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41 アリア視点

**アリア視点***


薄暗く、湿った空気の漂っている階段を降りて行くと、牢が並んでいた。その一番最初の牢の中に、腕を組んだ男が壁にもたれる様にして座っている。


「アリア様、この牢です。」


案内してくれたメリッサが声をあげた。その男はまるで私が知っているあの職人ではない様な気がした。容姿が、年齢までもがまるで違う。ただ、着ている服だけは見覚えのある 丈の長い、フードの付いたマントを羽織っていた。


「メリッサ、少し2人で話してみたいの。」


「分かりました。では、すぐ近くに居ますので何かあれば呼んで下さい。」


メリッサが下がった後、改めて男を見た。髪はグレーの短髪、身体の線は細いのに、肩幅の広さが男だと感じさせる。眠っているのか、俯いて目を閉じていた。その顔があまりに美しくて私はたちまち目が離せなくなった。気付けば心臓の鼓動がトクトクと音を立てていた。


「あの、、」


頭が持ち上げられ、2つの瞳が私を見た。

きゅ、と胸が締め付けられた。味わったことのない初めての感情が広がる。その得たいの知れない感情が何だか恐い。

ふぅ、と息を吐いて声を掛けた。


「あなたはシンなの?」


「、、、レイラは、、どうなりましたか?」


私の質問に答えずに質問を返してきた。瞳が不安に揺れている。ああ、そうかと落胆してしまった。シンはレイラの恋人だ。


そこまで考えて、はっとした。私は一体何を考えているのかしら、、。


「ごめんなさい、私に聞かれても分からないわ。」


「あぁ、、。」


私が何も知らないと悟ったのか、彼は再び俯き、何も言わなくなってしまった。


「ねぇ、少し、話をしたいのだけど。」


「、、、」


無視された。


「ここから出たくはない? 自由に、なりたくはないかしら?」


「、、、レイラが一緒でなければ意味がない。」


ぼそりと呟くように言った。それでも私は続ける。


「あなたの細工を、もっと広めてみたくない?」


「、、、興味がない。」


「腕が認められたら、あなたの立場は良くなるわ。そうしたら陛下と交渉が出来るかもしれないし、レイラだって、返してくれるかもしれないじゃない。恋人を引き裂くなんて悪趣味だもの。」


「、、、恋人じゃない。」


消えそうな声が聞こえた。

恋人じゃない? 本当に? 一瞬喜びそうになって押さえつけた。今日の私は何だかおかしい。


「違うの? じゃあおかしいわ。だって、どうしてそこまで?」


例え恋人でも理解が出来ないのに、何でもない女の為にここに居るなんて、、。私には到底理解が出来ない。そう思って聞いたけれど、シンは私を一瞥し、ふっ、と笑っただけだった。何故だか自分の無知を馬鹿にされた気持ちになった。恥ずかしく居たたまれない。


「と、とにかくここで腐っていくより何かした方がいいでしょう? だから、、また来るわ。考えておいてちょうだい。」


そそくさとその場を逃げ出した。

大袈裟過ぎるけれど恥辱を味わった様な気持ちになった。それなのに彼の目がちらちらと思い出されて胸がきゅっ、と締め付けられる。


「アリア様どうかしましたか? お顔が赤いですけど、、、」

「きゃっ、、あ、ああメリッサ。」


いつの間にかメリッサが目の前に立っていて、急に話し掛けてきたので驚いた。


「大丈夫よ、ありがとう。  、、私、顔が赤いの?」


「はい、、お顔が、赤く見えます。」


「そう、、少し暑いからかしら。」


胸がざわざわと音を立てる。




**


「シンがいなくなった? それはどういうことかしら。」


「何でも陛下が直接連れて行かれたそうです。」


「陛下がわざわざ?」


メリッサの報告を聞いて顔が青ざめた。会いに行ったのがばれたのかもしれない。また疑われたらどうしよう。

間も無く陛下からのお呼びが掛かり、私はひやひやしながら執務室へと向かった。


「来たか。」


「、、、はい、参りました。」


執務中の陛下は相変わらず、私の顔を見ても下さらない。ただ、今日の陛下は本当に忙しそうにしていらっしゃった。


「お忙しい様でしたら、改めましょうか?」


なかなかお話が始まらないので、痺れを切らして口を開いた。無言のままこの部屋に立っているのは緊張してしまう。


「ん? ああ、済まない。まあ、座れ。」


私は耳を疑った。陛下が、済まない、と言った気がする。おそるおそる椅子に座り様子を窺っていると、執務の手をお止めになった陛下のお顔が私に向けられた。


「最近、お前が何と言われているか知っているか?」


「いいえ、何も存じておりません。」


突然そんな事をおっしゃられても、私には心当たりがなかった。というのも、最近の私はシンの方に気が向いていたので周囲の動きを把握していなかったのだ。


「余に側室を持たせたくなくてハンナを殺そうとしたらしいぞ。」

「何ですって!? へ、陛下っ、違いますっ! 私は決して、、」


陛下は何でもないことの様におっしゃるけれど、私としては大問題だ。


「まぁ慌てるな。そうだと思っている訳ではない。」


「え、、信じて頂けるのですか?」


「全てを信じる訳でないがな。して、エレノアは怯えて部屋から出れないそうだ。」


「、、、私はどうすれば、、」


「せっかくだ、少し脅かしてやれ。上手くいけば逃げ帰るかもしれん。」


私は唖然とした。


「そ、それは陛下っ、私に悪者になってエレノアを追い出せ、と仰っているのですか?」


「ふむ。まぁ、そういう事だ。期待している。」


わざわざお呼びになった理由がこれだとは、、、ほっとするような、憤ってしまうような、何とも言えない気持ちになった。


「それから」


退室しようと思っていると陛下が話をお続けになった。急に深刻な顔になられて、ひやりと背中が冷えた。心臓がどくどくと鳴っている。


「はい。」


「細工職人に会いに行ったそうだな。」


騒いでいた心臓が今度は跳び跳ねた。すかさず言い訳を並べる。


「その件ですがっっ、 報告が遅れてしまい申し訳ありません。私、アリドゥラムの将来を考え、シンを利用したいと思っております。その事で彼の意思を確認しようと接触致しました。それだけなのです。決して陛下がお疑いになられるような事はございませんっっ!」


「あ? ああ、、大丈夫だ、、。うむ、そう言うなら好きにすればよい。ただ、余にも少し考えがあるのだ。」


「陛下のお考え、、ですか? 伺ってもよろしいでしょうか。」


陛下のお考えというのは、シンだけでなくジェミューの人々を巻き込んでの計画だった。その為シンは一度、自分の村に戻って交渉をしてくるのだという。あんなに無気力だったシンを一体どうやって説得なさったのだろう。それに、陛下はシンにお怒りになっていたはずなのに。私の事も信用して下さっているのかしら?

色々な疑問は浮かんだけれど、私も計画に加わる事になった、というか任されたのかもしれない。


「お前もシンと一緒に行ってみてはどうだ?」


「陛下も行かれるのですか?」


「いや、余は別の用事がある。お前は彼らと直接会っておいたほうが今後の仕事もやり易くなるだろう。」


「けれど、大丈夫でしょうか? とても警戒心が強いと聞きました。」


「ああ、信用して貰うにはこちらからも差し出す物がなくてはな。出せる条件と、犠牲にする物を1つ準備してある。後は奴の交渉次第だ。」


「分かりました。では私も行って参ります。」


少し、ほんの少しだけれど、楽しみになっている自分がいる。どうしよう、、、。



ありがとうございます。

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