75 前半アリア、後半マイクです
***アリア視点***
陛下が常に私を疑っていらっしゃることが分かったので、行動には細心の注意を払わなければいけなかった。母国にも連絡出来ず、解決の糸口も見つからないまま、私は毎日 頭を悩ませていた。
そしてもう1つ加わった悩みの種、メリッサはあれ以来、私の前に姿を見せていない。大人しく反省していてくれているのならいいのだけど、、、。突き放したのは最善ではなかったのかもしれない、と不安を感じる。
机に突っ伏していたらドアをノックする音が聞こえ、ひょっこりミアが顔を覗かせた。
「アリア様、陛下が執務室へ来るようにと仰っています。」
「分かったわ、ありがとう。」
むくりと顔を上げ、鏡を見て身なりを整えてから部屋を出た。最近の私は、陛下からよく執務室に御呼び出しを受けるようになっていた。それというのもジェミューの細工の件で、流通に関しては詳しく教えて貰えないのだけど、出来映えの細かいところは私が確認する事になっているからだ。
部屋の前に着いてミアが取り次ぎをすると、直ぐに中へと通された。
部屋の中では丁度、使用人達が届いたばかりの荷物をほどいているところで、陛下はそれをご覧になっていた。だけれど直ぐに私にお気付きになり、お顔をお上げになった。
「ああ、来たか。」
「はい、参りました。そちらの荷物が完成品でしょうか?」
私は、ほどかれてく荷物に一度視線を投げてから再び陛下を見た。
ここのところ陛下はとても焦っているように見える。お顔の表情も、旅の報告をさせて頂いた時とは うってかわって、固く強張っていらっしゃった。
そして、陛下のお誕生祭という大きな行事が数ヵ月後に迫っているのでそろそろ準備にも取り掛からせて頂きたい処なのだけど、お忘れになっているのでは?と思うくらい、ジェミューの細工の方ばかりに力を注いでいらっしゃった。
「アリア、それを確認して不備が無ければ、残りを全て送るよう 村に連絡をしろ。頃合いを見計らってオリバー商会とも連絡を取ってくれ。確認作業はどれ程かかりそうだ?」
私は少し考えてから、陛下に申し上げた。
「慎重に確認をしたいので3日程頂けたらと思います。もしも不備がありましたら再度手を加えて頂く方向でよろしいですか?」
「2日だ。時間が惜しい、不備があるものは一旦除外しろ。」
「畏まりました、ではそのように。」
やっぱり焦っていらっしゃる。陛下が感情を表にお出しになられる事が、珍しく思えた。
***マイク視点***
数日かけて戻って来た俺は、王宮へ行く前に一旦オリバー商会に向かった。久しぶりの店に足を踏み入れるのは緊張する。店の前で立ち止まり、深呼吸を3回した。
そしてまずは真っ直ぐに旦那様の部屋に行った。
「旦那様、ただいま戻りました。」
「おおマイクか、よく戻ってきた。安心したよ。」
どきどきしていたのだけど旦那様はごく自然に俺を迎え入れてくれた。それはまるで、仕事から帰った時のようで、家に戻ってきたのだと、ほっとした。
「ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。」
「ああ、まぁ気分転換出来たならいいさ。どうだ? また頑張れそうか?」
「 っ、、はい!今日からまた!働かせて下さい!」
「うむ、いいだろう。あぁ、それはそうと、まずは王宮に行くのだろう? 」
「あ、はい。ええと、? ご存知でしたか?」
「ご存知も何も、お前宛てに呼び出し状が届いているぞ。」
「え、、あ、、。 、、そうでしたか。」
もともと王宮には行くつもりだったけど、まさか呼び出し状まで準備されていたとは知らなかった。急いで帰って来て本当に良かった と胸を撫で下ろし、部屋で身だしなみを整えてから王宮に向かった。
到着すると、立っていた門番が俺を見るなり直ぐに案内役に引き継いでくれた。どうやらいつの間にか顔も名前も知れ渡っていた様だ。
それから2人の案内役に前後に挟まれて移動したのだけど そのとき、長い廊下の向こうから女の人が歩いて来るのが見えた。侍女らしき人を引き連れていて服装も立派なので、高貴な人だと分かる。目が合いそうになって慌てて視線を落とした。
、、、何となくじっと見られている気がする。じわりと汗をかいた。
近付いたら案内役が立ち止まり壁に寄って頭を下げたので、俺もそれに習って見送ることにした。
ところがそのまま通り過ぎると思いきや、足が目の前で止まった。
「その方は?」
どうしてだか 悪いことをして連行されている気分になっていた俺はびくりと震えた。
「アリア様、この者はオリバー商会のマイクさんです。陛下に御呼び出しを受けております。」
「オリバー商会の? そう、、。 行っていいわ。」
「はい、失礼致します。」
俺達は再び歩き出したのだけど、後ろからはひそひそと話す声が聞こえた。
ありがとうございます。