66リサ視点、最後にちょっぴりアリアです。
***リサ視点***
私が部屋に引きこもっている間に店は驚くほど忙しくなっていた。それと言うのも、陛下は貿易の改革を行うらしく、新規の取引国の選定や条件の調整、契約に関わる色々を、オリバー商会に負託したからだ。もちろん丸投げというのではなく、国からも数名、構成員として加わっている訳なのだけど、、、忙しい。
けれど忙しければ忙しい程、嫌な事を忘れていられた。一人で考え込む時間がないというのは本当にありがたかった。
サイラスは私を気遣ってか 一緒に行動する相手に、いつも私を指名した。またパパも、何も言わずにそれを了承していた。
私もサイラスとだったら無理して笑う必要もないから楽だった。の だけど、、、
仕事が一段落したある日、私は近所のお得意先にお使いに行った。用が済むとお茶を進められ、その後の予定も特になかったので、お言葉に甘えることにした。丁度喉も乾いていて、休憩したいと思っていたのだ。
「最近頑張っているねぇ。すっかり若奥様だ。」
お店の女主人がお茶を淹れながら話し掛けてきて、その内容に驚いた。
「え? 私、結婚していませんけど。」
「もうじきだろ? もう若奥様も同然じゃないか、親父さんも嬉しいだろうねぇ。」
「え? それ、私の事ですか? 一体だれと?」
「とぼけちゃって。この間だって2人で挨拶に来てくれたじゃないか。」
この間、、2人で、、?
「え、、それって、、サイラス、、ですか、、?」
「あはは、みんな知ってるんだから、隠したって無駄だよ。」
、、サイラス、と、、結婚、、?
**
そのあと何を話したか、どんな風に店を出たのか分からない。ただ混乱して、急いでパパに確認しなくちゃ、と思った。
「ねぇっ、どういうこと? 全部パパの仕業?」
「リサ、一体何の話だ? 分かるように言ってくれ。」
急に部屋に飛び込んできた私に、パパは目を丸くした。
「だからっ、、私とっ、サイラスのことよっっ!」
そうしてる間に、身体中の血はどんどん上へ押し上げられていく。頭の両側がびりびりと痺れた。私は今、ものすごく憤っている。
「サイラスがどうした?」
「、、、うぅぅ、、さっきっ、私とサイラスがもうすぐ結婚するって聞いたんだけどっっっ!」
「ああ、その事か。どうだ? サイラスはいい奴だろう? あいつだったら店も任せられるし、、」
「本当なのねっっ!? サイラスはそれを知ってるのっっ!? 知っていてこれまでっ!?」
怒りは頂点に達した。許せない。私は本気で落ち込んでいたのに、、サイラスの優しさの裏にそんな企みがあったなんて。
深く荒くなった呼吸のせいで、胸は圧迫感を訴えてくる。込み上げる感情をそのままぶつけた。
「パパなんて、大っ嫌いっっ!!」
「リっ、リサっっ」
サイラスを問い詰めなければ。あちこち走り回ってサイラスを探すけど、こういう時に限って見つからない。ジリジリしながら店の奥にある倉庫を思い切り開いた。
「うわっっ」
見つけた! サイラスは倉庫の中で棚卸しをしている最中で、びくっと肩を震わせ振り向いた。そのサイラスに、私は勢いよく突進して詰めよった。
「ねぇ! あんたは知ってて私に優しくしてた訳っっ!?」
「へっ?」
サイラスが狼狽え、手からは帳面が滑り落ちた。
「あんたはっ、パパに言われてっ、だから私に気に入られようとしてるのっっ!?」
気が付けば泣いていた。たぶん悔し過ぎて。サイラスは何も言わずに、突っ立っている。
「、、、っ、何なのよっっ! 全部、、今までの行動、全部っ、パパに言われてしてた訳っっ!?」
サイラスの胸を思い切り叩いた。何度も。サイラスが何も言わないから余計に腹がたった。
「本当に、何なのよっっ、 、っ きゃっ 」
急に両肩を掴まれたと思ったら視界がぐるりと回り背中が棚にくっつくいた。
「なっ、なんっ、、 んむ、、」
唇を塞がれた。歯が思い切り当たったし、頭も棚にぶつけて ごん、と音が響いた。
「、、っ、何すんのよっ!」
サイラスの胸を突飛ばしたつもりだけど、ほんの少し、唇が離れただけだった。以外に男で焦る。
「リサっ、こっ、これっ、、こんなことっ、旦那さまは命令しないっ。全部っ、俺が勝手にしたっ、、お、俺っ、リサが好きだっ。」
「なんっ、、んむぅ、、っ、」
再び唇を押し付けてくる。さっき突き飛ばそうと頑張っていた私の両手は呆気なくサイラスの両手に包み込まれて棚に固定された。んー、んー、と首を振っても唇はしっかりと付いてくる。
と、その時突然サイラスが後ろに引っ張られた。握られていた私の両手も一緒に引かれたものだから一瞬よろけてしまった。体勢を整えて顔を上げるとサイラスが床に打ち付けられている。
「え、、、?」
「無理やりする奴があるかぁっっ!!
