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44後半アリアです


昼寝から目覚めた陛下に私は、少し外を散策しませんか、と提案した。陛下は渋い顔をしていたけれど、最終的に、少しだけならと許してくれた。


「レイラ、手を。」


陛下の差し出された手の上に自分の手を重ねると すっ、と上に持ち上げられて、手の甲に唇を押し付けられた。、、、私は恥ずかしくて俯いた。


それから陛下は私の手をしっかりと握って歩き始めた。許されたのは門の中だけだったけれど、森の続きのように整えられた広い庭には小川も流れていて、小道に沿って歩くとまるで森を散策しているようだった。


「凄く素敵ですね。それに気持ちがいい。」


初めて見る景色と、解放感に心が踊る。興奮し過ぎた私は、小川がキラキラと光るのを見付けてうっかり陛下の手を振りほどいて駆け寄った。


「凄いっ、水がきらきらしてます、ウィ、、」


「首輪が必要だな。」


直ぐに陛下が、後ろから私を抱き締めて呟いた。ひやりとした右手は私の首を掴んでいる。背筋が冷えた。


「ご、ごめんなさい。」


「嫌なら手を離すな。」


すぐさま首に巻き付いた手を剥がして握った。いろいろな意味でどきどきする。


「ふん、それでいい。」


怒っているのかと顔を除き見れば、頬がほんのり色づいていた。

ほっと安心し とん、と肩をくっつけて 好きです、と口に出してみた。

陛下はそれ答える様に、繋いだ手を、ぎゅっ、としてくれた。



**


夕食後、先に入浴を済ませて浴室から出ると、陛下はバルコニーに出ていて、私に気付くと手招きをした。


「おいで。」


言われるままに陛下の横に並ぶと、陛下は私の肩を抱きよせ、まだ乾ききれていない髪に顔を埋めた。すん、と匂いを嗅ぐ音がして顔が熱くなる。


「いい匂いだ。」


「い、今洗ったばかりですから。」


「そうか。」


「っ森の向こうは、何があるのですか?」


何か話をしなくちゃ、と焦った。


「ん、森の向こうか? 町がある。」


「どんな町ですか?」


「プレヒティヒといって、綺麗な川が流れている。染め物が有名な町だ。」


「わぁ、素敵ですね。」


「染め物が気になるのか?」


「ええと、、少しだけ。私は怖くて普段は殆ど村から外に出なかったんです。だからその染め物も、町もどんな風なのかと思って。」


「今、丁度祭りの時期だ。」


「ふふ、楽しそうですね。」


「 、、鮮やかに染めた旗が町中に吊るされる。」


「それはとても綺麗でしょうね。」


鮮やかな町並みを思い描いた。


「 、、、染め物もだし、食べ物などの出店も並ぶ。」


「ふふ、賑やかで楽しそうですね。」


笑みを溢しながらそう返事をした後、陛下は黙り込んでしまった。


「ウィレム陛下?」


何だか深刻な顔をしている。少し間をおいて、躊躇いがちに話し始めた。


「、、レイラ、、、俺は、レイラを閉じ込めておきたいと思っている。」


「、、、はい。」


「レイラは、どう思う?」


「え、、?」


「今日、庭でお前は楽しそうに笑っていた。」


「、、、はい。」


「閉じ込めておきたいのに、笑ったお前を見るともっと笑って欲しいとも思う。どうしていいか分からないのだ。外に出てみたいか? 町へ行ってみたいか? 」


陛下の声が震えている気がして、私は陛下の腕から抜け出して正面に向き合った。陛下は泣いている訳ではなかったけれど、悲しい顔をしていた。腕を伸ばして陛下を抱き締める。


「、、、見てみたいとは思います。だけど、私はジェミューだから、、出歩くのは怖いです。でももし、ウィレム陛下と一緒に行けるのなら、とても楽しそうです。私はウィレム陛下と一緒がいいです。」


「、、、そうか。」


「はい。」


「身体が冷えるな、中に入ろう。」


表情は見えなかった。



***アリア視点***


「君は我慢が出来ない人だな。」


目を覚ますと、呆れ顔のシンがいる。


「なっ、なっ、、私を、馬鹿にしているのっ!?  っ きゃっ!?」


第一声で馬鹿にされて憤り、飛び起きた途端に がたん、と揺れて身体が落ちそうになった。目の前にいたシンが素早く私を受け止める。

同時に心臓が破裂しそうになった。

服越しとはいえ、男の人の胸板にこんなに触れたのは初めてだ。シャツの下のシンの身体はとても引き締まっているようで、離れようとその胸板を押した手が、彼の感触まで伝えてきた。自分が酷くいやらしく思える。顔は火が出そうな程熱い。


「それにそそっかしい。」


シンはそう言いながら私を ふわり、と元に戻してくれた。

ここは馬車の中で、私達はもう出発したところだった。


「シンさん、アリア様にずいぶん失礼ではないですか?」


ミアの声がしてはっとした。益々顔が熱くなる。どうして2人きりだなんて思ったんだろう。周りが見えていなかったなんて恥ずかし過ぎる。


「いいの、いいのよミア。シンは助けてくれたのだから。ええと、、シン、う、受け止めてくれてありがとう。」


「どういたしまして。 それからあの箱は、、伝えておくべきだった。申し訳ない。」


恐ろしい情景を思い出して身震いした。


「いいえ、勝手に開けたのがいけなかったのだわ。 、、、でも、あれは、、一体、何?」


「あれが陛下の誠意だ。名の知れた狩人だったらしい。本当かどうかは道中確かめながら行くことになっている。」


「陛下の、ご誠意? 何の事かしら?」


「君は何も知らないで付いてきたのか?」


「、、知ってるつもりよ、、、。」


はぁー、、と、シンは長い溜め息をついた。


「陛下は俺達と取引をするつもりなんだ。正式に国の民として認め、安全を保証する代わりに、俺達はこの国に技術を提供する。箱の中の首は今までジェミューを狩ってきた奴の首だ。有能な男だったらしいが、陛下は奴を罰してジェミューの尊厳を示した。」


「、、、私、何も知らなかったわ。」


ジェミューの安全だとか尊厳だとか、考えたこともなかった。ただ、技術の事ばかりで、、

私は自分が恥ずかしくていたたまれなくなった。彼は私が牢まで会いに行った時、自分勝手な考えの私をどう思っただろう。彼の前ではいつも恥をかかされる。


「ふっ、君は意外と素直だな。」


私が項垂れているとシンが笑った。


「、、、アリアよ。」


「あぁ、ごめんよ。名前は聞いていたのだけど俺は人に‘様’を付けて呼ぶのに慣れてないんだ。」


「‘様’なんていいわよ。アリアでいいわ。」


「アリア様っ、それはいけません。」


ミアが慌てて割ってきた。


「ミア、彼は私に仕えているわけではないのよ。」


「でもアリア様、、」


「いいの。」


「、、、じゃあ、アリア、と呼ばせてもらうよ。」


「ええ、そうしてちょうだい。」


せめて虚勢を張っておきたいけれど、私は内心どきどきだった。彼が私の名を呼ぶなんて、、。

ありがとうございます。

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