60 前半マイクです
***マイク視点***
宿を出る時に丁度、昨日の女の人達を見かけた。彼女達もどこかへ出発するらしく馬車に荷物を積んでいた。聞こえてきた会話によると、どうやらツェンぺへ向かうらしい。
なので俺はディクフに向かうことにした。彼女達とは違って俺は徒歩で移動するからこの先会うこともないだろう、とは思いつつなんとなくそう決めて、出発する馬車を背に歩き始めた。
国と国との間には荒野や山や森や砂漠など、人が住めない土地がある。というのも国は住みやすい場所に人が集まり人口が増え主権者によって統治されることで出来るので、住みにくい場所に国は存在しないからだ。
ただ、アリドゥラムやリュヌレアムのような力の強い国もいくつかあり、それらはそういった住みにくい箇所も越えて広い土地を自国の領土として治めている。とはいえ、やはり国境は存在するわけで、国境を越えた途端に平坦だった道は急に荒くなった。
ずいぶん歩いてそろそろ昼にしようかと、太陽の位置を確認するために顔をあげた。
途端、ゴン、と何かが頭を直撃した。
あ、意識が、飛ぶ、、、。
はっ、と気が付いた時、俺は持ち物を全て持っていかれた状態で、身ひとつで地面に転がされていた。
盗賊にやられた、と気付いた時にはもう遅く、周りには人影すらない。殴られた頭は痛いし、丁寧に足まで使い物にならなくされている。これではまともに歩けないし、もし着いたとしてもお金がない。
途方に暮れているとどこからか馬車の音がした。見渡すと斜め後ろの方向から馬車が走ってきている。事情を説明したら助けてくれるかもしれない。俺は慌てて手を振った。
馬車は一度俺を通り過ぎ、駄目だったかと思った直後に、停止した。
「おい、お前オリバーのとこのじゃないか?」
窓から痩せた男が顔を出した。
「え、、はっ、はいっ。 オリバー商会のマイクと言います!」
「やっぱりな、見覚えがあると思ったよ。マルクスと一緒にいた奴だよな? 今日は1人か?」
「あ、、、はい。今日は1人です。あのっ、申し訳ないのですが、助けて頂けませんか、、?」
「ふぅん、、盗賊にやられたのか?」
「、、、はい。すみません。」
男はじろじろと俺をみた。あまりいい気分ではないけど、助けてくれるのならそれくらい気にならない。
「まぁいい、乗れよ。面倒見てやる、丁度良かった。エドさん、乗せますよ。」
「ああ。」
心底ほっとした。俺は感謝を述べ、足を引き摺りつつ馬車の中にお邪魔した。中には顔を出した男の他にもう1人、さっきの返事の声の主が座っていた。
顔を出した男がブライス、もう1人はエドと名乗った。2人はリュヌレアムの人間で、俺と同業者だった。マルクスさんは有名だったから、いつも付いて回っていた俺の顔も覚えられていたらしい。
「あの、、ところでさっき丁度いいと言っていましたか?」
「ん? ああ、まぁそれは後でいいよ。大したことじゃないから。」
不安が頭を掠めるけど、この状況ではなす術もない。流れに身を任せることにした。
***レイラ
今朝の朝食は、ジュリではない、知らない女の人が持って来てくれた。準備が終わった時も片付けが終わった時も、素早く、逃げるように部屋を出ていく。私ってどう認識されているのだろう、と不安になった。
「あれ? ウィレム。」
「ああレイラ、少し話がある。」
朝早くから仕事に行っていたウィレムが、昼前にひょっこり戻って来た。ソファーに座る私の横にぴったりとくっついて座った。
「、、? はい。何でしょう?」
開いていた本を閉じ、顔を見た。ウィレムはいつになく真面目だ。ぎゅっ、と手を握られた。
「大事な、話なんだ。」
「はい。」
少し不安そうに見えた。
「以前、俺はレイラに、気がかりなことはないかと聞いたのを覚えているか?」
「え? あ、、はい。」
以前、シンの話をした時に聞かれた事だ。気がかりな事を聞かれ、私は、ルーナの事と、仲間の事が気がかりだと答えた。その時、ウィレムが 『どうにかしよう』と言ってくれていたのだ。『だからどうか俺の事だけを考えていて欲しい』とも。思い出すと照れてしまう。
