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朝食を運んできたジュリはいつにも増してご機嫌で、にこにことしていた。


「おはようございます。お嬢様は陛下にお気持ちを伝えられたのですね。」


「へ、、? ど、どうして?」


「今朝、陛下をお見かけした時、嬉しそうにしていました。考えられるのはお嬢様だけですから。」


微笑みながら言われて何だかむず痒くなった。

陛下が笑顔だなんて、、本当ならとても嬉しい。

そして、この娘は本当に喜んでくれているんだとほっとした。本当は私が陛下と打ち解けるのは辛いのでは、と思っていたから。


日中、私はいつものように本を読んだ。

心がぽかぽかしていたし、夜は陛下を待っていて寝不足だったので、本を読みながらうたた寝もした。


うたた寝と読書で1日が終わり、寝仕度を済ませベッドに入った。途端にさっきまで浮きだっていた心が急激に萎む。

だって陛下は結婚してしまった。でもそれは部屋の外での出来事だから私には関係がなくて、、。ジュリは関係がないから大丈夫だ、と言うけれど、それは大丈夫だと喜べる事なのか、、、胸がざわざわと音をたてる。今日は戻って来ないかもしれない、、、。

広い部屋に1人でいると、考えはどんどん暗い方へ落ちていく。

最近の私の心は浮いたり沈んだり、とても忙しい。


昼間にうたた寝をしたせいか、ちっとも眠くならなくてぼんやりしていると遠くでドアが開く音がした。陛下だ。戻ってきた。気持ちが急上昇する。嬉しくなりすぎて、いたずら心がムズムズした。そっとベッドを出て、音をさせないようにそわそわとドアの横で待っていると間もなくそのドアが開かれた。

思い切り わぁ!と飛び出してみた。普通なら絶対にしない事だけども、たぶん夜中だった為に気分が高揚していたのだと思う。


心臓を高鳴らせて反応を待っていたのだけれど、陛下は微動だにしなくて、今度は気持ちが急降下した。ところが、慌てて方向転換しベッドに戻ろうとすると後ろから ぎゅっ、と抱き締められた。


「ひゃっ」


「悪い子だ。」


耳元温かい息がかかって、身体が熱くなった。心臓はどきどきと音を鳴らす。


「ご、ごめんなさい。」


「、、、驚いた。」


「え、、 本当に、ですか?」


「ああ」


「ふふ、」


驚いていたのかと思うと何だか可笑しい。それにちゃんと会話になっているのが嬉しくて、胸がきゅっ、とした。

不意に身体をくるりと回されて向かい合わせになった。目を瞬く間に両手で頬を包まれて唇が重ねられた。ちゅ、と音を鳴らして離れる。


だけど私は泣きたくなった。

陛下からはいつもと違う香りがしたから。纏わりつくような甘い香りで、男の人は絶対に使わない香り、、これはきっとアリア様の香りだ。


「どうした? 嫌なのか?」


泣きそうな私の顔を陛下に覗き込まれて、私はふるふると首を振った。


「じゃあその顔は何だ?」


「、、、」


言葉の代わりに涙が落ちた。


「ふん、」


一瞬で陛下の顔が冷たくなった。悲しくなる。でも突き放されるのはもっと悲しくて、慌てて陛下の胸にしがみついた。

甘い匂いが濃くなって涙が溢れた。


「、、、匂いが、、、、嫌です」


「匂い?」


陛下は驚いて、自分の腕を鼻に付けた。


「この匂いか? レイラは甘い匂いが嫌いなのか?」


少し焦ったように聞いてくるけれど、何だかずれている。


「、この、匂い、じゃなくて、、何処で、、」


嗚咽が漏れそうで上手く話せない。


「場所が関係あるのか?」


悔しくて胸を叩いた。


「へ、陛下は、、、、今日、結婚したって聞きました、、」


「、、、」


もう一度胸を叩いた。最後まで言わないと分かってくれないのかと、胸が苦しい。


「、だから、、その人の所にっ、っ、、」


陛下が私の両肩を掴んで押しやった。涙でぐしゃぐしゃになった顔が空気に触れてひやりとした。


「流してくる。」


「え、、、?」


私をポツンとその場に残し、バスルームに行ってしまった。しばらく私は唖然と立ちすくんでいたのだけれど、結局すごすごとベッドに戻る事にした。虚しい、、、

しかも陛下はなかなか出て来なくて、泣き疲れた私はいつの間にか眠っていた。


**


外では小鳥が鳴いていて、もう朝になっているのだと分かるのだけれど、何だか暖かくて気持ちがよくて、二度寝、三度寝とだらだら夢と現実を行き来していた。石鹸のいい匂いがする。

心地よくて顔を擦り付けて匂いを嗅いだ。


不意にぎゅっ、と身体締め付けられた。

もぞもぞと動くと締め付けが弱り、代わりに耳たぶを食まれた。


「ひゃっ、、」


驚いて目を開けると、そこは陛下の腕の中だった。

少し見上げると陛下と目があった。

陛下は優しく微笑んで私の頬を撫でながら言った。


「、、結婚はしたが、それだけだ。昨日は話があって、部屋に寄った。その時に付いたんだろう。」


「え、、?  あ、、 はい。」


寝起きにいきなり言われて理解するのに時間がかかった。返事をしながら、昨日の事を思い出す。あっ、、と思った時には陛下は話は終わったとばかりに満足そうな顔を浮かべている。慌てた。このままではいつまでも不安なままだ。


「あっ、待って下さいっ。まだ聞いてませんっ」


「何をだ?」


陛下の手は私の足を這っていて、その手を足から剥がして両手で握った。


「あのっ、私はウィレム陛下が好きです。」


顔が熱くなっていく。きっと真っ赤だ。


「、、、聞いた。」


「う、、。 え、ええと、ウィレム陛下は、どう思っていますかっ?」


恥ずかしさで顔を見れなくて、握った陛下の手を見つめた。


「、、、」


返事がない。

堪えきれずに少しだけ見ると、陛下の顔が赤く染まっていてびっくりした。


「へ、陛下?」


「、、、い、言わないといけないのか?」


2人でお互いの真っ赤な顔を見つめあって、逃げ出したいほど恥ずかしい。だけれど私は勇気を振り絞った。


「わ、私は、陛下の気持ちを知りたいです。じゃないと、、ふ、不安で、、」


また泣きそう、、、。涙が溢れる前に、陛下が口付けて舐め取った。


「、、俺は、レイラを独占したい。この気持ちが好きと言うのならそうなのだろう。

、、、好き、だと思う。」


林檎の様な頬でそう言った陛下は何だか可愛らしくて、思わず抱き締めた。


「好きです。」


「、、ああ。」


今後は額に口付けされた。


「ウィレム陛下が好きです。」


「、、ああ。」


唇同士が触れた。握っていた筈の手は、いつの間にかまた足を這っていて、慌てて手を重ねて制止した。


「ウィレム陛下、、あの、朝です、、起きましょう」


「、、、ああ。」


陛下は少し困った顔で返事をした。




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