52アリア視点、後ろに少しリサです。
***アリア視点***
朝早く私達は出発した。道案内のシンが先頭を行き、その後ろに私とミア、そして後ろからオーウェンさんとノアが付いて来ている。
「これが砂漠なのね。」
どきどきと砂の上に踏み出すと、振り返って見ていたシンが ぷっ、と吹き出した。
「ああ、ごめん。 でもまだ砂漠じゃないよ。地面がまだ固いだろ? 草も生えているし。」
私は赤面した。無知過ぎて恥ずかしい。
「私ももう砂漠かと思っていました。アリア様だけでないですよ。」
すかさずミアが助太刀してくれたけれど、私の恥が消える訳でもなく、いたたまれない。
とぼとぼと、シンの後ろを俯いて歩いた。
するといつの間にかシンが、横を歩いていて話しかけて来た。
「アリア、顔をあげて前を見てごらん。」
「え? まぁっ、すごいっ!」
一面に砂、向こうの方まで、ずっとずっと砂。
そして砂のところどころが山になっている。
「これが、砂漠、、、?」
「ああ。」
「綺麗、、、」
一番初めの感想は 綺麗、の一言だった。砂と空しかない景色がこんなに綺麗だなんて。
「さあ、歩こう。結構歩くよ。」
「ええ。」
**
歩いているうちにすぐに、綺麗などという感想は消えていった。靴に砂は入るし、歩きにくいし砂ぼこりもすごい。身体中砂まみれだ。
何度目か、靴をひっくり返して砂を出していると、ふと裸足になった方が歩きやすいのでは、と思った。おもむろにスカートに手を入れて靴下を下ろした。
「アリア様っっっ! いけませんっ、なんてことっっ!」
ミアが取り乱し、シンが振り向いて目を見開いた。
「王妃殿下、それはさすがに、、」
オーウェンさんの声がして振り替えると慌てて横を向いた。ノアは後ろを向いていた。
「だって歩きにくいのよ。他にどうすれば良いのよ。」
「いくら歩きにくくても、足を晒すなんてとんでもないことですっっ。」
唖然としていたシンが、お腹を抱えて笑いだした。
「さすがアリアだ。」
「シンさんっっ! 見ないで下さいっ、どういうおつもりですか!」
ミアが私の前に立ちはだかって怒鳴った。
「あはは。大丈夫、何とも思わないよ。村では裸足なんて珍しくない。それにしてもアリアは大胆な事をするね。」
「そこらの村娘とアリア様一緒にしないで下さいっっ!」
ミアはぷりぷりと怒っていたけれど、私はスカートで隠れるのだから問題ない、と言い張り、靴下も靴も履かなかった。だって一度裸足になってしまったら気持ちがよくて、今さら履けなかった。
そしてオーウェンさんとノアは上を見ながら歩く事になった。
日常とは違う空気が私を狂わせていたのかもしれない。あるいは、広すぎる砂漠の解放感に、許されるのだと錯覚したのかもしれない。
どうしてだか自由に、好きな様にしたかった。
***リサ視点***
マルクスさんがもういない。パパにも、マイクにだってきちんとお別れをしたっていうのに、私は何も聞かされていなかった。
ベッドに横になって泣いていたら、コンコンコン、とドアを叩く音がした。返事をするのも面倒だった私は無視をした。ところが、いつもはすぐにいなくなるのに、今日に限って諦めが悪い。
少し時間を置いて、また コンコンコン、としてくる。鬱陶しくて、布団を被って目を瞑った。
**
どれくらい眠っていたか、部屋は薄暗くなっていた。もそもそとベッドから起き上がった時、また コンコンコン、と聞こえてきた。
はぁ、溜め息をついて、はい、と返事をすると、ドアの向こうから声が返ってきた。
「リサ、食事を持って来たんだけど、、、」
サイラスの声だった。ベッドから降りてドアに向かい、開けると、食事を持ったサイラスが突っ立っていた。
「ごめんね、食べたくないの。」
ドアを閉めようしたら、隙間にサイラスの片足がねじ込まれてきた。
「リサっ、食べよう。食べないと、死ぬ。」
「ありがとう、でも、本当に、、、」
「少しでいいっ、少しでいいからっ」
「、、、うん、じゃあ、少しだけ、、」
サイラスがあまりに必死で、仕方なく折れると、ぐいっ、と肩でドアを押して入ってきた。テーブルに食事の乗ったトレーが置かれるのを見ながら、私は椅子に腰掛けた。
「どうしてわざわざ?」
「、、ごめん、部屋から出てこないから気になって、、。 あ、、食べて。食べたら出ていくから」
サイラスは落ち着かないのか、そわそわとしていた。視線があちこちをさ迷っている。
「うん、、、。 、、冷たい。」
促されてスープを一口飲むと予想外に冷たくて、つい口から出てしまった。
「ご、ごめん。取り替えてくるっ、、」
「あっ、違うの。大丈夫。ごめんなさい。
、、、もしかして、ずっとそこにいたの?」
「、、、少し前から。 。」
「え、、、 本当に? 少しってどれくらい?」
「、、、昼くらいからかな。だから、ごめん、それ、昼食。」
「えっ、、ごめんなさい、私、眠っていたのだけど、、ええ? ずっと?」
ノックを無視して眠ってしまったことを申し訳なく思った。
「ずっとノックしていたらもしかして、と思って。」
「ずっとノックしていたの?」
「、、、ああ。」
「ご、ごめんなさい。そこ、座って。疲れてるでしょう?」
「いや、大丈夫だ。リサが食べたらすぐ行くから。」
不謹慎にもサイラスの要領の悪さを、温かく感じた。
「、、、ありがとう。冷たいけど美味しい。」
「リサ、みんな心配してる。」
「、、うん。」
「俺、明日も食事持って来るから。」
「ありがとう。 、、、あ、ねぇ、マイクは?どうしてる?」
「リサ、あんなやつ止めとけよ。」
「え? どういう、、」
「あいつ、逃げたんだ。」
「逃げた?」
マイクが逃げる? 何から?
「ああ。 、、なぁ、、、お、俺さ、頑張るからさっ、、」
「うん? 」
「、、、だからさ、、 いや、リサも、、頑張れよ。」
「うん。ありがとう。」
3分の1程食べてお腹が一杯になったので手を止めると、じっと見ていたサイラスが すっ、とトレーを持ち上げた。
「、、、片付ける。 、、また、明日な。」
「うん、本当にありがとう。」
前を向かなくては、と思った。
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