23 後半マイク視点です
ご機嫌が戻った陛下はもう 箱を開けろとは言わなくて、私はほっと胸を撫で下ろした。
「先日言った物は持ってきたか?」
陛下が話し掛けると、リサさんは慌てて箱を開いた。
「こちらです。1人で作っていますので、時間が掛かり、ここにある分しか準備出来ませんでした。」
ピアス、ネックレス、ブレスレットのセットが1組と、ピアスのみが1組だった。
陛下はそれらを手に取って熱心に見始め、私はその横顔をぼんやり眺めて、改めて見るととても綺麗な顔だな、と考えていた。
「レイラはどう思う?」
「え? 」
ふいに振られたと同時に こちらを向いた陛下と目が合って、慌ててそらした。
「とても、綺麗だと思います。」
「ふむ。この技術を買いたい。出来るか?」
陛下が再びリサさんに話し掛けた。
「へっ!? 技術を!?」
リサさんが口を開くより前に、私が声をあげてしまい、2人が目を丸くして私を見た。
「あ、、ごめんなさい。技術を買うなんて、びっくりしてしまって、、、」
これはジェミューの魔力で作られた物だからジェミュー以外の者には作れない。そしてシンは、特に器用なのだ。
陛下が呆れたように私を見て、そっと髪の上に手を滑らせた。そしてそのまま頬を撫でる。目がふわりと優しくなって、動揺してしまった。けれど、すぐにリサさんに顔を向けた。
「で、どうだ。職人と話をしたいのだが。」
「は、はいっ。すぐに連れて参りますっ。」
「ふん、この分は取り敢えず貰っておこう。」
「ありがとうございます。」
「レイラは、ピアスを欲しがっているそうだな。」
陛下がピアスだけの方を差し出してきた。
「いえっ、いえ、私はただ、見るだけで良かったのです。」
「ふん、耳を出せ。 早く。」
「え、ええ、、 はい。」
断れず、髪を耳に掛けようとすると、私の手に陛下の手が重なった。陛下の指が、髪を掬いながら耳の後ろを掠める。肩に流していた髪は背中へと流され、僅かに残っている首筋の跡をなぞられて、心臓が壊れそうに速くなった。
「消えそうだな。」
どきっ と、その壊れそうな心臓が跳ねて、咄嗟に手で覆い隠した。
「ふん、」
耳たぶからピアスが外されて新たなピアスが下げられる時、吐息がかかって嫌でも意識してしまい 身体中から汗が吹き出た。
「 綺麗だ。」
ピアスの事だ。ピアスが綺麗だと、自分に言い聞かせた。この人は危ない。ぼんやりしてると心が持っていかれてしまう。
「、、 ありがとうございます」
「そういえば、例の、、、」
「え? 」
「、、、いや、何でもない。さて、俺はもう行く。レイラは部屋へ。ジュリは後を頼む。ああ、欲しければまた何か選んでもいい。」
「いいえっ、この前頂いたばかりですから!」
「そうか。ジュリは真面目だな。」
***マイク視点***
リサに頼む手紙を持って行くと、ちょうどサイラスが接客中で、何やら話していた。
「リサ、あのお爺さんは誰です?」
「あぁ、マイク、手紙持って来たのね。お爺さんって、、ああ、シンさんのことね? 装身具の職人さんでね、今陛下が興味を持たれているから、特別に取り引きしているところよ。」
「へぇ。」
顔の殆どが、長くて白い眉毛と髭で覆われていて、顔があまり見えないけど、上品な雰囲気を漂わせているお爺さんだった。
シンさんは、話が終った様で帰り支度を始めた。身体が動いた時、髪の隙間に覗く耳を見て、ぎょっとした。
見覚えのあるピアスが揺れている。
「リサ、あのピアス、凄く珍しいですね。」
「え? ああ、綺麗でしょ? シンさんが作っているのよ。」
「あの人が?」
「ええ。レイラさんも気に入っていたわ。」
「レイラが?」
その時、一瞬、シンさんがこちらを見た気がした。レイラの知り合いか?近くにあったとペンを握った。
シンさんが店から出るのを見計らって、
「リサ、ちょっと待ってて下さい。」
と、急いで追いかけた、
「あんまり待てないわよー。急いでね。」
リサは今から、シンさんの装身具を含めた商品をもって、王宮へ行くのだ。
シンさんにはすぐに追い付いた。
「ちょっと、すみません。」
「はて、何じゃろう。」
ゆっくりと振り向いた。
「ぶしつけですみません。聞きたいことがありまして、、、レイラをご存知ではないでしょうか?」
出来るだけ、声を潜めた。シンさんは一瞬動きを止め、眼鏡の奥から探るような目付きで俺を見た。
「あ、警戒しないで下さい、俺は、レイラと知り合いなんです。あの、もしかしたら、シンさんも、レイラの知り合いかと思って。」
「ほぉ、なるほどなるほど、では、知り合いじゃったらどうするんじゃ?」
「あ、ええと。レイラは今、王宮にいて、俺はその、、何か彼女の為に出来ないかと思っているんです。今日も、元気付ける為に手紙を届けようとしていて、、ええと、だから良かったら貴方も、、」
俺は紙とペンを差し出した。シンさんはそれを受け取りながら、まだ悩んでいる様子で、
「レイラは、、どんな状況で過ごしているのじゃろう? ご存知かな?」
と聞いてきた。俺はリサに聞いた通りに説明した。酷い扱いは受けていないが、部屋に監禁されている様だと。
シンさんはさらさらと、紙に何かを書いて寄越した。
「どうかこれを、渡して下され。」
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