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21 前半ジュリ視点

***ジュリ視点***


陛下がジェミューという女の子を献上された、と聞いた。しかも王妃の為のお部屋に住まわせているのだとか。何それ。とても気になった。


以前の陛下は私の事をとても可愛がって下さっていて私だけが時別なのだと思っていた。周りの人は誰も本気にしてくれなかったけど、私だけが本当の陛下を知っているんだと自慢だった。もしかしたら、なんて、淡い期待も抱いていた。


それなのに急に出てきたジェミューって、誰?


その後、エミリという世話係が歯向かって殺されたとか、陛下をたぶらかしただとか、いろいろな噂が流れた。皆、そんな女のお世話係にはなりたくなくて揉めていたけど、私はいつも仲間に入れて貰えないから、蚊帳の外だった。


私は陛下の事が心配で心配で、夜も眠れなかった。


けれどある日、陛下が、以前の様に話し掛けて下さった。


私だけ特別にお仕事を、それに居場所を下さった。


きっと仲間外れにされる私の事をずっと見ていてくれたんだ。


それに陛下のお部屋に出入りできるなんて、嬉しくて堪らない。


お世話することになったお嬢様は、噂とは違って、本当に可愛らしくて、くりくりとした丸い透き通った瞳は、いかにも汚れを知らないのだという感じで、たぶらかすなんて言葉は無縁だと、安心した。守ってあげたいと思った。


それに陛下が下さったこの居場所はとても居心地がよくて、私は大切に思った。


お世話をしながら想像で、陛下とお嬢様と私の3人を家族に見立て、私が母役なんて、とむずむずした。


**


朝、いつもの様にお嬢様の所へ朝食を運んだ。


部屋を開けると、お嬢様はすでに着替えを済ませていた。いつもは片側に流している髪が、両側に半分ずつ流してあって、なんとなく上気している様に見えた。瞬時に背筋がひやりと冷えた。こういう時の嫌な感じは、よく当たる。


持ってきた朝食を、ソファーの前のテーブルに置きながら、そうっと、その首筋を盗み見た。   心臓が止まりそうだった。


「お、お嬢様、、、 陛下は、、ここに、よく来られますか?」


「へっ!? どどどどうしてっっ? 」


「教えて下さい。陛下は、ここに来ますか?」


「え、ええと、と、とと時々、夜に、様子を見に、来るわ。」


「 夜に時々、、、」


唖然とした。泣きそうになった。


「え、 ジュリ?、どうか したの?」


お嬢様が、泣きそうな私の顔を見て心配そうに覗いてきた。


嫌だ、そんな目で見ないで欲しい。もっと惨めになる。


涙を堪えて、気持ちを必死で飲み込んだ。



「いいえ。何でもありません。冷めないうちに召し上がって下さいね。」


「、、、ありがとう。」


部屋を出た途端に涙がぽろぽろと落ちた。私はただの使用人で母役じゃなかった。分かりきっていたことなのに、、、。


だけど、陛下がお喜びになるのなら、私は陛下の為に尽くしたい。


居場所も失いたくはない。



***レイラ


陛下が忙しいと言っていた通り、ここしばらく、お昼にも戻って来なかった。


私は本を読みながら今のうちにシンの事をどうにか出来ないかと考えていた。

と言っても、部屋から出ることも出来ないのだから、頭が痛い。


あのピアスは間違いなくシンが作った物だった。それをあの商人が持っていたということは、、? 商人は何か知っているのだろうか。でも、くれた手紙はマイクからの物だけだったし、、、  


もう一度会うことは出来るだろうか。


出来れば陛下に気付かれない様に、、、


「ねぇジュリ、」


「はい、何でしょう?」


「この前来た商人の女の人の事なのだけど。」


「ええと、オリバー商会のリサさんですね?」


「ええ、きっとその人ね。そのリサさんて人、よく来るの?」


「はい。よく見かけますよ。別館の方によく出入りしています。」


「別館? そんな物があるの?」


「はい。建物はいくつもありますよ。リサさんがよく出入りするのは、3人の王妃候補の方が住まわれている建物です。」


「王妃、候補?」


「はい、陛下はまだご結婚なさっていませんから。」


「結、、婚、、?」


何だか分からないけれど、心がずしりと重たくなった。


だっていつも陛下は陛下だったから、結婚しているとか、していないとか、相手がいるとか、そんなこと考えもしていなかった。


この、もやもやした気持ちは何だろう、、、


「それで、リサさんがどうかしましたか?」


「あっ、そうなの、、この前のピアスがとても綺麗だったものだから、もっと見てみたくて。」


「そういえばあの時、陛下も仰っていましたね。見かけたらお声をかけてみますね。」


「あの、ジュリ、、陛下には、内緒で、、って、無理かしら?」


どきどきしながら聞いてみた。ちらりと見ると、ジュリはびっくした顔になっていた。


「 内緒、ですか? それはいけません。駄目です。私は陛下にお嬢様の事を報告しなければなりませんから、内緒には出来ません。


ええと、、お嬢様はいったい、何をお考えですか?」


「あっ、え、えっと、別に大した理由ではないのだけど、、、、欲しいのではなくて、ただ、見たいだけだから、、、その、」


「ふふ、なんだ。そんなことですか。お嬢様が欲しいと言ったら陛下はきっと喜んで買いますけどね。そういう事なら分かりました。陛下はお忙しいみたいですので、不在の時でもいいか、とは聞いてみます。あ、内緒でと言った言葉は聞かなかった事にしますね。」


ジュリはいたずらっぽく笑いながら言った。


「ありがとう。」


私は再び視線を本に移した。本はさっきからずっと、同じページを開いている。


気持ちが沈んでいくのを感じた。


ジュリとはずいぶん打ち解けてきたし、信用もしている。ジュリも、私の発言も聞かなかった事にしてくれるくらいは、情を持ってくれているのだろう。けれど、 それでもやはりここは陛下の手中にあるのだと、思い知った。


せめて行動範囲がもっと広がればいいのだけれど。ふと、本を持つ自分の腕を見た。


何か、出来ること、、、 何か、、、


水を出すことが出来る。炎も少しなら、、、


傷を癒せて、、 風も、、、


顔をあげると、ジュリは部屋を出ていこうとしているところだった。


「ねぇ、その別館って、窓から見える?」


「どうでしょうか。ちょっと見てみますね。」


ジュリが窓から外を見渡した。この窓は開かない様になっている。


「うーん、見えませんね。もっと右の方にあるのでしょうが、、お嬢様は王妃候補の方が気になりますか?」


「へ!? あ、ええ、少し、何となくね、、」


「お嬢様には関係ない人達ですから、大丈夫ですよ。」


窓辺に立って光を浴びたジュリの首で、細い鎖がきらり、とした。


「あ、そういえばジュリ、この間は陛下から何を買って貰ったの?」


その きらり、とした鎖はペンダントかな?と思って何となく聞いた。


「え? あ、秘密です。へへ。」


ジュリは笑いながら出て行った。

読んで下さってありがとうございます。

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