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35ルーナ視点 後ろに少しディラン視点です

***ルーナ視点***


助けて、と命乞いする声が聞こえてはっとした。


あれ?また、夢? 気付くと私は薄暗い部屋の中に立っていて、はぁはぁと、肩で息をしていた。手にはぬるぬるした感触があった。意識を手に移して初めて、自分が持っている刃物に気付いた。


ぎゃあっっ!!


咄嗟にそれを放り投げようとしたのに、握った両手は固まったみたいに握り締めていて放せなかった。

足元の人は消えそうな声で助けてと懇願していた。やめて。私じゃない。恐い。


無我夢中で部屋を出て走った。

転がった石ころが裸足の足に傷を付けたけど、構わず走った。外は暗かった。自分がどこを、どこに向かって走っているかも分からない。それでも恐怖から逃げる様に走って、走った。

突如誰かの手が伸びてきた。踏み出そうとした足は宙を蹴り、後ろに倒される。そしてそのまま押さえ込まれてしまった。


「やあっっ! やめて! 私じゃない!!」


恐くて手に持つ物を振り回しながら何度も叫んだ。けれどあっという間に手の指はこじ開けられ、中の刃物は取り上げられた。


「やだぁっ、止めて! 私じゃないっっ」


私はそのまま何処かに引き摺られていった。夢なら早く覚めて欲しいと切望しながら、だんだんと意識が遠のいていくのを感じた。



**


目が覚めると、固い冷たい床の上だった。床に当たっていた肌が冷たくなっている。あちこち傷が出来ていて、ジンジンと痛んだ。

また夢を見ているのだろうか?夢にしては床の感触も、痛みも現実的だった。

上半身を起き上げてきょろきょろと見渡すと、私に向いた誰かの足があった。

殿下? 期待に目を輝かせて見上げるとウィレム陛下が見下ろしていた。なぜか口角が上がっている。私も事をよく知りもしない陛下までもが私を笑うのかと、悲しくなった。


「あ、あの、殿下は?」


とにかく殿下に会わなくちゃと思った。


「、、、」


おそるおそる聞いてみたけど返事はない。


「私、殿下の所に行きたいのですけど。」


「、、、」


これは本当に夢じゃないかもしれないと、恐くなった。何も返事を貰えなくて、その事が更に不安を増していく。


「ここは、どこですか?」


「、、、自分が何をしたのか覚えて無いのか?」


少し間があって、突然低い声が響いてびくっとした。


「あの、、、、私、何かしましたか? 」


どうしてここにいるのか分からない。私が聞きたい程だ。


「はっ。」


陛下は鼻で笑って何かを投げて寄越すと、それは カツッ、と音をさせて目の前に転がった。

短剣だった。


「きゃあっっっっ!!」


咄嗟に悲鳴を上げた。血が付いていたのだ。叫んだ拍子に顔に近付けた手までもが血生臭い。慌てて見ると、血がたくさんこびりついている。


「きゃあっ! いやぁっっ! 」


恐い。何が何だか分からない。


「ふん、馬鹿な女だ。お前はそれでハンナを切った。」


はっと思い出した。ハンナ、そう、ハンナだ。助けを乞うハンナを思い出したら急に可笑しくなってきた。

あんな滑稽な姿を、どうして忘れていたんだろう。


「っあはははは。可笑しい。だってあの悪女は私から殿下を奪おうとしたんです。だから、駄目だって教えてあげました。うふふ、血がたくさん出たんですよ。ふふ。面白い。」


お腹を抱えて笑っていたら、ふと疑問が浮かんだ。 あれ? 私、何しにあそこへ行ったんだっけ? 


「気が触れたか」


陛下がぼそりとつぶやいた。


「私、おかしいですか? それより殿下は何処です?」


今度は震えが止まらなくなってきた。


「会ってどうする? 何か命令されたか?」


「命令? 私はただ会わないといけないから、、 あ、あれ?  、、、あ、そうだ、私、殿下を探しに行ったんです。でもいなかった、、、」


殿下はハンナのところにはいなかった。

では一体どこにいるんだろう?

突然レイラの事が頭をよぎった。

レイラだ。レイラの所に行ったんだ。

嫌だ、レイラに殿下を取られてしまう。シンの様に。


「レイラは!? レイラは何処ですか? 会わないと!」


震えがどんどん激しくなる。お茶が欲しい。お茶が欲しくて堪らない。殿下に会いたいのに、今この瞬間も、殿下はレイラと笑っているに違いない。


「レイラの所に早く連れていって! レイラは恐ろしい女だわ! 早く殿下を連れ戻さないと! 」


レイラは私を裏切った。殿下と一緒に惨めな私を馬鹿にしている。急がないと殿下を取られてしまう。

そんな私を陛下がまたも、ふん、と鼻で笑って見ている。


「今頃レイラが私の殿下を誑かしています!だから早く行かないと!」


私は焦っていた。一刻も早くレイラを引き剥がさないと。

陛下の足に縋ろうと、床に手をついて前のめりになった。ところが片手を伸ばした瞬間に身体が跳ばされて壁に打ち付けられた。何が起きたのか分からない。



「もう十分だ。やれ。」


陛下の声が静かに響いた。



***ディラン殿下視点***


アリアの婚礼の儀は滞りなく行われた。

アリアが身に纏っていた衣装は美しい事は勿論のこと、我が国を体現する黄色がさりげなく散りばめられていて、とても良く似合っていた。父上も自分の目で見る事が出来たらとても喜んだだろうに。

アリアの横に座っているウィレム陛下は機嫌が良いのか、時々口の端が上がっていた。婚礼を喜んでいる訳ではないだろうが客観的には、2人はとても幸せそうに見えた。


感慨に浸っているとハンナの父君、ツェンぺ国の国王陛下を見つけたので会いに向かった。今後の為にも是非仲良くなっておきたい人物だ。



ありがとうございます。

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