76前半アリア、後半マイクです
***アリア視点***
見慣れない男が、使用人に挟まれて歩いている、、、。
先日預かった完成品の確認が終わり、私は陛下に報告をするため執務室に行っていた。完成品はどれも見事で完璧だったので、村には残り全てを納品してもらうよう手紙を出している。
その報告が済み、自室へ戻ろうと廊下を歩いていた時、その男を見たのだった。
廊下の壁に寄り頭を下げる使用人に混ざって、その男も頭を下げた。まるで怯えた子犬の様に縮こまっている。それにしても、陛下に何の用事かしら? 客人がこの廊下の先にいくとしたら、それは陛下の執務室だ。私は首を傾げた。
「その方は?」
立ち止まって思いきって聞いてみた。
先頭にいた使用人が、頭を下げたままそれに答えた。
「アリア様、この者はオリバー商会のマイクさんです。陛下に御呼び出しを受けております。」
「オリバー商会の? そう、、。 行っていいわ。」
流通の件かしら?
「はい、失礼致します。」
後ろ姿を見ながらミアに話しかけた。
「ねぇ、ミア。あの者と少し話したいのだけど、可能かしら?」
「どうにか致します。アリア様はお部屋でお待ち下さい。」
「ありがとう、くれぐれも気を付けてね。」
「はい、任せて下さい。」
ミアに任せて私はひとまず部屋へと戻った。
***マイク視点***
執務室の前に着くと、前を歩いていた案内役の人が取り次ぎをしに中へ入って行った。通されるまでの暫くの間、俺はせっせと頭の中を整理することにした。関所で一度説明しているから少しは分かりやすく説明出来る筈だけど、なんせ陛下の御前だ。怖じ気づかない自信はない。というかすでに足が震えていた。
ついに通され部屋へと踏み入れると、陛下はじっとこちらを見ていた。思わず ひっ、と僅かに身体が浮いた。
「あぁ、またお前か。して、どうして荒野をさ迷っていたのだ?」
また、、、。実はレイラの件で陛下には一度お会いしているので今回は二度目の謁見だ。そしてさっそく、答えづらい事を聞かれて言葉が詰まった。
「う、それは、、その、、少し旅行のつもりで、、です。」
「ほう、今 旅行できる程オリバー商会は暇なのか? 色々と仕事を頼んでいる筈だが?」
「う、、そ、その、す、すみません。何も知らなかったとはいえ、勝手をしてしまいました。」
「ふん、まぁよい。それで、報告の件だが、始めから全て説明してみろ。」
「はっ、はい。実はですね、、、」
鋭い目で見られて全てが吹き飛んでいった。少し分かりやすく、どころか しどろもどろになりながら汗を垂らして説明した。陛下の手元には先に届いた報告書らしき紙があり、俺が説明に詰まる度にその紙を見ながら細かく質問してきた。とても長い時間に感じる。気が遠くなった。
「奴らは間違いなく同盟国を作っているのか?」
「あ、あのっ、ええと、その、俺は取り交わした書面を見た訳でないので、耳で聞いた話を繋ぎ合わせただけなのですが、恐らく間違いないと思います。それとっ、どうやら他国との間に誤解があるようでして、あっ、、これも報告した通りなのですが、彼らの目的はジェミューの解放です。ですので早く誤解を解かないと本当に大変なことになりますっ。」
「ふむ、、。1つ聞くが、お前は本当に こちらの情報を漏らしていないのか?」
「は、はいっ、すみません。ずいぶん悩んだのですが、口外禁止となっていましたし、とても言い出せる雰囲気ではなくて、すみません、意気地がなくて、、」
俺にもっと勇気があったらもっと早く解決していたかもしれない。思い出すと情けなくなって視線はだんだんと下がり、ついには自分の爪先を見ていた。ところが次の瞬間、俺は陛下の言葉に驚いて弾かれたように顔を上げた。
「いや、いい。それは上出来だ。」
「へ、、? じょ、上出来? 良かったのですか?」
「ああ、よくやった。ではマイク、オリバー商会へ伝言を頼みたい。」
「え、あ、、はい。何でしょうか?」
「新しい取引国への最初の便に、新しい品目を1つ追加して欲しいと伝えろ。数はないが反応を確かめておきたい、とも。」
「は、はいっ、畏まりました。」
暫く不在だったので話がよく分からないけど、陛下の伝言はしっかり頭に叩き込んだ。
それにしても、陛下は争いを望んでいるのだろうか、、、?
ともかく無事に解放された俺は、いそいそと部屋を出た。てっきりまた、案内役の2人に挟まれて帰るのかと思っていたら、もうその2人はいなくなっていた。帰りはご自由に、というか、勝手に帰ってください、ということなのだろう。
俺は少しほっとして廊下を歩き始めた。人に囲まれると、どうも緊張するのだ。
歩いていると、長い廊下には部屋のドアと思われる物の他に、一見見落としそうな色合いの目立たない小さめのドアが時々配置されているのに気が付いた。
使用人用の隠し通路かなにかだろうか?
ぼんやりそんな事を考えながら、丁度そのドアの前を通り過ぎた時、かちゃ、と開く音がした。思わず振り返ろうとした途端、何かが俺の身体を引っ張り、そのまま引き摺り込んでいった。焦って声が出そうになるより前に、しっかりと口は塞がれていた。
「失礼をお許し下さい。アリア様がお待ちです。」
耳元で誰かが囁いた。アリア様? 聞いたことがあるような、、、?
ありがとうございます。