67 前半リサ、後半マイクです
***リサ視点***
私達は倉庫の床に座って話し合いを始めた。パパとサイラスが向き合い、私はそれを見守る様に2人の真ん中辺りで、一歩下がって座っている。当事者の私が一歩引いているのもおかしな話なのだけど、、、。
「で、パパは少しは落ち着いた?」
「最初から冷静だ。サイラス、お前にはがっかりした。今まで目をかけてやったのに、こんなにとんでもない奴だったとはな。今すぐに出ていけ!」
「ちょっとパパ、サイラスはそんな人じゃないわ。さっきのは、、ほら、、じ、事故よっ、、ね、サイラスっ。 とにかく、サイラスは悪い人なんかじゃない。ほら、あなたも早く謝って。」
ぱっ、とサイラスを見れば、彼は真っ直ぐに私を見ていて どきり、とした。
「リサ、俺、覚悟してるっていったよな? あれは事故じゃない、だから謝る事は出来ない。 それで出ていけと言われるなら、出て行く。」
「な、何言ってんのよ!? 出て行かないでよ!」
「どうして? リサだってこんな俺、、いない方がいいだろ?」
「そ、そんな訳無いでしょっ、居て欲しいわよっっ」
咄嗟に出てしまった言葉にパパが驚いてこちらを見た。私だって びっくりだ。
「でも、ここにいたら、また同じことをするかもしれない、、、」
「ばっ、、! 止めてよっっ、」
サイラスがとんでもない事を言い出して私の顔は火を吹いた。また、って、、 一気に顔が熱くなる。
「やっぱり、リサは嫌だよな、、」
サイラスが ぺしゃん、と萎んだ。
「い、いい嫌って訳じゃないわっ」
自分で何を言ってんだろうって思う。けど、サイラスを見ていたらそう言わずにはいられなくて、、、
「本当に? リサは嫌じゃないのかっ?」
「どういう事だリサ、説明しなさい。」
2人が座り直して身体を私に向けた。
「えっ、、えっ、えっ、嫌じゃないって言ったら嫌じゃないのよっ。」
「また、してもいいのか?」
「そ、それはっ、ちがっ、えっ、、ええっ!?」
サイラスがおかしい。パパに殴られてどうかなってしまったのかもしれない。私ばかりが取り乱し、慌てふためいて振り回す手までもが真っ赤だ。
「リサ、説明しなさい。誰とでもそんな事するのか?」
「なっ、違うっ、、誰とでもこんな事しないわよっ!」
なんだか訳が分からなくなってきた。
「じゃあ、サイラスはいいのか?」
「 、、っ そんなのっ、知らないわよっ」
「さっきは嫌じゃないと言っていたぞ。」
「もうっ、何なのよ。サイラスは嫌じゃなかったわ! これでいいっっ!?」
「言ったな。よし 分かった、ではサイラスを許そう。店の事もリサの事も、宜しく頼む。」
「は? ちょちょちょ、ちょっと待って! 何の話!?」
「何って、そういう話だよ。リサはサイラスを受け入れるんだろう? だからそういう事だ。」
「う、受け入れ、、? え、、 私、結婚するの、、、?」
サイラスを見ると、信じられないといった顔で私を見つめる。私の方が余程信じられないのに。
「いいのか? リサは本当に俺でいいのか?」
「え、、 何で? え? え? 何でそう、、」
じわりじわりとサイラスが近寄ってくる。思わず後ろに仰け反った私を、ぎゅっ、と抱き締めた。硬直している私の耳元で、ありがとう、ありがとう、と繰り返すサイラスに、嫌です、なんて言えなかった。
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「サイラス、押せとは言ったが あれはやり過ぎだ。」
「、、、すみません。」
「お前は、、 まぁいい、だが今後が心配になる。あれでも大事な一人娘だからな。」
「すみません。」
「はぁ、、、いいか、サイラス。多少強引でもいいが、雰囲気ってものがあるんだ。」
「雰囲気、ですか?」
「ああ、、、って、お前じゃ無理そうだな。せめて了承を得てから次に進め。」
「了承、、、。 分かりました。きちんと確認します。」
「、、、頼んだぞ。」
後日、パパとサイラスが2人きりでひそひそとしゃべっていたのを、私は知らない。
***マイク視点***
どうやら俺は、アリドゥラムで行われていたジェミュー迫害について詳しく知る者として、また告発者として、とても重要な立場にいるらしい。そんな俺はディクフに着いた後、訳も分からぬまま、短期間の間に色々な国に連れ回され、その都度その国で行われる会議に座らせられた。重要そうな会議に俺がいるのは正直 場違い感が凄くて居心地も最悪なのだけど、拒否権などなかった。
そして周りから聞こえてくる会話に頻繁に出てくるのは隣国リュヌレアムで、糸を引いているのはディラン殿下のようだった。
ディラン殿下は連合国を形成させているらしい。だけどとても焦っているようで、署名は集まれど中身は薄いまま雰囲気だけが盛り上がっていっている風に見えた。その盛り上がり方もなんだか異常で、間違った発言をしようものならその場で殴り殺されそうな雰囲気だった。
恐い。危険を感じた俺はどうにか機会を伺って逃げ出したいと思っていた。幸いにも盗賊にやられた足はもう、ずいぶん腫れも痛みも和らいでいる。とにかくいつでも逃げ出せるように、よく食べてよく眠った。頼れる物は走る足と体力だ。
そしてその機会は突然やってきた。
その日、俺達は再びやってきたディクフでディラン殿下と合流した。ディクフはディラン殿下をもてなす為に宴会を開き、それは大変な盛り上がりをみせていた。とにかく栄養のありそうな物を食べて飲んでいた俺は小便をもよおして会場を抜け出した訳なのだが、従順な態度の俺の事をついに信用したのか、信じられない事に見張りをつけられずに抜け出せたのだ。
これは今しかない。
足は動く 酒は飲んでいない 食事は十分とった。
入った便所に丁度いい窓があったので、迷わずそこから逃げ出した。外に出ると日は落ちかけていて、そこかしこに影が出来ていた。目立たないようにその影を通って出来るだけ遠くに離れた。
ありがとうございます。