表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/135

55 前半アリアです

***アリア視点***


夜、建物の上から空を見上げた。

視界いっぱいに空が広がって、その空を埋め尽くす程の星の数。より多く密集している所は、赤い光の帯を作っていた。

夜なのに星の光で空が明るい。細い月は華奢な身体を眩しいくらいに光らせていた。


息をするのも忘れてしまいそう。

、、、凄い  、、、綺麗

その言葉しか出てこなくて、感嘆の溜め息をつきながらずっと魅入っていた。


「首、痛くならない?」


「ひっ!」


突然、背後から声がして飛び上がった。


「ははっ、驚きすぎだよ。」


シンだ、胸を撫で下ろした。


「驚いたわ。どうしてここに?」


「広場から見えた。1人で出歩くと危ないよ。」


「そう? ここは安全だと思っていたわ。」


「あまり人を信用し過ぎない方がいい。」


そういえばシンは、村の人を信用していなかった事を思い出した。レイラを見捨てたから、、


「ねぇ、目印になる星の見方を教えて。いつか役に立つかもしれないから。」


気持ちが暗くなりそうで、それは嫌だと思って話題を変えた。


「いいけど、砂漠で試さないでよ? 危険過ぎる。」


「例え昼間でも1人で砂漠を歩く勇気はないわ。ただ、知識を増やしたいだけよ。」


「ん。それじゃあ、ええと、、、あ、あそこにひしゃくみたいな形の星があるだろ?」


「点にしか見えないわ。」


「ああ、その、、点を線で繋ぐんだ。明るいのが7つあるから、繋いでみて。」


「え、、? よく分からないわ。」


「ああ、ええと、俺も人に教えるのは得意じゃなくてね、、、あ、そうだ、」


「えっ」


頭を掻きむしっていたシンが、ぱっと顔をあげ、私に後ろに密着した。ななな何これ。

シンの顔が私の肩に乗った。頬に、シンの体温が空気越しに伝わってくる。心臓が早鐘を鳴らした。顔が熱い。


「シ、シン、、?」


「ほら、見て。あれ分かる?ひしゃくの形。」


密着しているシンが、手を延ばして空を指差した。後ろから抱き締められているような格好で、正直星どころじゃない。

よく分かりもしないのに、カクカクと頷いた。


「良かった。じゃあ、あのひしゃくの先端の部分を延ばすんだ。分かる?」


またカクカクと頷いた。説明は耳から耳へ通り抜けていく。


「延ばしていくと、明るい星にぶつかるんだ。ほらあった。」


「あっ! 本当! 見つけた。」


説明は聞いていなかったけれど、シンの指先に、明るく光る星を見付けた。嬉しくなって、うっかりシンを見てしまい、息を止めた。

鼻がシンにぶつかるかと思った。


「   っ、ひゃあっっ!」


咄嗟にシンの腕の中から飛び出した。刺激が強すぎる。


「ああ、ごめん。さすがに無礼だったね。」


「ち、違うのよっ、ただ驚いて、、。教えてくれてありがとう。」


ふっ、とシンが笑った。シンは、何とも思わないのかしら、、、。 私はこんなにどきどきしているのに。


「どういたしまして。さあ、もう遅いから部屋まで送るよ。」


「あ、ありがとう。」


「明日はアリアも交えて少し具体的な話をしよう。」


「話? 何の?」


シンが呆れた顔で見てくる。私の頭は、シンと星でいっぱいになっていた。


「アリアは、何の為に付いてきたの?」


はっとした。夕食の時にもはっとして、自分を戒めたばかりだというのに。王宮を離れて王妃だという自覚が薄らいできている。

情けない自分を責めつつも、心の隅の方では、責任も意地もプライドも、全部捨てれば楽になれるのだろうかという、浅ましい考えが芽を吹いていた。




***レイラ


この庭に来れるのも最後だと思うと名残惜しくなる。少し寂しい気持ちで椅子に腰掛けた。相変わらずガゼボの中は暖かい。ウィレムの魔力に包まれて昨夜の事を思い出した。こんなに暖かな魔力で私を包んでくれる人を、私は傷付けてしまった。噛まれた痕がひりひりと痛んで、ウィレムはあの時どんな顔をしていただろうと思った。


「あら、あなた泣いているの?」


はっとした。顔をあげると、あの女の人が立っていた。


「え、ええと、、夢、、?」


「そうね、夢でいいわ。」


女の人は くすり、と笑った。


「それで、どうして泣いているの?」


「あっ、ええと、、あの、ウィ、ウィレムを、傷付けてしまったと思って、、」


女の人の手が延びてきて、私の涙を拭った。


「ありがとう。あの子の事を想ってくれているのね。」


「でもっ、な、なにも、出来なくて、、」


「もう出来ているわ。こんなに暖かな場所を作らせたんだもの。」


「私がしたのではなくて、作ったのは、ウィレムです。」


「それでいいのよ。どうかあの子を守って頂戴な。あの子は奪う事ばかり教わって育ったから、心が半分壊れているの。」


「心が、壊れて、、、?」


ふいに、町で様子がおかしくなったウィレムを思い出した。あの時のウィレムは恐かった。


「私に守る事ができるでしょうか?」


「だってウィレムはあなたの為にこの空間を作ったのでしょう? あなたにしか出来ないわ。だから、よろしくね。」


言いたいことは言った、とばかりに女の人は霧に包まれ消えていこうとする。私は慌てて叫んだ。


「あのっ、あのっ、あなたは誰ですかっっ?」


消えかけた顔で、柔らかく微笑んだ。


「あの子が思い出したら教えてあげて。楽しかった思い出だってあるはずよ、って。私はここで見守っているわ、、、」


「え、、え、? 答えになっていませんっ、そ、それに、、私はどうやって守ったら、待って、、!」


ひっ、、! 椅子から落ちそうになって息を呑んだ。

やっぱり、夢、、、? でも、涙を拭われた感触ははっきりと残っていた。



**


夜、ウィレムは私に触れなかった。

嫌われていたらどうしよう。

今日は疲れているんだ、と自分に言い聞かせたいのに、ちっともそうは思えない。胸がざわざわと音を立てた。それなのに、自分から触れる事はどうしても出来ないのだ。

ウィレムの背中を見ながら、戻ったら早くジュリにあの薬を貰わなければ、と焦っていた。

一線を越えてしまう恐怖や戸惑いは、嫌われたくない、という思いで掻き消されてしまっている。だって嫌われてしまう方がよっぽど恐ろしいから。自分の身体を差し出してでも繋ぎ止めたいと思う私は、間違いなくどうかしてしまっている。



ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=119464601&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