6 前半ウィレム陛下視点 後半シン視点
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例の物が整ったと、それを持って商人のオリバーがやってきた。
「それで、例の物は?」
オリバーが顔を伏せたまましゃべりだす。
「はい。ここに持って参りました。」
オリバーの後から布を掛けられた檻が運ばれ、オリバーの横に置かれた。
「ふん。それか? 」
「はい。この中にジェミューの女がおります。ジェミューは捕らえられるくらいなら死を選ぶというくらい、生け捕りの難しい者達です。しかし我々は生きた姿で捕まえる事に成功しました。」
「布を取ってみよ。」
「はい、ええと、、その前に衣装の事なのですが、急だったものですから、陛下のお気に召すかどうか心配で御座いまして、時間を頂ければご希望に添った物を準備致しますが、、」
「布を取れと言っている。」
ぐだぐだと前置きが長すぎるのだ。勿体ぶらずにさっさと見せれば良いものを。
男が布を剥ぐと、檻の中に入った女が座っていた。聞いていた通り、確かに美しい。透けるような肌、すらりと長い手足、顔は小さく、瞳は宝石のようで、薄ピンクの唇がまるで誘っているように思わせる。妖艶であり、可憐でもあり、見るものを魅了するというのも頷ける。城に剥製も置いてあるが、それとは全く違った。
これが隣国に取られるところだったのだ。気付けて良かった。
「名は?」
「、、、」
「名は何かと、聞いている。」
「、、、」
「これは口が聞けぬのか?」
「いいえっ、そんなことは御座いません。声を聞いた者も御座います。」
「ふん。お前は名前を知っているのか?」
「もも申し訳御座いません。私は存じ上げません。」
「その、声を聞いたと言う者は、知っているのか?」
「すぐに確認致します!」
オリバーは、控えている者に指示を出そうとした。
「まぁ、待て。まるで余が知りたくて堪らないようではないか。明日でよい。その者を連れて参れ。」
「かしこまりました。」
「ところで、、、、身体は綺麗か?」
手元に置いておくのだから、汚れてしまっていては面白くない。
「勿論でございます。傷1つ御座いません。」
「言い切れるのか? 録に喋らぬのに。」
「本人に聞かずとも調べる方法は御座いますので。」
「ふん、まぁ良い。では部屋に運べ。」
「ははっ。有り難く存じます。では、その前に、この品に付いて説明をさせて頂きます。」
「まだ何かあるのか?」
うんざりしてきた。
「書いて置いて行け。」
言い残して席を立つ。檻の中の女は不安そうな泣きそうな顔をしていた。隣国を出し抜いた優越感と、勝ち取った品が俺を見て怯える様が気持ち良かった。
***シン視点***
レイラが印を付けられた。
無事に村へと辿り付いた時、皆は葬式のように暗かった。実際印付けられるというのはそういう事なのだ。どこに逃げても見付けられる。捕まれば、むごたらしく殺されるのが分かっているから、死を選ぶのが最善なのだ。
でも俺は、最後まで諦めたくなかった。レイラを1人で死なせるくらいなら、一緒に死にたいと思う。
暗い空気を払拭するため誰かがこんな事を言い出した。
レイラのお陰で助かったんだ、と。レイラだから気付けた、レイラで本当に良かった。レイラはこの日の為に生まれてきたんだ、とも。
実際、レイラは他の誰よりも、魔力を多く持っていた。だから気付くことが出来たのだと思う。
みんなの輪から少し離れた所にルーナが座っているのを見つけて、近寄った。
「みんな、勝手よね、、レイラは死んでしまったっていうのに、、、」
ルーナはレイラ親友だったから、伝えるべきだと思い口を開いた。
「ルーナ、話があるんだ。」
ルーナが泣き腫らした目でこちらを見た。
なんと言おうか、、一瞬戸惑い、続けた。
「レイラは、まだ生きている。」
途端にその目が見開かれた。
「そんな! 捕まってしまえば手遅れよ!一体どうして、、」
「、、、俺、村を出ようと思うんだ。」
説明をする代わりにそう伝えると、ルーナは弾かれたように立ち上がった。
「どうして!? なぜ!?」
叫びに近いような問いに思わず足が後ろに下がりそうになり、踏みとどまった。こんなに取り乱すとは、、、とにかく落ち着かせようと、抱き締めた。
「落ち着いて、落ち着いてルーナ。」
「いやっっ!! なぜなのっ!? 理由は!?」
「ルーナ、ルーナ、皆が驚くから、」
「どうして!? みんなに知られたら困るの!? あなた、、まさか、、!?」
ルーナの目から涙が溢れる。
「、、、ルーナ、」
「違うわよね? どうして今日なの? 何かあった? 私達は結婚するのよ? あなたが居なくなったら私はどうなるの? ねぇ、シン? どこに、行こうとしてるの?」
「落ち着いてルーナ、それは周りが決めた事だろう? 俺達はまだそんな関係じゃなかったよね。だけど友人として、君には伝えておこうと思ったんだ。」
「何を言ってるの? 私は行かせないわよ。レイラに会いに行くんでしょう? 絶対に行かせないわ。」
「ルーナ、レイラが心配じゃないの?レイラは今、1人なんだ。」
「それとこれとは違うでしょう!? レイラは親友で、あなたは、、、あなたは、私が愛する人なの、、、お願い、行かないで、」
ルーナは婚約者だ。産まれた時からそう決められていた。本人の意思は関係ない。ただ、魔力が似ているだとか、量が同じくらい とかで勝手に決められた。俺はずっと、レイラだけを見てきた。
ルーナがそんな風に俺を見ていたとは知らなくて、申し訳ない気持ちになった。けれど今の俺にはこれしか言えない。
「ごめんな。」
「嫌よっ!! 行かないでぇっっ!」
縋り付こうとするルーナを振りほどいてその場を去った。後ろではきっと泣き崩れているのだと思うけど、振り返らなかった。嗚咽が聞こえた。
気付けばかなり時間が経ってしまっている。必要最低限の物を鞄に詰め、急いでレイラのいる町へと向かった。
ようやく町へ着いたのは夜中になってからだった。この町のどこかにレイラがいるはずで、預けた命が僕達を繋ぐはず、、、それなのに神経を集中させても、近くに感じる事が出来なかった。おかしいな、、、町中を歩き回って残り香を探すと、広場の椅子に強く残っていた。ここで待っていたのか? 見渡すと、人気のない細い道があり、引かれるように入っていった。そこにはレイラのピアスが、片方だけ落ちていた。
愕然とした。こんなことは予定外だ。レイラを失いたくないという欲望を押し付けた為に、、俺はなんて残酷な事をしてしまったんだ。心臓が壊れそうに痛い。一刻も早く助け出さないと。
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