実は、私達は最近ある噂を聞いていまして、、それで、その首を見て、つい戸惑ってしまったのです。」


上ずった声で早口に説明し、直ぐに下を向いた。


「その噂とは?」


「ええ、あの、、私達は聞いただけです。だから、あの、、」


男はずりずりと後ずさったが、再び押し出されて決まり悪そうに立っている。


「悪いようにはしないので話して下さい。」


「は、はい、、、」


手のひらや甲で汗を拭いながら、ちらりと一瞬だけ上目遣いでこちらを見ると、再び視線を落とし、しどろもどろに説明を始めた。


彼らが聞いた噂とは、 一見ジェミューを守るような内容の勅命には裏があり、実際はジェミューの技術に目をつけた国王が強制的に働かせる為に囲い込みをしようとしている。 という内容だった。

それで、男の首を見た時に噂が本当だったのかと、動揺したのだと。つまり彼らは、見せかけの牽制だから本物の首でなく偽物を持って来たのだと思ったのだ。


「この首は事情がありまして、眼球が本物では無いのです。ただ、首自体は間違いなく本物ですので、どうぞ近くで見て確認して下さい。」


俺は苦笑いしつつ首を前に差し出した。鳥類専門の剥製師は人間用の義眼を持っていなかったのだ。仕方なく間に合わせでそれらしく加工してはめ込んだのだが、今思えば目蓋を閉じておけば良かった。


「い、いえ、決して疑っているわけでは、、どうぞもう、しまって下さい。大変すみませんでした。」



**


「シンさんは、さっきの話をどう思いますか?」


2人になってからオーウェンが聞いてきた。


「正直、気にはなりますね。俺は陛下の事を信頼している訳でははないから。ただ、それならこんなに回りくどい事はしなくてもいいとは思う。」


「、、、正直ですね。でも陛下は今回の事に本気ですよ、それは間違いありません。ただ、その噂出どころが気になります。」


「はは、陛下はいい部下をお持ちだ。間違いないと言いきれるのなら俺ももう少し信じようかな。」


あの男が部下にこんなに信頼されているのは以外だった。


「ありがとうございます。それで、私はもう少し調べてから王宮に向かいます。シンさんはこれからどうしますか?」


「んー、俺はこのまま一度村へ戻る事にするよ。目で見て安心したいし、仕事の方も気になる。」


「分かりました。ではその後に王宮へ戻って頂けますか? 今後の事もありますので。」




***アリア視点***


連れてきた小間使いはミアと比べて随分と不馴れで、私は少しイライラしていた。執務室への取り次ぎも手間取っていたので、溜め息をついて、押し退けた。


「戻っていていいわ。ミアが戻っていたらここに寄越して頂戴。」


苛立っていた私は取り次ぎを待たずに部屋に入った。自分の仕掛けた小細工が気になって、気が急いていたのかもしれない。


「陛下、只今参りました。」


部屋に入ると陛下は何やら書類をご覧になっていらっしゃった。私が勝手に入った事はお気になさっていない。それともお気付きになっていないのかしら? ごほん、と咳払いをするとやっとこちらを見て下さった。


「ん、ああ、ついさっき村から荷物が届いた。念の為 中身を確認しておいてくれ。」


ほっ、と安堵した。まだばれていない。


「はい、畏まりました。ええと、、では無造作にいくつか抜き取って確認を致します。それで宜しいですか?」


「うむ、そうだな。それで頼む。」


それにしても陛下はますますやつれていらっしゃる。一体何がおきているのかしら、、?

気になるけれど、そんなことは聞ける筈もなく、私はすごすごと部屋を出た。

部屋の外には、今来たばかり、という格好のミアがいた。


「忙しくさせてごめんなさいね。来てくれてありがとう。」


「アリア様、当然の事ですよ。呼ばれたらどこへだって参ります。」


「ふふ、頼もしい。それで、例の物は?」


「問題ありません。部屋へ急ぎましょう。」


**


部屋に着くなりミアは私に手紙を差し出した。


「アリア様、例の、、」


「ありがとう。」


お礼を言って、テーブルでさっそく封を開けて目を通した。手紙にはお父様の字が並んでいた。やはり元気でいらっしゃったのだと安心した。

ところが読み進めていくうちに、心臓が早鐘を打ち始めた。お父様は髪紐は白でも何ら問題はなく、たとえ気になってもそのままで良い、と仰っている。そして、時間を用意すればお父様が糸を準備してくれると。さらに、繋げた後に余った部分は切り取るべき部分で、惜しむ物ではないとも、、、。


「ミア、、どうしよう。 覚悟はしていたけれど、、お父様は、お兄様をお見捨てになったわ、、」


「ア、アリア様、落ち着いて下さいっ。」


切り取られる部分はお兄様だ。そして白でも問題はないというのは、争いを静観なさるおつもりなのだ。お父様はもう既に何か手を考えていらっしゃる、、、。


「だってお父様が、、、ど、どうしよう、、私っ、やっぱりお兄様に手紙を書くわ。それで、エレノアに、、」

「アリア様っっ!」


ぱちん、とミアが音を立てて私の頬を挟んだ。


「どうか、落ち着いて下さい、しっかりして下さい。ここまで来て、全てを捨てるおつもりですか?」


「、、、い、いいえ、、。 私は、、 そうよね、ありがとうミア、、。  少し、1人にさせて頂戴。」


後はもう、見守る事しか出来ない。


ありがとうございます。

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