「レイラは、仲間が心配だと言っていたな。」
「はい、覚えています。ウィレムがその後、私に言ってくれた言葉も。」
「そうか。」
一呼吸おいてからウィレムは話を続けた。
「俺は、ジェミューを国の民として認めようと思っている。」
「国の、民ですか? 今までは違ったのですか?」
国の中に住んでいたら、その国の民なのだと思っていた。よく意味が分からない。
「ふむ。違ったのだ。だから権利がなかった。だが今後、国の民として認められれば、人としての権利が保証される。俺達は決してジェミューを傷付けない。その代わり、ジェミューの技術を、国のために役立ててもらう。そういう契約をする。」
「契約ですか?ただ、認めるだけでは駄目なのですか?」
「俺だけの問題ではないからな。それにきちんと契約を交わす方が、ジェミューにとっても安心だと思う。」
「それで、本当に安全に暮らせるのですか?」
「ああ、誰にも手を出させない。」
「村の皆は、信じて応じてくれるでしょうか?」
「ああ、問題ない。実はもう動き始めているんだ。レイラ、これでもう憂いはないな?」
ウィレムに見つめられて、何だか胸が熱くなった。ウィレムは私との約束を果たす為に、考え、動いてくれていたのだ。
「ありがとうございます。ウィレムは忙しいのに、、本当にありがとう。」
ウィレムの気持ちが嬉しくて、顔が綻んだ。溢れる思いを込めてお礼を言うと、ウィレムはまだ何かあるようで一瞬目をそらし、それから再び蒼い目で見つめてきて、ゆっくり口を開いた。
「レイラ、1つ約束してほしい事がある。」
「約束ですか? 私に出来ることなら喜んで。」
ウィレムが、ふっ、と笑った。
「ありがとう、、、。
レイラ、全て上手くいったら、シンはお前に村に戻ろうと言うだろう。」
「え、、シンが? 何故です?」
「実は今回の事でシンの力を借りた。彼がジェミューに話をしに行っている。」
「え、、本当にですか?」
シンの事はウィレムを信じていたから心配はしていなかった。自由になって村にでも戻っているかと思っていたのに、まさかウィレムに協力しているとは、、。驚いていたら、ウィレムが握る手に力を込めた。
「どんなに心が揺らいでも、俺のそばにいると約束して欲しい。」
それは約束というより懇願といった方がいいくらい、ウィレムの顔は不安そうに訴えてくる。
私はウィレムの胸に飛び込んだ。
「そんなこと、約束しなくたって私はウィレムから離れません。ウィレムは、そんなに私が信用出来ませんか?」
少し意地悪に聞いてみた。実際そんな風に思われているのは心外だし。
ウィレムの両腕が私を包み込んだ。
「信用していない訳ではない。ただ、不安なのだ。」
「、、、ウィレムはどうしたら安心出来ますか?」
「、、、分からない。」
「、、う~ん、、、。とにかく、私から離れるなんてあり得ません。」
安心させようと胸に頬をすりよせると、顎をくい、とあげられた。
「レイラ、ありがとう。」
言いながら顔を寄せてきて、唇が重なった。お互いの唇の柔らかさをふにふにと確かめ合うと、心臓がとくとくと鳴った。ウィレムの湿った吐息を感じて、一気に身体が火照った。もっと深い口付けが欲しくて唇の隙間を開くとウィレムの舌がそれに気付いて入り込んできて、私の口中をかき回した後、ちゅ、と音を立てて離れた。
「これ以上すると我慢出来ないのだが、、」
ウィレムが決まり悪そうに言ったけれど、私は構わず彼の顔を引き寄せた。恥ずかしくて顔は火照るし手も震えるけど思いきってウィレムに耳打ちする。
「、、私はさっきから我慢出来ていません。
っひゃぁっ」
途端に視界がぐるりと回って私はソファーに押し倒され、ウィレムが馬乗りになっていた。
「我慢しなくていいんだな?」
言いながらウィレムの手はもう私の身体をまさぐり始めている。
「んひゃっ、、 こ、ここでですかっ?」
そう言いながらも、ウィレムの激しい口付けに徐々に頭がぼぅっとしていく。
破廉恥だと思いつつ、求められるままに身を任せた。
ありがとうございます。