7 マイク視点 最後にちょこっとレイラです
「マイク、お帰りなさい! これ、ありがとう!」
店に戻るなり、リサが飛び付いて来た。その態度に俺は戸惑って固まった。横にはマルクスさんがいる。リサは2人の時よりも、今のように誰かいる時の方がやたらとくっついてくる。まるで見せつけるかのように腕を絡められた。こういう事をされるのは正直うざったい。でも旦那様の手前、無下にも出来ないのだ。
「ただいま戻りました。 これ、とは何でしょう?」
「嫌だ、冷たいのね。これよ。誕生日の贈り物なんですってね、すごく嬉しいわ。でも直接渡してくれたらいいのに。少し遅くなったって、私は構わないのよ。」
首に掛かったペンダントをつまみ上げて見せてくれた。色の違う5つの小さな石が花の形を模しているそれは、当然見覚えのないもので、ああ と、うんざりした。いつそんな時間があったのか分からないけど、マルクスさんが買ったのだと思う。誕生日に間に合わせる為にわざわざ早馬まで跳ばしていたのか。リサの好みをしっかり把握しているマルクスさんが選んだそのペンダントを、リサはとても気に入った様子だ。
「ああ、おめでとうございます。」
俺じゃないとも言えず、小さく言った。
「ふふ、ありがとう。ねぇ、マルクスさん、このペンダント、私によく似合っているかしら?」
「ああ、リサ。とてもよく似合っている。」
「ねぇ、どうしてあなたからは何もないの?」
リサはマルクスさんに話を振ったかと思うと急に責めるような口調になった。
「ははは、リサ。こんなおじさんからもらってどうする。」
内心ハラハラしたが、マルクスさんは不機嫌になることはなく、軽く受け流していてほっとした。
逆にリサは少し不機嫌そうな顔をする。パッと俺の方に向き直り腕に胸を押し当ててきた。
「うふ。マイク大好きよ。私ね、もう17になったの。あまり待ちたくないから、早くパパに認められてね。」
俺の事をそんな風には思ってもいないくせに。
リサを見た俺は、あれ?と思った。リサは俺でなく、マルクスさんを睨んでいたのだ。違和感を感じながら、早く部屋に戻りたくて足早に廊下を歩く。リサは腕に纏わりついたまま付いてきた。
レイラの事を思い出していた。歳は16だと言っていた。今頃辛い思いをしているかもしれない。胸が押し潰されそうだ。何か彼女の為に出来る事があったらいいのに。
部屋の前で、リサが目の前に回り込んできた。俺を見上げてくる。何か言いたげな顔をしていたが、
「すみませんが、疲れているので失礼します。」
と言って、頭を下げて部屋に逃げた。リサは不満そうに俺を見ていた。
疲れたな、、ぼふっ、とベッドに仰向けに倒れる。
「レイラ、 レイラ、 レイラ、、、」
小さく呟いてみた。胸が苦しくて涙が流れた。どうやら俺は彼女に恋をしてしまったらしい。
**
ドアを叩く音で目を覚ました。いつの間にか眠ってしまっていたのだ。窓の外は夕焼け色に染まっていた。
「まだ寝てたのか。」
マルクスさんが入って来た。
「あー、はい。疲れてしまって。」
「そうか、、、傷は、治してもらったのか?」
マルクスさんの目が、俺を捕らえた。じわりと汗がでる。一度も聞かれなかったから、気付いていないのかと思っていた、
「、、、まぁ、いい。変な気は起こすなよ。それより、リサに、良くしてやってくれないか。お前は性格がいい、リサも幸せになれるだろう。」
どうしてそんなことを頼んでくるのか分からないし、返事に困る。
「、、、リサは、俺の事、好きじゃないと思います。」
「、、、そうか。」
マルクスさんは、情けない顔をしてそう言った。
俺は思いきって口を開く
「っあの、、リサは、」
リサは、もしかして、、と言おうとして、
「おっと、旦那様が呼んでるんだ。夕飯食べたら一緒に行くぞ。」
マルクスさんに遮られた。
旦那様はこの国で指折りの商人だ。当然、店も構えていて、その店に繋がる寮に俺は住んでいる。
大きな店だからいろんな奴がいるわけで、気の合わない奴だっている。
夕食後、マルクスさんに声を掛けに行く途中に、そいつ出くわした。サイラスだ。
「お前、ちょっと成功したからっていい気になるなよ。」
相手にしたくない。サイラスは表に立つ仕事をしていて、俺は裏方だ。だから滅多に顔を会わせないのだけど、タイミング良く目に前にいるということは、わざわざ文句を言うために待っていたのだと思う。
「俺の手柄じゃない。」
「だよな。分かってんならいいんだ。あと、あんまりリサに近づくなよ。」
近付いているつもりもない。うんざりだ。
言いたい事だけ言うとサイラスは去っていった。
「狩りはご苦労だったな。お陰で陛下も気に入ってくれたよ。」
「今回は運が良かったんですよ。生け捕りに出来たのは幸運でした。」
旦那様に言われ、マルクスさんさんは機嫌良く答えた。俺はマルクスさんの一歩下がったところで、おとなしくしていた。
「ところで、マイク、お前、あの女の名前は聞いたか?」
突然話を振られてびくっとした。
「え? ええ、はい。聞きました。レイ、、」
「いや、知っているならいいんだ。明日城へ行って陛下にお会いしてこい。」
「へ?」
***レイラ
檻から出ろと言われて素直に出ると、足枷を付けられた。そのまま歩かされ、私は、ある部屋の前に着いた。使用人らしき人がノックをして入ると、部屋では、先にあの場を立ち去ったあの男と、側近らしき人が立っている。
「陛下、やはりこの部屋では問題があるのではないでしょうか?」
「よい。余の勝手だ。」
「しかし、、、」
側近らしき人は不満があるようで、顔をしかめていた。
私は、どう振る舞っていいのか分からず立ちすくんでいた。
「よいと言った。もう出ていけ。」
その一声でみんな出ていき、あっという間に2人きりになっていた。
ゆっくりと近付いてきた男は、冷たい手で、私の頬を触れてきた。
「壊れそうだな。」
ぼそりと言われ、思わず固まった。
「恐いのか?」
と聞かれ、おそるおそる頷いた。怯える私を見て満足そうな顔をする。
「ふん、壊そうとは思っていない。」
撫でる手が、一度止まった。
「だが、逃げよう等と思うなよ。今日からお前は俺の物だ。」
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