30 前半アリア視点です。
***アリア視点***
「お兄様、彼女は?」
ルーナを連れて行っていたお兄様が、しばらくして戻ってきた。衣服が少し乱れていたのには気付かない振りをして目をそらした。感心しない、と釘を刺したばかりなのにと呆れつつ、それ以上は踏み込めなかった。お兄様といえども、そういった事には触れられない。
「ああ、休んでいる。」
「1人にしていいの? 彼女ジェミューでしょう? 逃げたりしないかしら?」
いくら懐いていても、やはり帰りたいのでは、と思って聞いた。
「ルーナは大丈夫だよ。俺無しでは生きていけないからね。」
さらりと恐いことをおっしゃる。
そういえば彼女はお茶、と聞いたとたん雰囲気が変わった。何だか違和感を覚える。
「お兄様、変な言い方だわ。それはどういう意味かしら?」
「ははは。心配しなくて大丈夫だよ。アリアは心配性だね。」
「さっきの、お茶って何なの?もしかして何か変な物を飲ませているの?」
お兄様は、ふぅ、と溜め息を付いた。
「あの娘は精神的に不安定だったからね。」
まるで子供をあやすように優しくおっしゃるけれど、私は困惑した。
「こんな事は言いたくないのだけど、それはどうかと思うわ。」
「、少し助けてあげただけだよ。」
「少し助けた、にしては、、」
「それより、ルーナをレイラに会わせてあげたいんだ。」
もうその話はお仕舞いだ、と言わんばかりに話をそらされた。お兄様のお考えになることは時々理解ができない。
「レイラって、以前お兄様が買い取ろうとしていた娘のことかしら? 会わせたいって、それはどうしてですの?」
「ルーナの友人だって言うんだ。とても仲が良かったみたいだからわざわざ連れて来たんだよ。だけど陛下に断られてしまってね。」
「そうだったのね、、。 でも陛下がお断りになられたなら、残念だけど私では力になれそうもないわ。」
「アリアでも無理なのかい? 本当に一目だけでもいいんだが。」
「私だって見たことがありませんの。」
「それは、見ようと思わなかったからじゃないのか?」
「まぁお兄様、 まるで私、責められているようだわ。」
あまりに熱心に問い詰めてくるから困惑した。
「あ、、ああ、、悪かった。つい、、だけど、この建物のどこかにいるんだろう?」
「お兄様、、もしかして、未練がおありですの? 」
レイラはお兄様が以前、嫁に迎えたいと言ってた女だ。だけど、目にする事もなく陛下に献上された。
「、、、 いや、、何と言うか、どんな娘だったのかと、、」
やっぱり、おかしいと思った。 はぁ、と溜め息を付いた。
「見たこともない女にそれほど執着するなんて、お兄様らしくないわ。それに、、言いたくなかったけれど、陛下がご自分のお部屋で囲っていらっしゃるもの。本当に無理なのよ。」
「何だって!? 自分の部屋に入れてるのか!? なんて愚かな、、」
「ええ。私もそう思うわ。こんな陛下の元に喜んで嫁がなきゃならない私も愚かね。」
「アリア、、、」
「ふふ。大丈夫よ、初めから覚悟は出来ているもの。でもそうね、、もう少し情が欲しかったわ。待っても無駄だったけれど。」
お兄様は繰り返し、優しく頭を撫でてくれた。
「悪かった。」
「いいのよ。」
本当は大丈夫なんかじゃない。
その女を憎いと思っていることは、お兄様には言わないでおいた。いっそのこと、お兄様が連れて行ってくださったらいいのに、、、。
少し沈黙があって、お兄様が躊躇いがちに口を開いた。
「もし、国に戻れるとしたら、戻りたいか?」
「馬鹿なこと言わないで。何のために私をここまで押し上げたのよ?」
「、、、国の、為か、、」
「私はここで私のやるべき事を見付けるわ。それに、王妃ですもの。これからはさすがに蔑ろには出来ない筈よ。」
蔑ろにされないと、信じたい。
苦虫を噛み潰したような顔をして、お兄様は続けた。
「父上は、意気地無しだ。こんな望まない婚姻を結ぶ必要なんてなかったし、他国に媚びへつらう必要もない筈なんだ。」
「お兄様、、そんなことおっしゃらないで。 私はお父様のお考えを信じているわ。」
「いや、俺は今回分かったんだ。我国は決して劣っている訳じゃない。ただ臆病なだけなんだよ。」
「お兄様、落ち着いてください。そんな風では、喧嘩になってしまうわ。」
お父様とお兄様の仲がこじれてしまいそうで、私は泣きそうになった。
「あぁ、ごめんよ、アリア。俺が悪かった。泣かないで。」
いつもの優しいお兄様に戻ってほっとした。
レイラの事はもう、諦めたと思っていた。
***レイラ視点***
ジュリは時々席を外しつつも、ほとんど部屋にいた。話し相手がいるのは嬉しいけれど、何だか監視されている気持ちになる。
「ねぇ、ジュリ、、疲れない?」
「何がですか? 」
「、、、何でもないわ。」
「あ、お嬢様は、ずっと寝ていたから疲れますよね? 横になりますか?」
「いえ、大丈夫よ、ありがとう。」
ひたすら本を読んで過ごした。
夕食が終わった時にジュリが、夜は陛下のベッドで眠るようにと言っていたけれど、今の状態では、精神的にとても無理だったのでいつも通りにソファーで眠ることにした。
部屋に入ると、ジュリが布団を片付けてしまっている事に気付いた。溜め息がでる。
引き出しを開けてみると、確かに私の片方だけのピアスが無くなっていた。
気に入っていたんだけどな、、、
布団が無いのでソファーの上で丸くなった。寒くなくて良かった。
ところが、うつらうつらと夢を見始め時、ドアが開き、陛下が入ってきた。
「起きろ。」
一気に現実に引き戻され、慌てて目をこすって身体を起こした。見るからに苛立っていて恐い。
「ジュリに言ったはずだが。」
「、、ええと、、、 はい。」
「来い。」
怒らせないように、あたふたと付いて行き、部屋に足を踏み入れた。部屋の中央にある陛下のベッドはとても広いけれど、同じ布団で眠るのはどうかと思った。
けれどもまごついていると、顎でしゃくってベッドを指し示してきた。
仕方なく、緊張しながらおずおずと、端っこに滑り込む。
「ふん。」
反対の端から滑り込んだ陛下が近寄って来たかと思うと、ぐいっと私の肩を抱き寄せて、あっという間に陛下の下敷きになっていた。
私の目なんて一度も見ずに、ただ、唇を押し付けてきた。貪られるのをされるがまま、私はじっと目を瞑って受け入れた。
ふいに離れて、ぽつりと陛下が呟いた。
「今日は泣かないんだな。」
そして、離れて、私に背を向けて眠った。
その日から、私は毎晩陛下の寝室で眠る様になり、その度に、虚しい口付けを繰り返した。会話なんて、一言もない。
陛下は何を思ってこんな事を繰り返すんだろう。心を知りたかった。
**
ある日、外がいつにも増して賑やかな事に気付き、ジュリに聞いてみた。
「ねぇ、ジュリ、今日は何かあるの?」
「今日ではなくて、明日ですね。陛下のご婚礼です。」
「、、、そう。」
「お嬢様、、? 何度も言いますけど、お嬢様には関わりがありません。心配しなくて大丈夫ですよ?」
「、、、私、心配そうに見える?」
「気を、落とされているようで、、」
「ふふ、大丈夫よ、ありがとう。」
「お嬢様、陛下は本当に、、」
「ええ。ありがとう。」
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