37アリア視点
***アリア視点***
宴会はもうしばらく続きそうだったけれど、疲れてしまった私は先に抜け出した。少し身体を休めておかないと夜まで持ちそうにない。
抜け出す前にお兄様に挨拶しておきたかったけど、どこにも見当たらなかった。
まぁ、明日も会えるだろう、と思っていた。
そういえば、とルーナの事を思い出した。
別に1人だからって心配してあげる訳じゃないけど、ほんの少し気に掛かったので、部屋に行ってみた。だけどドアをノックしても返事はなかったので、すぐに自分の部屋へと戻った。
暇をもて余して散歩でもしているのかもしれない。
婚礼の衣装は暑くて重かったので、じんわりと汗をかいていた。すっきりさせるために入浴し、湯に浸かりながら今日の事を思い起こした。
珍しい事に、今日の陛下はとてもお優しかった。うっすらと微笑みまでお浮かべになられていて、私はやっと認められたのだと嬉しかった。
入浴を終えてメリッサが準備してくれた寝衣に着替えたのだけど、途端に私は恥ずかしくなった。初夜という事で、普段とは違って簡単に脱衣が出来る様な作りになっていたのだ。
「ねぇ、私大丈夫?」
何度も自分の姿を鏡で確認したけれど、どうしても納得出来ない。
「はい、アリア様。とても素敵ですよ。」
「本当に?少し、いやらしくないかしら?」
「ちっともいやらしくありませんよ。寧ろ美しいと思います。」
ところがミアもメリッサもにこにこと笑顔でそう答え、私の気も知らないで 身支度を整えるとそそくさと退散していった。
残された私は居心地の悪い思いをしながらベッドの端に腰かけた。まだまだ時間には余裕がありそうで、深くため息をついてから 気を紛らわす為に今後の展望ついて考えを練る事にした。
一番取り掛かり易いのは例の細工技術の件だと思う。陛下はシンを見限っておいでだけど、あの技術は放置するには勿体ないし、なにより私は装身具にとても興味がある。ただ1つ、お兄様が先に目を付けていたことが引っ掛かるけれど、、、でも私はこの場所で生きていくのだから、と自分を励ました。
それにしても陛下はまだかしら? もう随分時間が経った気がする。
初夜の時の陛下は例のドアからいらっしゃるのだとばかり思い込んでいたので、私は緊張しながらしばらくそのドアを見つめていた。
それでもやはり陛下は なかなかいらっしゃらなくて、時間が経つにつれそわそわし、落ち着かなくなって、とうとう歩き回ったり、座ったり、立ったりを繰り返した。しばらくすると、メリッサが慌てて入って来た。
「アリア様っ、こ、こちら側から陛下がいらっしゃいましたっ。」
陛下は普通のドアからいらっしゃったのだった。
「え、、わ、分かったわ。」
慌てて寝室を出て出迎えると、部屋にいらっしゃった陛下は寝室へは入らずに、ソファーにお掛けになった。
「茶を、頼む。」
「え? ええ。」
さっそく始まるのかと思いきや、拍子抜けしてしまう。私が焦り過ぎているのかしらと、恥ずかしくて顔が赤くなった。
お茶を入れて私も陛下も向かいに座った。
ちら、と陛下を見てみると、神妙な顔をしていらっしゃる。
「あの、どうかなさいましたか?」
「ん? ああ。 ディランの事は聞いたか?」
「お兄様ですか? いいえ。今日は話してもいませんし、、、」
「あいつの連れがハンナに危害を加えた。」
「ええっっ!?」
信じられない。予想外の出来事に青ざめた。
「そ、それはルーナの事でしょうか?」
「ああ。かなり狂っていた。何か飲ませていた様だ。」
ああ、、、落胆した。あの時お兄様にもっと強く言っていれば。防げたかもしれない。
「そ、それで、、お兄様は、、」
お茶を持っていた手が震えて、かちゃかちゃと音をさせながらどうにか受け皿の上に戻した。
「うむ、無関係だと言い張るが、信用も出来ない。、、、して、、お前は、関わっているのか?」
驚愕した。まさか私まで疑われているなんて。
「と、とんでもございません。私は何も知りません。危害を加える様な理由もございません。」
見定めるように見つめられる。冷や汗がたらたらと出た。
「ふん、どうだかな。ディランにも伝えたが、お前の国王陛下には報告する。ディランはしばらく謹慎になるだろう。
お前は、、本当に無関係だと言うならこれ以上疑われないよう行動に気を付けるんだな。手紙も含め一切の交流を禁止する。こちらの情報が少しでも漏れた時にはお前を疑おう。」
「そんな、、私は本当に何も知りません。」
お前の国王陛下、とはまるで私がまだリュヌレアムの人間のような言い方だ。陛下は私を間者だと疑っておいでなのだと悲しくなった。
目の前が暗くなっていく。婚礼当日がこれでは私は一体どうなってしまうの、、、?
「はっ。兄妹揃って白々しい。」
吐き捨てる様に言うと、陛下は行ってしまわれた。私どこまでも報われない。それなのに私のいる場所はここしかないのだ。目を瞑って、気持ちを落ち着けた。冷静にならないと。お腹に力を込めた。
「ミア! メリッサ!」
大声で呼ぶと2人が飛んできた。
「アリア様、どうしましたかっ? あ、あれ? 陛下はお帰りに、、、?」
「メリッサっ! しっ、、」
ミアがメリッサをたしなめた。初夜に陛下が寝室に足を踏み入れないでお帰りになるなんて、恥でしかない。
「いいのよミア、ありがとう。それより、シンを探して欲しいの。」
「アリア様? 一体どうしたのです?」
「シンに相談したい事があるの。」
どうにかして陛下に信頼していただける様にならないと。私は焦っていた。
ありがとうございます。