表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/135

31前半ルーナ視点 後半ジュリ視点です

****ルーナ視点***


楽しいのお出かけだった筈なのに、ここ数日私は自分が不安定になっていくのを自覚していた。

毎日お茶の時間だってあるし、殿下との濃厚な触れ合いだってある。それなのに傍にいてくれないと、たちまち不安になるのだ。

用意されていた部屋は、殿下と隣同士だった。不安を拭いきれない私は、自分でも異常だと思うのだけど、頻繁に壁に耳を押し付けて殿下の様子を探っていた。


殿下は1日に何度も私を置いて何処かへ行ってしまう。

だから殿下が部屋を出る音がした時、こっそり後をつけてみた。

すると殿下は慣れた足どりで、建物をでて庭を抜け別の建物へと入っていった。

こんな所へ1人きりでなんて、胸騒ぎがした。


人を払ったのか、侍女達が出てきた。私は物陰に隠れて人気が無くなるのを待った。


盗み聞きに慣れてしまうなんて、、、自分が益々嫌になる。だけど、聞かずにはいられなかった。


耳を当てると、聞こえづらいけど殿下の甘く優しい声がする。ハンナ? 、、君と結婚? もっとよく聞こうと、ドアに耳を押し付けた。心臓がドクドク鳴っている。


「ねぇ貴方、何をしているの?」


「きゃっっ、、ご、ごめんなさい。」


突然後ろから声がして飛び上がった。

ところが振り向いた私を見て、今度はその人が息を飲んだ。


「まぁ、、ずいぶん整った顔ね。身なりもいいし、、、もしかして、貴方が陛下のジェミューなの?」


「え? え? 違います。」


陛下のジェミュー、、、レイラの事だと思った。


「そう、、、そうよね。こんな所にいるはずがないわ。陛下の寵愛を受けているのに、私達を見に来たりなんてしないものね。」


「、、寵、、愛、ですか?」


耳を疑った。レイラが寵愛、、、? 

汚れた女が、、?

私はてっきりレイラも私と同じ地獄を味わったのだと思っていた。それは、勘違いだったの?マイクという男の顔が思い浮かんだ。マイクはレイラも酷い目にあったと言っていた気がする。でも陛下ともあろう方が、そんな女を寵愛するなんてありえない。

それではマイクは私に嘘を付いて嘲笑っていたの?  レイラは、、綺麗なままだったの?

