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34、前がちょっぴりディラン殿下視点です


***ディラン殿下視点***


()とか、、、 笑える。」


夜1人になってから思い出し、苦笑してしまった。可憐な少女を前にして、虚勢を張っていた自分が一瞬で腑抜けになってしまった。

今まで一目惚れなんて信じていなかった。それなのに、目があった途端一瞬で落ちてしまったのだ。少女は不思議そうに俺を見つめていた。俺はさぞかし間の抜けた顔をしていたことだろう。せめて触れてみたかった。


それにしても、、グッと奥歯を噛み締めた。

陛下が憎い。あれは俺の物だったのに。

考えれば考える程、激しい怒りが込み上げてくる。物に八つ当たりしそうになって、どうにか気持ちを留めた。冷静にならなければ。

身体の力を意識して緩め、深呼吸をした。

大丈夫だ、時間を掛ければ必ず取り返せる。


これ以上何も考えずにすむように、その日は早めに就寝する事にした。明日はアリアの婚礼だ。



目を閉じると、ディラン と呼んでくれたあの娘の声を思い出して頬が緩んだ。



***レイラ視点


会いたいと思った途端に、それが難しくなる。なぜだろう、、、。

大きなベッドに転がって溜め息をついた。

もうなん十回も頭の中で練習した言葉を、今度は小さく口に出してみた。


「、、、好きです。」


静かな部屋の中で呟いた言葉は、思った以上に大きく聞こえた。

ぎゅっと枕に顔を押し付けた。恥ずかしすぎる。

今日の陛下はずいぶんと遅い。時刻はすでに日付を越えていた。

諦めて、、というか睡魔に負けて夢の中に引き込まれていき、いつの間にか眠っていた。

どれくらい寝ていたのかは分からないけど、急に湿った物が私の唇を覆って、飛び起きた。

私が驚いて跳ねたのに気付いた陛下は、唇を離して私を見た。薄暗い部屋のせいか、陛下の顔は悲しそうに見えた。

私が口を開く前に、口付けは再開された。

普段より少し濃厚で、長い。

ジュリの言葉を思い出して身体が熱くなった。

ただ受け入れるだけでは物足りず、つい自らも舌を絡めた。陛下は驚いたのか一瞬びくっとしたのち、更に激しく貪って来た。口付けがこんなに嬉しいなんて。私は両手を伸ばして陛下の背中に回そうとして、そして突き放された。


「あいつの為か?」


あいつ? 一瞬何を言われたか理解できずに固まってしまって、それから徐々に理解した。私がシンの為に陛下に媚びているのだと、そう言われたのだ。涙が溢れるのと同時に手が出た。人を殴るのなんて初めてだったけど、自分でも驚くほどきれいに音が鳴った。

パンッ!と一回。


私の反撃に陛下は驚いて狼狽えた。

陛下の身体を支える腕をぐいっと力いっぱい押し退けると、バランスを崩して私の横に転がった。私は自分の身を起こし、さっきまで見上げていたこの人を見下ろした。


「酷いっ! 陛下は酷い人ですっ!! 私はこんなに悩んで、決心してっ、それでっっ、酷い! 本当に酷い!!」


転がった陛下は信じられないという顔で、殴られた頬に手を当てていた。


「悔しいっっっ!」


手に触れた枕を握り締め、振り上げた。


「陛下の、、馬鹿っっっ!!」


枕が振り落とされるのを察知した陛下が素早く私の腕を掴んだ。力では勝てなくて、枕ももぎ取られた。抵抗を諦めなかった私だけど、陛下の腕の中におさめられてしまえばもう、身動き出来なかった。


「酷いっ。陛下は酷いっ。」


声だけでも抵抗してみせる。


「違う。呼び方が間違っている。」


ますます泣けてくる。


「そんな、どうでもいいことっ。」


「どうでもよくない。大事な事だ。」


「、、、ウィレム陛下。」


「ああ。」


「ウィレム陛下。」


「ああ。」


「酷過ぎる。」


「ああ。」


「あんまりです。」


「ああ。」


「私は、、、そんなつもりじゃありません。」


「、、、そうか。」


「陛下の馬鹿。」


「、、、」


「   、、、好きです。」


「、、、」


「好きです。」


「、、、」


「好きだって、、、ひゃっっ!?」


天井が見える。一瞬で押し倒されていた。


「へっ、陛下っ!?」


「ウィレム。」


「ウィレム陛下っ!?」


首に吸い付かれて身をよじるときつく抱き締められた。

私も、抱き締められた腕を頑張って引き抜いて抱き締めた。陛下の背中は広くて暖かかった。


「レイラ」


陛下の声が耳をくすぐる。嬉しくて、くすぐったくて、抱き締める腕に力を込めた。


その時、遠くの方でドアがノックされる音がした。陛下が、チッと舌打ちして起き上がる。


「先に寝ていなさい」


そう言うと出て行ってしまった。外が明るくなっても戻って来なくて、そういえば今日は婚礼だったと思い出した。





陛下の婚礼の日、、、詳しいことは何も知らない。

私は「好きです」と陛下に伝えた。

思い出すと恥ずかしくて嬉しくて身体中が火照ってしまうのに、陛下は今日、私の知らない人と夫婦になるのだ。

ふと、自分の思いは伝えたのに、陛下の気持ちは何も教えてもらえていない事に気付いた。

陛下は私を抱き締めた。でもそれだけでは満たされない。アリア様って、どんな人だろう?


寝不足の目を擦っているとジュリが朝食を運んできた。

今日もまた、いつもと同じ1日が始まる。

そして今夜も、いつ来るかも分からない陛下を待ち続けるのだ。



ありがとうございます。


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