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「だが、逃げよう等と思うなよ。今日からお前は俺の物だ。」


ひやりと背中が冷えた。ただ頷くしか出来ない私の頬や首に、男は何度も指を滑らせていく。

不意に喉を掴まれ心臓が飛び出そうになったけれど、気が済んだのか直ぐにその手は離された。


「ふん、もう行け。」


そう言われたけれど どこにいっていいかも分からず立ち竦んでしまう。おそるおそる顔を見つめると、一瞬間をおいて思いついたように指を指して教えてくれた。


「その部屋で休んでいい。」


慌てて頭を下げて逃げる様にその部屋へと滑り込んだ。

ドアを閉めた途端全身の力が抜け、背をドアに預けたまま崩れ落ちた。恐怖と安堵が入り交じって、涙がぼたぼたと流れ出る。


檻から出られた。部屋を与えられた。大丈夫、大丈夫。壊すつもりはないと言った。だから、大丈夫。大丈夫。

ゆっくり言い聞かせて、極限だった神経を、無理やりほぐしていった。

ただ、首を触られた感触は生々しく残っていて、なかなか消えてくれない。

大丈夫、生きている。大丈夫、、、何度も何度も、小さく口に出して呟いてみた。


そのうち、うつらうつらと意識が遠のいていって、頬に当たる絨毯が気持ちいい、と思った。




***


ゴン


頭に何か固いものがぶつかって、寝ていた事に気が付いた。

目を開けると、視界に絨毯が広がっていて、ぼんやりと それを眺めた。


「床で寝るのが好きなのか?」


突然上の方から低い声が落ちてきた。

びっくりして飛び起きて後ろを振り返ると、男が立っている。冷たい視線が向けられていて、思わず縮こまった。


「いいえ」と言おうとしたけれど、声が掠れた。どうしてだか、この男の前だと上手くしゃべれない。仕方なく、首を横に振った。


「ふん、食事の時間だ。」


腕を掴まれ、ぐい、と引っ張られた。そのまま部屋から出されれば、そこは最初の部屋だ。

ソファーとテーブルが置いてあって、テーブルの上に食事が1人分だけ置かれていた。

腕をつかまれたままぐいぐい引っ張られて、足枷の鎖がガチャガチャと絡まる。

危なく躓きそうになったけれど、あっ、と思ったのは一瞬で、気付けば足が地面を離れ、ぶら下がった。私は脇に抱えられていたのだ。

びっくりしてじたじたと動けば、ぼとり と落とされた。


「きゃっ」


咄嗟に声が出た。おそらく、この男に聞かせるはじめての声だ。


「なんだ、声が出るじゃないか。」


目を丸くして私を見たかと思うと、今度は両脇を掴まれ、持ち上げられた。私は高い高いをされた子供のようだ。そして急に、手を離された。


「きゃあっっっ!」


さっきよりも大きな声が出て、私は床に落ちた。

外から使用人が慌てて入ってきた。


「陛下! どうされました!?」


どうかされているの私で、床に這いつくばっているのに目もくれなかった。


「何でもない。食事にする。終わるまで外にいろ。」


満足そうな顔が、私を向いていて、外にいろ、と言う言葉が、使用人だけに言ったのか、私を含めて言ったのか分からなくなった。用意されているのは1人分だし、こんな扱いの私が、食事できるとはとても思えない。

私は使用人に付いていく事にした。おそるおそる立ち上がれば、落ちる時に捻っていたらしい足首が、じんじんと痛んだ。

ドアをくぐろうとした途端、肩を掴まれた。


「ひっっ!」


「どこにいく。部屋を出る許可は出していないぞ。」


「お、お、お食事の、お邪魔かと思って、、」


「俺がお前と食事をするはずないだろう。お前の食事だ。」


「は、、はい。」


「座れ。」


ソファーを指差しそういわれ、素直に座った。

どんな物を食べさせられるのかと思っていれば、美味しそうでほっとした。

こんな状況でも美味しそうな食事を前に、私のお腹は空腹を訴えてきた。どきどきしながらフォークを持とうとすると、手を払われる。え?と見ると、何食わぬ顔で真横に座ってきた。


広いソファーの上で、異常なくらい身体が密着した。横にずれたいと思うのだけど、私を見据える冷たい目が恐くて動けない。


「食べさせてやる。」


「え?、、、」


聞こえた言葉が信じられなくて、聞き返した。


「食べさせてやる。」


「、、、」


「食べさせてやる。」と言われても、、、


動けなくなった私を無視して、肉を切り分け始めた。フォークに刺された一口サイズの肉が、目の前に差し出される。近すぎる、、、


「あ、あの、、」


「ご主人様と呼べ。」


「ご、ご主人様?」


「なんだ?」


「あの、私、自分で食べれます。」


「お前、、、名前は?」


「へっ?」


「名前があるんだろう?」


「あ、ええと、レイラ、といいます。」


「、、、レイラ、か。、、ふむ。さぁ、食べなさい。」


私が自分で食べれます、と言った言葉は聞いていなかったようだ。

仕方なく差し出された肉を食べた。ご主人様は、私がフォークの肉を口に入れる時も、咀嚼するときも、飲み込む時も、じっと見ている。肉が柔らかくて良かった、もしも固い肉だったら、喉に詰まっていたと思う。


読んで下さってありがとうございます。感想、評価、ブックマーク等、していただけると元気になります。

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