不意に、捕らえられ汚されていった自分が脳裏に浮かんだ。


「ええ。ところで貴方は何をしていたの?」


「あ、あの、この部屋の方に、、」


「ハンナ?」


「あ、、いえ、、もういいんです。大丈夫です。ごめんなさい。」


咄嗟に走って逃げてしまった。


綺麗な身体で陛下に寵愛されるレイラと、今ここで殿下を疑い盗み聞きまでしている私。

自分が酷く卑しい人間に思えた。


部屋に戻り、1人で悶々と考え込んでいたら、ドアがノックされた。はっとして窓を見ればもうすっかり日が暮れている。

入って来たのは殿下で、私を見てがっかりした様に見えた。

その顔が、惨めな私の心をより惨めにさせる。これ以上惨めになりたくなくて、私は殿下に駆け寄って唇を押し付けた。

自分の価値を確かめたくて堪らなかった。私を見て欲しい。殿下は少し驚いた様子で、でも直ぐに応えてくれた。ほっとした。繋がった時に、やっと自分を肯定する事が出来た。


落ち着いてから、殿下はアリア様との夕食に誘ってくれた。家族の仲間に入れた様で嬉しかった。

食事を終えて寛いでいると、ふと、アリア様の手首のブレスレットに目がいった。


「あ、あれ? あの、そのブレスレットは、、」


「ブレスレット? ああ、これかしら?」


「はい、あの、友人が作る物によく似ていて、、」


「ん? ルーナの友人って、ジェミューって事かな? よく見せてくれないか?」


殿下が言うとアリア様がブレスレットを外して手渡した。


「ああ、そういえばルーナはレイラの友人だったわね。これはシンっていう者が作ったのだけど、2人は恋人なんですってね。陛下は本当にどうなさるおつもりなのかしら。」


アリア様が深く溜め息をついた。


「恋人ですか!? 」


私は恋人という言葉に驚いた。


「ええ。シンはあなたの知り合いではなくて? 細工の腕は素晴らしかったわ。」


「、、、シンが恋人だなんて」


信じられない。

だって、かつてシンと私は許嫁同士だったし、私のシンへの気持ちをレイラは知っていた。

2人は一体いつから? 

ところが考えて直ぐに府に落ちた。

だからあの時シンはレイラを追いかけて行ったんだ。   、、、酷い。

レイラは綺麗なままで、寵愛されていて、しかも影で私を裏切っていた。

どこまでも惨めにさせられる。


「恋人がいたなんて。」 


殿下が小さな声で呟いた。


「お兄様?」


「ん? いや、何でもない。それよりアリア、このブレスレットはどうして持っている?」


何でもない、、、?。


「あんまり大きい声では言えないけど、陛下がね、細工をお気に召して、国の産業に取り入れようとなさっていたの。」


「何だって? アリアはジェミューの魔力の話を陛下にしたのか?それは俺がしたかった事だ。」


「まぁ、お兄様、濡れ衣だわ。陛下は彼がジェミューだって事、つい先日までお気付きになっていなかったのよ。」


殿下は苛立っているように見えた。


「あ、あの、、それで、シンは一体何処に?」


「それが私にも分からないの。落ち着いたら探してみるわ。」




**


その日、私は人を殺める夢を見て飛び起きた。夢なのに鮮明で、手には生暖かい血の感触が残っている。相手が誰なのかは分からないけれど、夢の中の私は強い殺意を持っていた。

自分の中に違う自分がいる様で、恐くなった。

こんな時には殿下の入れてくれるお茶が飲みたいのに、殿下はどこにもいない。どんなに壁に耳を押し付けても、物音ひとつしなかった。


ハンナ? あの部屋にまた行ったのかしら?

そう思ってしまったらもういても立ってもいられなくて、私は裸足のまま部屋を出た。廊下はしん、と静まり返っていた。




***ジュリ視点***


陛下の部屋に入ろうと、鍵を開けたところで見知らぬ男の人に話し掛けられた。


「やあ、ちょっといい? 少し迷ってしまってね。」


張り付けた様な笑顔も、優しそうな口振りも、胡散臭い。


「どなたですか? ここは特別な者しか入れません。」


「おや、それは申し訳ない。気付かなかったよ。ということは、、君は特別なんだね。まだ若いのに凄い事だ。」


褒められて悪い気はしない。警戒しつつも口が緩んでしまった。


「まぁ、、、そうですね。私は特別です。」


その時突然、廊下の向こうから騒がしい声が聞こえた。


「何だか大変そうだ。早く見てきた方がいいのでは?」


男の人に促されて、騒ぎの方へ向かった。陛下の部屋の近くで騒動を起こされては困る。


行ってみれば、なんと王妃候補のうちの1人、ハンナが取り乱して、おさえられていた。


私に気付くと、それを振り切って駆け寄ってきた。


「あぁ、ジュリ、貴方に会いたかったの。」


扱いに困っていたその者達は、私に任せて立ち去ってしまった。そしてよく訳が分からないまま時間を取られた。支離滅裂な事を言いながらも、結局ハンナは、王妃が決定してしまった事で、自分の立場がどうなるのか心配だったらしい。少し落ち着きを取り戻してからは、お嬢様の存在がどのような物なのか、側室になるのか等、私に答えられる筈がないのに、質問ばかり浴びせきた。


解放され戻った私は陛下の部屋の前で、鍵を開けっ放しだった事の気付いた。

さっきの胡散臭い男の人が頭を掠める。

ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=119464601&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