49 前半ジュリ、後半アリアです
***ジュリ視点***
陛下が最近、私を遠ざけようとなさっている、、、?
まさかそんな事は、と思いつつも不安が心に住み着いてしまった。
私が陛下の為にとした行動のどこかが間違えていたのかも知れない。 焦燥感が襲ってくる。
陛下は不安な私を残して、お嬢様と旅行に出掛けてしまった。急な事で私はとても驚いた。事前に何も聞かされなかった事が衝撃だった。
そして、もう1つ不安なのは、お嬢様に渡そうとした薬がまだ私のポケットに入っているという事だ。こんな事なら無理やりにでも渡しておけばよかった。離れた場所にいるから、もしもの時には間に合わなくなってしまう。
お嬢様はそんな事にはならない、と言ったけどやはり陛下は男なのだから、お求めになるのではないだろうか。
手遅れになって、後で陛下のお心を煩わせる様な事にでもなったらどうしよう。
私はもっともっと陛下のお役に立ちたいのに。
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廊下を歩いているとメリッサを見かけた。アリア様もどこかに出掛けた様で、ここ数日、1人であちこちをうろちょろしている姿をよく見る。私も暇だったので何となく後を付けてみた。するとメリッサは宝物庫に入って行った。アリア様が王妃になった事で、立ち入る許可を得た様だ。
そっと中を覗いてみると、立ち止まって何かを見ていた。何だろう、気になる。メリッサの行動は全て、アリア様の指示に違いない。情報が欲しくてドアに鍵がかからないように細工した。
私は小さい頃から生きる為にいろいろしてきたから、こういった事は得意なのだ。
身を隠して待っていると、程なくしてメリッサが宝物庫から出てきた。丁寧に掛かりもしない鍵を掛けている。
立ち去った後にするりと侵入した。メリッサが見ていた物は何だろう。見渡して、どきっとした。あれ? お嬢様? こんな所に?
だけど様子がおかしい。おそるおそる近付いてみると、お嬢様だと思ったのは気のせいで、そこには綺麗な女の人と幼い子供が寄り添う様に椅子に座っていた。
人形にしてはとても良くできている。まるで生きているようなその人形は、今にも動き出しそうで、何よりとても美しい。透き通った肌なんて、生身の人間よりも瑞々しく見えた。
ほぅ、としばらく見とれてしまっていたけど、カタン、という物音で我に返った。
いけない、早く出ないと。
「あら? 鍵を閉め忘れたかな?」
メリッサの独り言が聞こえた。わざと物音を立てると、足音が近付いて来る。急いで棚を一回りして、メリッサの後ろ姿を見ながらドアの外へ滑り出た。胸がどきどきしている。そのまま走って逃げた。
メリッサが見ていたのは、何だったのだろう?
***アリア視点***
建物の前で馬車が止まり、シンが降りた。馬で付いて来ていたオーウェンさんと一緒に、例の木箱をもって、その建物の中に入って行く。この光景は何度目だろう。場所は違えど同じ事が繰り返されていた。
そして私とミア、護衛のノアだけがその場に残されるのだ。
残されるというのは、正直あまりいい気分ではない。だから一番最初の時は何も考えずに付いて行こうとした。ところが馬車から降りようとする私を見てシンが止めてきた。
「アリアはここに残った方がいい。」
「どうして? 馬車に乗っているだけでは付いてきた意味がないわ。」
「アリアはジェミューと接触して今後の事を話せれば十分だろ。 また失神するつもりか?」
「失神って、、、え? あの木箱を開けるの?」
「そうだよ。その為に寄ったんだ。」
思い出すと恐くて身震いした。それ以上は何も言えなかった。
そして今日も、シンとオーウェンさんは2人で行ってしまった。建物の中から女性の悲鳴が聞こえてきて、木箱をあけたのだと分かった。あのおぞましい物をいちいち見せつける必要があるのかしら? 暫くして戻って来たシンに、思いきって聞いてみた。
「ねぇ、毎回思うのだけど、この作業って必要なことなの?何だか気味が悪いわ。」
「、、、そうだな。俺はこの首の価値を知りたいし、彼らには牽制の意味がある。
実際に見せた方が衝撃が大きいだろ。それにジェミューの俺が、陛下の側近と一緒に見せて回るのは、かなり意味がある事だと思う。」
「、、、そう、なのね。 、、ねぇシン、やっぱり私も、一緒に行くわ。」
私も、この国の王妃として参加すべきだと思った。
「はは、アリアはつくづく我慢が出来ない人だな。いいよ、でも箱の中身を見る覚悟が出来たらね。抱き上げるのはもう沢山だ。」
はっとした。。シンの目の前で倒れたのだからあり得る事だったのに、気付かなかったなんて。つまりシンが倒れた私を運んだってこと? 恥ずかしい。重いと思われたかも知れない。
「も、もしかしてあの時、シンが運んでくれたの、?」
頬が熱い。
「そうだよ。アリアは小さいのに重かった。」
「なっ、なっ、、」
「シンさんっっ! さすがに見過ごせませんよ! アリア様に謝って下さいっっ」
「冗談だよ。君はずいぶん軽かった。」
シンが吹き出して笑った。
「知らなくて、、ごめんなさい。ありがとう、、、。」
羞恥心でどうにかなりそうなのに、シンの笑顔が見れて嬉しいなんて、、、。私は本当にどうしようもなく愚かだと思った。
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立ち寄るべき場所はまだいくつもあるのだけれど、ジェミューの村が近いということで、先に村に向かう事になった。出発して、5日程経っていた。
砂漠を通る為、最寄の町で馬車を降りて徒歩で行くことになる。朝早くに出たいので、この、眠らない町 と呼ばれる所で一泊することにした。この町に入った時から、シンの口数が減った。
ありがとうございます。