43マイク視点 後ろに少しアリアです。
ちょっと暗い話です。すみません。
***マイク視点***
突然、国中の関係組織に勅令が出された。
今後一切のジェミュー狩り及び加工、販売を禁止する、という事だった。そしてその勅令に関する内容を他国へ漏らすことも禁止された。
レイラの事を思うと本当に喜ばしい事なのだが、俺はあまりのショックで呆然としている。
何故なら違反者への罰則は即、打首で、見せしめとしてマルクスさんの首が落とされる事になった、というのだ。
俺はマルクスさんに話があると言われて旦那様の部屋に連れて来られていた。声を掛けられた時から妙な胸騒ぎがしていたのだ。2人から説得されるようにその話を聞かされたが、とても納得出来ない。身体中がガクガクと震えた。
「そ、そんな、マルクスさん、、だ、旦那様っ、そんな事絶対にさせませんよね、、?」
「マイク、悪いがもう決まった事なんだ。俺は大丈夫だからそんな顔をするなよ。なぁマイク、これは良いことなんだ。だって人が人を狩るなんて、異常だろ? 俺はすっかり麻痺しちまって当然の様に狩ってきた。だから、これは俺への当然の報いなんだ。」
「でもっ、マルクスさんじゃなくたっていいじゃありませんか! お、俺だってそうだし、ほ、他に、もっと汚い奴等なんて山ほどいるっ。」
「マイク、これは俺じゃねぇと意味がねぇんだ。な、分かるだろ。それに俺はほっとしている。そろそろ疲れたしな。」
「で、でも、おかしいです。だって勅命は出されたばかりなのに、、マルクスさんは何も違反していないのに、、」
「ああ、陛下は違反者を1人も出したくないご様子だ。だから始めから見せつけるんだ。」
「俺は嫌ですっ! 旦那様っ! 何とか言って下さいよっ、どうにかして下さいっっ」
「、、、マイク、マルクス、済まない。全て俺の責任だ。、、だが本当にどうしようも無いんだ。済まない。本当に済まない。」
こんな事態なのに、マルクスさんも旦那様も冷静で俺だけがおかしいみたいだ。混乱する。
「旦那様っっ!! 」
悲鳴の様な叫び声が出た。
「よせマイク。本当にいいんだ。旦那様を苦しめるな。」
「そんな、、、」
到底納得なんて出来ない。身を乗り出したがマルクスさんが静止した。
「マイク、後で話そう。」
「、、、っく、、」
俺は悔しくて歯を食いしばった。
**
「マルクスさん、もっとちゃんと旦那様と話をしましょうよ! マルクスさんはずっと貢献してきたのにあんまりです。こんな風に切られるなんてっっ!」
憤る俺に、マルクスさんが困った様に笑った。
「マイクは優しいからな。
この話をすると余計苦しめてしまうかもしれない。だが、お前には話しておく。これからもここで働くのだから旦那様へのわだかまりは無くしておいて欲しいんだ。」
「、、、何の話です? 一体何があったんです?」
事の発端は先の騒動にあった。
リサが不審者を王宮に連れ込んだあの騒動を、陛下は許していなかったらしい。俺はもう罰を受けた物だと思い込んでいたのが、実は保留されていただけだと教えられた。
そして陛下は今回の勅令を出す時にそれを思い出し、着想されたのだとか。
オリバー商会は名高く、旦那様の右腕の様な存在のマルクスさんは皆から一目をおかれている。当然ジェミュー狩りも行ってきた訳で、そのマルクスさんを見せしめにする事は、背く者がいたら例え誰であっても見逃さない、という強い意思を示す事になる。
陛下は、拒むならリサに厳罰を下そうかと脅してきた。旦那様もマルクスさんもそれは避けたくて、従うしかないのだと。
俺は馬鹿だ。レイラに手紙なんて届けなければよかった。
「あ、あぁ、、う、、っく、すみません、俺のせいです、 俺が、、」
「マイク、お前は関係ない。お前は悪くないよ。」
「ち、違うんですっ、、俺が、俺が、うう、」
「それにどうもなぁ、俺は陛下の恨みを買っていた様なんだ。」
「、、、え、?」
「だから、誰もせいでもない。
それとな、マイク。言っておいて何だが、この事はリサの耳には入れないで欲しいんだ。頼む。」
マルクスさんにそう言い切られて、俺は何も言えなくなった。悔しくて悔しくて、涙が止まらない。
「、、っ、うっ、、うっ、いつ、ですか? それは、、っ、いつ行われるのですか?」
辛い。苦しい。どうして俺じゃないのだろう、、、。俺は役立たずだ。
「悪いな、マイク、今日中に王宮に行くように言われている。」
「そんな、、早すぎる、俺は、うっ、、っく、、まだマルクスさんに、恩を返していませんっ、」
「ははは、マイク、、 お前は俺にとって息子みたいなものだ。分かるか? 親はな、子供に何かしてやっても、してもらおうとは思わない。マイクは大きくなったよな。仕事も覚えた。それで十分だ。」
「うっ、うっ、、マルクスさん、、」
そんなこと初めて聞いた。息子だと思ってくれていたなんて、、、
「マイク、、ありがとうな。もうここでお別れだ。俺はまだやることがあるからな。それから関係者以外には、俺は事故に巻き込まれて行方不明だということになっているからくれぐれも気を付けろ。口を滑らせるとどうなるか分からない。」
「、、ひっく、う、、う、、分かりました、、今まで、、うっ、っく、、育てて頂いて、、う、、っ、ありがとう、ございました、、」
顔をぐしゃぐしゃにさせながら手を付いて、頭を床に擦り付けた。その頭を、マルクスさんはぽんぽんと叩いて、本当に行ってしまった。
堪えていた嗚咽はとうとう溢れ出し、周りに見つからないように布団を被って泣いた。俺はいつも何も出来ない。
***アリア視点***
シンに同行する事になったのは、私とミア、陛下の側近であるオーウェンさん、それから護衛が1人だった。必要最低限の人数で、陛下は出来るだけ内密に事を進めたい、とのお考えをお持ちのようだ。
護衛の人は私とは面識がなかったけれどオーウェンさんは親しい様だった。名前はノアといった。
出発準備を終える頃、1つの木箱が目にとまって、何故だか気になった。ふらりと吸い寄せられて、触れてみる。中を確かめようと蓋を少し持ち上げた。
「あっ! その箱はっ!!」
「っっっ ぎゃーっっっっ!!」
シンが叫んだけれど間に合わず、私は中を覗いてしまった。そしてそのまま気を失った。
男の首が1つ、入っていた、ような気がする。
読んで下さってありがとうございます。