貴様っっ、 よくもっっ!!」
「えっ? えっ? ちょっ、ちょっとっ、、」
パパがサイラスに馬乗りになった。
へ? と思っていたら ゴッ、と痛そうな音が聞こえてはっとした。
「パパっ止めてっっ 死んじゃうっっ!!」
咄嗟に駆け寄り、サイラスの上に覆い被さる様に割って入った。
「はっ、はっ、リ、リサ、、こいつは、駄目だ、、。 こんな卑劣な奴だとは、、はっ、はっ、、どきなさい リサ、自分が何をしたのか分からせてやらないと」
パパは、息を切らせながらそう言って、私を押し退けようとした。
「ま、待ってパパ、落ち着いて。やり過ぎだわ。私は大丈夫だからっ。」
なんで私がサイラスを庇っているのか、意味が分からない。
「いいやリサ、、はっ、、こいつは、許されないことをした。 いいか、サイラス、お前はもうここの人間じゃない。 はっ、 ボコボコにして、追い出してやるっ」
「ちょっと待ってってば! 追い出すなんてあんまりだわ。サイラスはいつも店の為に頑張ってたじゃない。パパだって褒めていたでしょ?」
「リサ、どいて、大丈夫だ。殴られる覚悟は出来ている。」
「かかか覚悟っ!? 何言ってるのよっ」
「いい度胸だっ!! リサっどきなさい!」
「パっ、パパっっ! 私は大丈夫だってば! 落ち着いてっ 一旦落ち着いて話をしましょうっ」
私はとにかくその場を落ち着かせようと必死だった。
***アリア視点***
今日はエレノアの様子を覗きに行く。そう覚悟を決めて部屋を出た。といっても、ただ部屋を訪ねるだけなのだけど、、、。
エレノアは、自分もハンナのように危害を加えられるのではないかと心配し、最近ずっと部屋に籠っていると聞いた。それなら私が部屋を訪ねるだけでも十分な脅しになると思ったのだ。
メリッサは騒ぎだしたら面倒なので、連れて行くのはミアだけにした。
エレノアは私の顔を見るなり目を見開いた。やっぱり、、、と、そう思っていたら、急に腕を掴まれ、部屋に引き込まれた。
「きゃっ、、な、なにっ?」
慌ててミアも私にくっついて部屋に滑り込む。すぐにドアは侍女によって閉められた。
「王妃殿下、お待ちしていました。」
呆気にとられている私に向かって、エレノアがそう言った。 あれ? 思っていたのと違う、、。
「エレノア? 一体どういう、、」
「実は王妃殿下へのお手紙を預かっています。お会いできて本当に良かった。」
「、、、手紙? だれから、、?」
エレノアは引き出しの中から一通の手紙を取り出し、私に差し出した。受け取ってひっくり返してみると差出人の見慣れた筆跡が飛び込んできた。
「 、、お兄様?」
ありがとうございます。