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53 前半マイク視点です

***マイク視点***


旦那様に、店を辞めたい、と申し出たけど受け入れては貰えず、代わりに休暇をくれた。

どのくらいでも、どこへでも行っていいけど、必ず帰って来い、と言われた。俺はこんなに馬鹿で情けない人間なのに、、、。優しすぎる言葉に涙がでた。

だけど、俺はとにかくこの場所を離れてたくて、旦那様に頭を下げた後、すぐに出発した。


ふと、海の行くのもいいかなと思って行き先はディクフとツェンぺの真ん中にある港に決めた。その時の気分によっては、船に乗って、もっと遠くに行くのもいいかもしれない。


**


目的地に行くのに、ディクフ側から入ろうかツェンペ側から入ろうか悩みながら、分岐点の町に来た。宿に入ると、少し場違いな雰囲気の女性が受付の前にあるテーブルにいるのが目に入った。上等そうなショールを頭から被っていて、顔は見えないけど、身なりの良さは伝わってくる。どうしてこんな安宿に、と思い、つい耳を傾けた。人の話を盗み聞くのは、働く様になってからの癖だ。


「本当にこんな宿でよろしいのですか?いまからでも、もっと相応しい宿をお探ししますけど。」


「ありがとう、でも目立ちたくないの。ただでさえ、こんなでしょう?」


「でも、、」


「大丈夫よ、ちゃんと護衛だって付いているわ。」


護衛? さっと見渡すと宿の入り口にそれらしき男が立っている。目が合いそうになって慌ててそらした。もう厄介事はこりごりなので関わらないようにしよう、とそっと離れた。丁度受付が空いたのでそちらに向かうと、先に受付を済ませたのは彼女の連れだった様で、俺とすれ違うようにテーブルへ歩いていった。


「ハンナ様、直ぐにお部屋に行かれますか?」


「ええ。」


ガタッ、と椅子が動く音が聞こえてから少しして、3人で寄り添う様に受付を通り過ぎて行く姿が見えた。

密着し過ぎていて、最初は不思議に思ったけど見ている内に足が悪いのだと気付いた。寄り添っているのではなく、支えているのだ。

部屋の鍵を受け取るのに目を移した時、小さな叫び声と、どすん、という音がした。

向かいから走って来た人とぶつかって転けた様子で、相手は一言だけ謝ると走り去っていった。


「すみません、手伝って頂けますか?」


受付をしていた女が、後ろから付いて来ている護衛に声をかけた。ところが護衛は


「私は護衛のみを命じられております。申し訳ございません。」


と言って手を貸さなかった。俺は耳を疑った。あんまりだ。転けた彼女は痛そうに足を押さえているのに。

関わりたくないと思っていたけど、気付けば身体が動いていた。


「手伝います。歩けそうになければ持ち上げますがよろしいですか?」


「ありがとうございます。」

「辞めてちょうだいっ、知らない人になんか、、きゃっ、、、」


本人は嫌がっていたけど、関わる時間を極力少なくしたくて、手っ取り早く抱き上げた。部屋の前で下ろすと頭を少しだけ下げて、支えられながら逃げる様に部屋に滑り込んだ。残された女の人が俺に深く頭を下げた。


「困っているところを助けて頂いてありがとうございます。失礼な態度で申し訳ありませんでした。」


「いえ、お役に立てて良かったです。」


[ありがとうございます]という言葉が、今の俺にはとてもありがたかった。




***レイラ


建物の外なのに不思議と庭は暖かい。そしてガゼボの中はさらに暖かくて心地よくて、私は陛、、ウィレムがいない時に度々訪れていた。


ウィレムは毎晩何もしないと言いながら私の身体を撫でまわし、舐めまわし、満足のいくまで紅い跡を散らすので私はすっかり寝不足になっていて、気持ちのいいガゼボに来ると良く眠れるのだ。

そんな居心地のいいガゼボだけども、ここで過ごすのも後数日となっていた。ウィレムが、後2、3日したら戻る、と言っていたのだ。


名残惜しくて、今日も昼食を頂いた後にやって来て、椅子に腰掛けてうつらうつらしていた。すると突然誰かに話し掛けられて びくり、と目を開いた。


「こんにちは。」


「えっ、、? こ、こんにちは。」


慌てて辺りを見渡すと、すぐ近くに背の高い、すらりとした女の人が立っていた。銀色の髪はきっちりと結い上げてある。


「ご一緒してもいいかしら?」


「え、ええと、どうぞ。」


にっこりと微笑んで、隣の椅子に腰掛けた。もっと警戒すべきなのだけど、庭に溶け込む様に違和感なくそこに居て、また久しぶりの、ウィレム以外との会話で意図せず心が浮き立ってしまっていた。つい私も微笑み返した。


「ここは暖かいでしょう?」


「? はい。」


「ガゼボの中はもっと心地いいわね。」


「はい、私もそう思います。」


自分が誉められたみたいで嬉しくなった。


「何故だか分かる?」


「え、、、?」


「あなたは守られているのね、あの子の魔力を感じるわ。」


「あの子、、、ですか? ウィレムの、事ですか?」


「呼び捨てなんて仲がいいのね。」


くすっ、と笑われた。


「す、すみません、ええと、ウィレム陛下の事ですか?」


「あら、呼び捨てでも構わないのよ。あの子がそう望んでいるのでしょう? 独占欲も強そうね。」


首を指し示されて真っ赤になった。あちこちにウィレムの印が付いている。

女の人は ふっ、と笑って話を続けた。


「これは結界を張っているのだわ。私が教えたの。だけど、覚えているとは思わなかった。」


悲しそうに笑う。


「あなたは一体、、」


「あの子が覚えていないから知る必要はないわ。」


はっきりとそう言われ、言葉に詰まる。

いろいろ聞きたいのに何と聞いたらいいのか、また気安く話し掛けていいものか分からず悩んでいるうちに、静かに時間が過ぎていった。


「もうこんな時間ね、楽しかったわ。また会いましょう。」


女の人がそう言って立ち上がると、足元からもやもやとした霧のようなものに包まれていった。驚いて手を伸ばそうとしたら私の身体が びくっ、と跳ねて、はっとした。

私はテーブルにうつ伏せて眠っていたのだった。


昼間のあれは何だったのだろう、、、。 夜、ベッドに寝転がりながら考えていたら、寝支度を整えたウィレムが覆い被さってきた。うつ伏せて横を向いていた身体がウィレムによってひっくり返される。直ぐに口付けが始まって、考えていた事はすっかり忘れてしまった。

ウィレムの離れた唇が首を滑って耳まで来て囁いた。


「レイラ、まだ恐いか?」


どきり、と心臓が跳び跳ねた。



ありがとうございます。

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