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36ディラン殿下視点 前に少しジュリです

***ジュリ視点***


お嬢様は優しくていい人だ。だから、陛下のお相手がお嬢様で良かったと思っている。

けれど私にとっての陛下は神に近い存在で、お嬢様と比べるまでもなく、私は陛下の味方なのだ。

陛下の目の色と同じ石のペンダントを手にした日、私はこっそり指に傷を付けて自分の血をその石に擦り付けた。そうすることで自分なりの忠誠を誓ったのだ。

陛下がお喜びになるなら私は何だってできる。


不手際で不審者をお嬢様と接触させてしまった私は、どうにか挽回したいと機会を見ていた。不審者の正体はディラン殿下だった。

いっそ刺し殺してしまおうかと夜中にディラン殿下の部屋の前をうろうろしていたら、ディラン殿下と一緒に来た女の人が部屋を抜け出すのを見た。

その女の人がお嬢様の友人であることは知っていた。不審者の件を陛下にご報告する時に聞いたのだ。理由はわからないけど陛下は彼女をよく思っていなかった。と思う。


私は持っていた果物ナイフをさりげなく提供した。私より彼女が使った方が良さそうだ。


いい働きをしたと思う。私の活躍を後で陛下にご報告しよう。




***ディラン殿下視点***


ツェンペ国のマクシム国王陛下は、恰幅が良い。表面上では穏やかだが、ずる賢そうな目がせわしなく動いていた。

信用し過ぎると痛い目をみそうだ。

ハンナの妹とやらとの婚約の話は濁しつつ、言葉を交わした。

それというのもまだ口約束だけの段階であるし、どうせ結婚するのなら、妹より、ハンナがいいと思っているからだ。

ただ突然湧いて出た王子より、アリドゥラムでの辛い日々から助け出してくれた王子の方が従順に懐いてくれるだろうから。

妹の方と正式に決まってしまうと都合が悪いのだ。手駒は多い方がいいに決まっている。


和やかに会話を楽しんでいると、意外な事にウィレム陛下が近付いてきた。

口角どころか、ほほ笑みを浮かべている。これは幻覚か? とにかく不自然だ。

異常な事態に身構えた。


嫌な雰囲気の中、先に言葉を発したのは、ウィレム陛下だった。


「おや、ツェンぺの国王陛下とリュヌレアムの王子がお揃いですか。」


「ウィレム陛下、本日はお招き頂いてありがとうございます。それにしても素晴らしい婚姻の儀でありましたな。」


マクシム陛下はにこやかに答えた。

国王陛下同士の会話で、俺は一歩身を引いた。


「ははは。ありがとうございます。

ところで最近耳にしたのですが近々そちらの二国は婚姻を結ぶそうですね、教えて頂けないとは水臭い。」


ははは、だと。なんだその笑いはと思っていたら、急に触れて欲しくない話題を振ってきたので焦った。余計な事は言わないで欲しい。思わず口を出した。


「ウィレム陛下、その件はまだ、正式には決まっておりませんので。」


ふん、と鼻で笑われた気がした。ところが直ぐにまた不自然な笑顔を顔に張り付ける。


「そうですか。ではこの場で正式に決めたらいかがかな?慶事が続くのは良いことだ。」


普段は口数が少ないくせにペラペラとしゃべる。苛立った。


「ありがとうございます。けれど、先に姉のハンナが決まらない事には。」


マクシム国王陛下の言葉を聞いて胸がすかっとした。様を見ろだ。


その時、ウィレム陛下に使用人が駆け付けて来て、何やら耳打ちを始めた。真顔に戻るが、口の端だけはやはり上がっている。今日のウィレム陛下はどこかおかしい。

使用人を下がらせた陛下はこちらに向き直った。


「失礼した。少し騒動があった様だ。」


「騒動ですか?」


どうしてわざわざそんな事を他国の人間に話すのだろうと、疑問に思った。


「お2人にも関係が。少し込み入った話になりますので、こちらへ。」


なぜか別々の部屋へと通され、先にマクシム陛下と話をするようで俺は1人部屋で待つことになった。嫌な予感しかしない。

しばらくしてウィレム陛下が部屋に入ってきた。


「さて、、、痴情の縺れか、はたまた何か企んでいるのか、、、」


俺の顔を見ながら言うが、何の話か分からない。


「何のお話でしょう?」


「ふん、知らぬ振りか、本当に知らぬのか分からんな。お前の連れがナイフでハンナを殺そうとしたようだぞ。」


「なっ!!」


あまりに衝撃な話だった。連れとはルーナの事か? ウィレム陛下は淡々と続ける。


「幸い致命傷ではなかった。だが傷が深く、痕が残る様だ。ハンナは国に返す事になった。」


「ちょっ、、待って下さい。ルーナの事でしょうか?」


「それしかいないだろう。」


唖然とした。


「えっ? まっ、待って下さい。ルーナがそんなことするとは到底思えません。それにナイフって、そんなものルーナは持っていません。」


「はっ、ならお前が準備してやったのか?

しっかりと握り締めていた様だぞ。お前は一体何を企んでいるんだ。」


「違いますっ、ル、ルーナは、何と言っているのですか?」


「ふん、かなり気が触れていたぞ。まともに話せる状態ではなかった。」


「い、今ルーナは何処に、、?」


「ここで騒ぎを起こして無事だと思うのか?」


無事じゃないということか?背中がひやりとした。


「うっ、、つ、つまり、ルーナは、」


「もういない。」


「も、もうっ? いつですか!? 報告は今受けた筈では?」


ウィレム陛下の許可無しにはあり得ない。

だが今日は朝からずっと、、、。


「ああ、あれはハンナが目覚めた報告で、騒動が起きたのは今日の未明だ。」


はっとした。そういえば今朝は会っていない。部屋をノックしたが返事がなかったので寝ていると思っていたのだ。

だとすると陛下が朝からにやけていたのはこの事か。ずっと腹の中でほくそ笑んでいたのかと思うと人格を疑う。悪趣味だ。


「そんな、、ルーナがもう、、」


「で、本題に戻るが何が目的だ? アリアが望んだのか?」


「そんな訳がっ、、。俺もアリアもハンナを害した処で得はありません。」


「ふん、信用出来ない。お前の国にはしっかり報告するからな。直ぐに帰って謹慎でもするんだな。」



俺は大事な手駒を2つも失った。


我国の軍事力がアリドゥラムに劣っていることは明確で、俺はずっと父上に軍事力の強化を提案してきた。それなのに父上は聞く耳を持たなかった。

だからジェミューの繊細な魔力使いの技能の高さを知った時、興奮した。

軍の武器に応用できると思ったのだ。より鋭く、より滑らかに、より強固に、、卓越した技術を持ってすれば、個々の武器の質が格段に良くなる筈だ。間違いなく底上げが出来る。しかも装飾品で誤魔化しておけば気付くのも遅れるだろう。


強くなれば対等になれる、とそう思っていた。ところがアリアの一件で知ったのは、経済力ではこちらの方が勝っているから既に対等だ、ということだった。これまでの屈辱は父上の弱腰のせいだったのだ。

俺はますます力が欲しくなった。軍事力さえ上げればもう、我が国に逆らう者は誰もいなくなる。


その為に積み上げていた物が今、ウィレム陛下のせいで音を立てて崩れていった。


この陛下は俺の物を何でも奪っていく。

憎しみがこんこんと湧上がった。


ありがとうございます。

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