72 前半ジュリです。
***ジュリ視点***
メリッサと話をした後、私ははやる気持ちを押さえ、お嬢様の元へ向かった。早く試したくて うずうずする。
部屋の前に着いて、一旦呼吸を整えた。今から恐ろしい話をするというのに、こんな顔ではいけない。出来るだけ深刻そうに、思い詰めて見えるように意識した。部屋に入り、さっそくお嬢様に打ち明けた。
「え? 」
「だからですね、私がこの間、見たと言っていた人形は本物の人間だったのです。」
「でも、人間がどうして人形になるの?」
直ぐに恐がるかと思えば、意味が分からないといった風だ。
「、、、お嬢様、剥製って知っていますか?」
「いいえ知らないわ。」
仕方がないので剥製が何かというところから教える事にする。私も詳しくは知らないのだけど、できる限り恐ろしく、を心掛けた。
「ええとですね、剥製っていうのはですね、捕らえた動物の内臓や眼球とかを生きたまま引っ張りだしてですね、腐らないようにして、生きているみたいに元通りにするんです。」
「なんだか恐いわね。どうして生きたままなの? それにそれって一体何のために?」
「え、ええっと、、より新鮮な方がいいらしいです。それから、えっと、、あ、観賞用にする為です。」
「観賞用に、、? 死んだ動物を? ますます恐いわね。」
「そ、そうなんですっ。それでっ、その恐ろしい剥製が、実は私が見た人形の正体だったのです。」
さすがに衝撃だった様子で、お嬢様の顔は一気に強張った。私は心の中でにんまりした。
「え、、、? 人間の、、? それって、、あの宝物庫に、遺体があるっていうことなの?」
「そうなんです。しかもですね、聞いた話によるとですね、あ、ええと、実はこの話は陛下の王妃候補だったエレノア様の侍女から聞いた噂なのですけどね、その剥製の女の人って陛下の恋人だった人のようなのです。」
「え、、 恋人、、、? 陛下の、、?」
お嬢様の目が見開いた。どうやら成功したみたい。
「そうなんです。ええと、私が王宮に来たのは8歳の時だから、、ええっと、ぁ、6年前。だから、6年以上前の話だと思うのですけど、、、その時陛下はその女の人対する独占欲が強すぎたあまりに剥製にしてしまったと聞きました。でも剥製にした後は直ぐに飽きてしまい、宝物庫に置き去りということらしいです。」
「、、、え? え、、 ま、待って、待ってジュリ、あなたは、その、、女の人は小さな女の子と一緒だったって言ってなかったかしら、? こ、恋人っことはつまり、、その、、」
しまった、忘れていた。女の子がいたんだった。私は冷や汗をかきながら頭を必死に動かした。
「そっ、そうなんです。つまり、子供がっ、あっ、子供にも嫉妬して、、って、、ええと、これ以上は分かりません。」
「、、、」
「お嬢様?」
「えっ、あっ、 ごめんなさい、ついぼんやりしてしまって。」
かなり動揺しているお嬢様にほっとして、次の瞬間には、はっとした。 この後どうすればいいの分からない。
「、、、お、お嬢様は、この話をどう思いますか?」
「、、、」
「ん? お嬢、、わぁっ、お嬢様!?どうしましたっ?」
どどどどうしよう、、
お嬢様の、こんな顔を見たい訳じゃ なかったのに、、、
***レイラ
ジュリが宝物庫にある人形の話を教えてくれた。人形じゃなくて本物の人間だと聞いて驚いたけれど、恐ろしさよりも、以前 階段の踊場から宝物庫を見た時の違和感を思い出した。あの時のざわつきが今、更に大きくなって胸の中を渦巻いている。
そして次にジュリが放った言葉に思わず固まった。ジュリは 陛下の恋人、と言った。
どくん、と心臓が鳴る。噂だから本当は違うのかもしれないし、本当だとしても過去の事なんだから、と分かっている。分かっているのだけど、、、 手足が小刻みに震えてきた。
ふいに、あの時のジュリとの会話が頭をよぎった。 あ、あれ? 確か子供が寄り添って、、? あの時ジュリはそんな事を言っていた気がする。嫌だ、、こんな事思い出さなければよかったのに。
どうか私の勘違いでありますように、、縋る思いでジュリに確認したけれど、やっぱり子供が一緒で、、。
頭が真っ白になった。まるで、ざわついた胸の真ん中に太い針が刺さったようで、ズクズクと痛み始める。
ジュリが心配して何か言っているけどちっとも頭に入ってこなくて、気が付けば頬を つぅ、と滑り落ちるものがあった。
「お嬢、、わぁっ、お嬢様!?どうしましたっ?」
「、、え 、、あ、 ジュリ、ごめんなさい、少し、1人になりたいの。お願い、、、。」
「で、でもっ、大丈夫ですか?」
「ジュリ、お願い。」
「、、、、 分かりました。では、では、、何かあったら呼んで下さい。」
**
どうしよう、、。あれから何も手につかない。もうすぐ夕食で、ウィレムは一度戻ってくるというのに、、。今の私の顔はとても見せられたものでないし、もしも理由を聞かれでもしたらどうしたらいいのだろう。
思い悩んでいるところへジュリが様子を見にやって来た。
「あ、あの、、お嬢様、、 あっ! お、お嬢様っ、どうしましょうっ、」
おそるおそる聞いてきたジュリは、私を覗き込んで、声をあげた。私はさっきからずっと涙が止まらなくて、酷い顔になっていたのだ。
「ごめんねジュリ、、涙が止まらないの。」
「、、、あ、あの、、」
「夕食は無理そうだわ、、。」
「で、でも、、陛下がもうすぐ、、え、ええとっ、分かりましたっ、何とかします! お嬢様は、ええっと、ベッドでお休みしていて下さい。陛下には、どうにか説明しますから!」
「、、ありがとう、ジュリ、そうね、そうさせて貰うわね。陛下には、体調が悪いからって伝えてくれる? あ、、ベッドじゃなくて、あっちの部屋のソファーにするわ。うつると悪いから来ないで、って言ってもらえる?それから、毛布を持ってきて貰えると助かるわ。本当にごめんね。」
こんな事を頼むのなんて初めてだけれど、この気持ちを消化しきれないまま会うのとても恐かった。自分がどうなるのか、何を言い出すのか分からない。
ジュリは頷いて、久しぶりのソファーを、眠れる様に整えてくれた。私はそのソファーの上で、毛布を頭まで被って、じっと涙が枯れるのを待っていた。
ありがとうございます。